第10話「魔王」

待つのも受付嬢のおしごと⋯⋯そして戦いでもある。


こうしていまは祈ることしかできない。


ギルド所属の冒険者総出で“バジリスク”討伐に向かった。


逐一入ってくる情報によればバジリスクは計画通りノイドさんの罠にかかったとのこと。


だったらあとはーー


“バンッ”


扉が大きな音を立てて開いた。


『リュカさん!』


「ユウリくんッ!無事だったの⁉︎」


「他の冒険者さんたちは? バジリスクは? ノイドさんは?」


「討伐完了だよ」


「ノイドさんッ!」


「リュカさんとパドル君が作ったこの鏡のおかげだ」


「じゃあ!」


「もちろん役に立ったよ。身動きが取れなくなったバジリスクに鏡で反射させた太陽光を浴びせたら滑っとした皮膚がみるみる乾燥した。

おまけにやけどのダメージで剣や槍の物理攻撃がさらに効くようになった」


「パドル君来てよ。作った鏡どこも壊れていないし、役に立ったって」


「本当だ。よかったぁ」


「これで自信が持てるね」


「はい」


「バジリスクは他の冒険者が解体してこれから持ってくるよ。肉は調理して食べられるし、

骨は砕いて回復薬にできる。余すところなく使えるモンスターだ」


「それとノイドさんが尻尾を斬ったら剣が出てきたんだ」


「剣?」


「まるで聖剣だ」


「この剣って⋯⋯」


ノイドさんが取り出して見せてくれた剣には見覚えがある。


「グリップを外してください」


「わかった」


ノイドさんが慣れた手つきでグリップを外す


「やっぱり⋯⋯」


「おじいちゃんの花押だ」


「どういうことだ?」


「この剣の所有者は勇者ルーク・パラド」


「勇者⁉︎」


「これがバジリスクの体内から出てきたってことは犠牲者はルークと聖女リタ」


「聖女様?」


「やっぱりあの杖と魔鉱石はーー」


『魔王ルークは死んだようですね』


突然、女性の声が響いた。


「誰?」


ハッとなった。その女性はあまりにも見覚えがあった。


「聖女リタ!」


「突然失礼します。私は聖女リタの妹リリです」


「リリ? ってそれよりルークが魔王ってどういうこと⁉︎」


「勇者リュカ・ミティーネ。やはり覚えていないのですね。

無理もありません。ルークは300年前よりこの時代に転生してきた魔王だったのです」


「ルークが⁉︎」


「魔王の人格が目覚めたのが17年前ーー魔王はルークという少年に転生し、人格が目覚た瞬間、生まれ育った村を消滅させました。

そのとき目覚めた魔王を再び眠りに付かせたのが勇者リュカあなたです」


「私?」


「リュカさんにはユニークスキル“魔王無効化”が備わっていました。幼かったあなたはその能力を発動し、

魔王をいったん封印しました。記憶が無いのもその影響かと」


私にはルークと2人で燃え盛る村を見つめている光景が記憶に残っている。


アレはそういうことだったのか⋯⋯


「事件以降、魔王復活を知った国王様は魔王を封印する存在としてルークのそばにリュカさんを常に置くことにしました。

そして記憶を無くした魔王に魔王討伐を命じて王国から遠ざけたのです」


「そんな⋯⋯じゃあ魔王城も魔王軍も⋯⋯」


「ウソです。ただ魔王復活に呼応するように魔物が目覚めてしまったためついでに魔王自身に始末させようという国王のお考えでした」


「ひどい⋯⋯」


「そして困ったのが我が姉、聖女リタです。リタは優秀すぎる妹で大聖女にまでなったこの私に嫉妬していました」


「おいおい。自分で言うかな」


「ユウリくん”シーッ“だよ」


「リタは嫉妬のあまり闇の魔力に傾倒するようになり、愚かなことにリタは自分の魔力を高めて大聖女になろうと勇者パーティーに近づきルークと関係を持ちました。そして周りにリュカさんにはユニークスキルが使えない無能と信じ込ませてパーティーにリュカさんをいられなくしました。

まぁ、魔王の無力化なんてスキルピンポイント過ぎて日常のクエストではまったく役に立たないんで使えないのはたしかですけど」


「ちょっと!さっきからなんでちょいちょい私の悪口挟むの」


「魔王ルークと関係を持ったリタの魔力は私を超えるくらい強大になりました。しかし、それも自業自得。その溢れんばかりの魔力をコントロールできていないことに気づかなかったリタは、愚かなことにバジリスクなんて魔物を呼び寄せて餌食になってしまったのです」


「ルーク⋯⋯私、彼といるときだけは胸の奥が熱くなっていつも側にいたいとそう思っていました。こんな気持ちになるのは今も彼だけ⋯⋯」


「えッ!」


「そこの少年どうしました?」


「いや、なんでも」


「結婚していつまでもふたり末永くと約束したのに。こんな形でお別れなんてーー」


「泣こうとしなくていいですよ。それって恋とかじゃなくてリュカさんの勘違いです。胸の奥が熱いのはユニークスキルが発動していたから、いつもそばにいたいのは封印したいからです」


「は?」


「ほっ」


「今、胸を撫で下ろしましたね少年」


「ち、ちげーよ!」


「私は姉がしでかしてしまったことに後ろめたさを感じて勇者パーティーを抜けてからのリュカさんをずっと見ていました。もうこれで魔王にしばられる必要はありません。

リュカさんはリュカさんの人生を生きてください」


「よ、よくわからないけどありがとう」


「少年もライバル多いからがんばれよ」


「は!さっきからなんだよあんた!」


「リリさんもいい恋してね」


「大丈夫です。私、男性同士にしか興味ありませんから」


「ッ⁉︎」


「ここのシェフと少年の組み合わせなんかとくにおすすめです」


「ひえッ! はやく帰ってくれよ」


「帰った?」


「帰ったみたいだね」


「それじゃあ今夜は慰労会です!はりきって準備しますから楽しみに待っててください」


つづく


次回最終回

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る