第8話「武器屋の矜持」
『ここがうちのギルドと専属契約している武器屋だ』
「なんだか老舗って感じですね」
年季の入った看板には“ディランクラフト”と書かれている。
「リュカさん。王国でも勇者の剣を打ったとうわさの名店だよ」
「勇者⁉︎」
「どうしたんだい?」
「いや、なんでもないんですノイドさん」
⋯⋯まさかね。
***
「お邪魔するよ」
「まいど」
“カツカツ”と靴音を鳴らして店舗の奥から白髪角刈りのおじいさんが出てきた。
気難しそうでいかにも職人って感じだ。
「なんだリバートの倅(せがれ)か」
ギルドマスターですら若造扱いなんて。
迫力がすごいなぁ。
「今日は相談があって来た」
「お連れさんのか?」
「ああ」
「店主のジィード・ディランだ。よろしく」
「ノイド・グライドです」
「リュカ・ミティーネです。あの!ジィードさんが勇者の剣を打ったってうわさ本当ですか?」
「ああそれか⋯⋯本当かどうか俺には確かめようがねぇ。たしかに王宮の使いが来て剣を二振り用意したことはある。
だけどその先の使用者まではわからねぇ。勇者かもしれないし。王国騎士様かもしれないし、はてまたは国王様かもしれないし。
まぁ、誰がどう使うことになっても俺は折れにくくて、切れ味が落ちない。そんな剣を打つだけだ」
なんかカッコいい!
「まぁあれだ、茎(なかご)にこの店の花押が掘ってあったら俺の剣だな」
陳列されている武器に彫ってあるこのマークか⋯⋯
は⁉︎ 見たことある⋯⋯
「いい素材をしっかり吟味して、焼きの入れ具合も他と違った工夫がしてある。
粘りが出るようにな。あとは研ぎも使用者が無事に生き延びて帰ってくることを願って
丹精込めている。だから俺がつくったって印があっても罰(ばち)はあたらないだろ」
どうしよう⋯⋯そんな大切に作られたものを無造作に押し入れにしまっちゃったよ
勇者時代も木の枝に引っ掛けて洗濯物干したり雑に扱ってたぁ。
「どうしたんだ嬢ちゃん。顔が青いぞ」
「いいえなんでも」
「それで? 俺になにを打てって言うんだい。剣か?槍か?それとも盾か?」
「“かがみ”です」
「かがみっ⁉︎ かがみってあのかがみか」
「はいっ!」
「嬢ちゃん、自分の顔をそんなに眺めていたいならガラス屋にでも行ってくれ。
武器屋に頼むなんざありえねぇ。さっさと帰ってくんな」
「聞いてください。私がつくりたい鏡は“バジリスク”を倒す鏡なんです。
素材もひと味違います。見てください魔鉱石です」
「嬢ちゃんどうかしているんじゃないか? 魔鉱石つったら魔剣がつくれるじゃねぇか。
それを鏡にしろって言うのか? 本気か?」
「はい!」
「ハルク、こんな酔狂に付き合っているのか?」
「酔狂でもなかったら、わざわざこんなところに来ないさ」
「⋯⋯」
「ジィードさん、そこをなんとか」
「たく俺は鏡なんざつくる気にならねぇ。だけどまぁ、うちにはなまくらしか打てねぇ孫がいる。
そいつにやらせてみる」
「じゃあ!」
「おーい。パドル」
『はーい。どうしたのおじいちゃん』
「ほら、お客さんだ」
「ど、どうも⋯⋯パドル・ディランです」
か、かわいい⋯⋯
なんなのこの子⁉︎ ウェーブのかかった黒髪にくりっとしたお目々。
小柄だからツナギがダボっとしているのがなんともまた“そそられる”。
「お孫さんとてもかわいい女の子ですね」
「男! 僕、男です!」
「ご、ごめんなさい⋯⋯」
「聞いていただろ。これもなんかの修行だ。鏡を作ってみろ」
「はい。よろしくお願いします。気がついたら“剣”が出来上がっているかもしれませんががんばります」
うわーなんだか嫌そう⋯⋯
***
夜ーー
約束した酒場で今夜はノイドさんとふたりだけで慰労会。
「それで?なんとかうまくいきそう?」
「今日はパドルくんとデザインを考えるところまででしたけど今からいい武器ができる予感がしてます」
「それは楽しみだね」
「ノイドさんは私とパドルくんが話し合っている間、どこへ行っていたんですか?」
「リュカさんががんばっているから。自分もなにかできることないかってね。
バジリスクを捕らえる罠を作っていた」
「罠?」
「渓谷に誘い込んで、ロープで編んだ網に引っ掛けるんだ。素早いバジリスクの動きを封じれば、リュカさんの武器もより効果的になると思ってね」
「だけど、おひとりでその罠に誘い込むのは危険じゃあ?」
「ひとりじゃないよ」
「それって?」
「バジリスク討伐は公開クエストになった」
「こうかいクエスト?」
「つまりは冒険者ギルドに所属するすべての冒険者がバジリスク討伐に挑むのさ」
「なるほど⋯⋯だけどどうして急に」
「ギルドマスターさ。ハルクさんもディランクラフトを出たあとすぐさま公開クエストに切り替えた。
がんばるリュカさんを見ていたら居ても立っても居られなかったんだろうね」
「ギルドマスターが⋯⋯」
「なんやかんだでリュカさんを一番に気に掛けているのはハルクさんかも」
「そうですか? 私、いつもあの人のせいで大変な思いしているような気がしますけど」
「ハハッ。ハルクさんも苦笑いだな」
「それでもギルドマスターにはしっかり恩を返しますよ! こう見えても私、勇者だったんですから」
「やっぱりリュカさんは只者じゃないね」
「黙っているつもりはなかったんですがついつい言いそびれちゃって」
「“バジリスク”討伐一緒にやっていこう。乾杯!」
「乾杯ッ!」
つづく
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