第7話「ざまぁは突然に」
三日月が照らす大木の下、絶叫をあげた聖女リタは戦いを終えて勇者ルークの上で力尽きる。
一糸まとわぬ姿で重なり合うふたり。
勇者ルークはリタが肌寒い思いをしないように彼女の背中の上から一枚の毛布を掛ける。
「私って罪深い女よ」
「どうしたんだよ急に」
「だって私、ウソつきだから?」
「ウソ? なんのことだ?」
「リュカのこと」
「リュカ?」
「私、彼女にはユニークスキルを扱う才能は無いって話したけどアレはウソ」
「⁉︎ じゃあ!」
「はじめっから与えていないのユニークスキル」
「なぜそんなことしたんだ?」
「わからない? こうしてルークとふたりっきり一緒にいるためよ。
いっつもルークの隣にいて、戦いのときもルークと背中を預け合うそんな彼女が妬ましかった」
「リュカは幼馴染なんだ。リュカが俺の側にいることなんてあたりまえのことなんだ。リタが嫉妬することじゃない」
「だけど結婚の約束してたんでしょ?」
「それはリュカ以外の女を知らなかっただけだ。村の外に出たらいろんな女がいるって知った。
こうしてリタにも出会えた。それからの俺にはリュカは見えない空気と一緒だ」
「そう言ってくれるとうれしい。ねぇルーク。私がもし魔王の手先だったらどうする?
勇者パーティーを壊滅させるために送り込まれた」
「だったらそのときは俺が魔王になってやる。てか⋯⋯もうなっているか。他のパーティーメンバーまで粛清したしな」
「それはリュカがいなくなったからって勝手に士気さげてパーティーを抜けてった奴らが悪いでしょ。
魔王討伐の王命に背いたんだから粛清されるのは当然よ。ルークは悪くない」
「うれしいこといってくれるなリタ」
「いやん。ちょっとルーク。背中はズルい」
「は? 俺は何もしてないぞ」
「だって今、私の背中を舐め⋯⋯」
ハッとしたリタは咄嗟に振り向く。
そこにはイグアナ型のモンスター“バジリスク”が舌を伸ばしながら
ふたりに顔を近づける。
「(はやく杖を!しまった⁉︎ あんな遠くに⋯⋯」
”よだれをすする音“
「「ぎゃああああ」」
深夜の森に咀嚼音が鳴り響く。
***
「クエストの攻略方法を考える?」
「そうだ」
そう言ってギルドマスターはクエストが書かれた貼り紙をおいた。
「冒険者じゃなくて受付の私がですか?」
「そうだ。このクエストが冒険者ギルドに持ち込まれてから3ヶ月も経って未だに攻略されていない。
攻略困難なクエストの攻略方法を考えて冒険者に示す。これも冒険者ギルドの大事な仕事だ」
「クエストが攻略されないとどうなっちゃうんですか?」
「依頼主からの失望を買い、クエストが入って来なくなる。
死活問題だ。リュカにもギルドを出てってもらう必要がある」
「そんな!働きはじめたばかりなのに」
「だからだよ。口減らしをしないと私も破産だ」
「捨てないでくださいマスター!⋯⋯ここを追われたら住むところがなくなっちゃいます。グスン」
「喚くな。まだ仮の話だ。そうなりたくなかったら攻略方法を考えるんだ」
「あっ!そうでした。ところでどんなクエストなんですか? その3ヶ月も攻略されていない難クエスト」
「“バジリスク”の討伐だ。3日ほど前にも犠牲者が出た。依頼主は領主ミバ-ツ・メルロウ伯爵」
「バジリスク⋯⋯」
***
「犠牲者のだと思うが折れたマジックアイテムの杖が落ちていた」
「ノイドさんもバジリスク討伐の依頼を受けていたんですか?」
「以前にだけどね」
「そうなんですね⋯⋯」
「ギルドマスターに頼まれて引き受けたけどそのときは影すら見当たらなかった。そしたら犠牲者が出たって情報を聞きつけて、一目散に現地に行ったけど、ときすでに遅かった。血溜まりと犠牲者の衣類と壊れた武器だけが残されていた。責任を感じてるよ」
「それでこの杖を」
なんとなく見覚えが⋯⋯
「犠牲者はふたり。服装からして男女のようだったけど。女性の方は聖女様の可能性がある」
「え⁉︎」
この杖、聖女リタの⋯⋯ まさか⋯⋯
「これだけ大きな魔鉱石がくっついたマジックアイテムだ。使用者は高レベルの冒険者、しかも聖女様クラスじゃなきゃ合点がいかない」
「それだけ手強いってことかぁ。うーん。攻略なんてどうやって考えたらいいのよぉ。ギルドマスターもどうして私なのよぉ!」
「それだけギルドマスターはリュカさんに期待しているんだよ。僕もだけどね」
「期待なんてそんな⋯⋯」
どうしよう顔が熱くなってきた。
⁉︎
「そうだ。魔鉱石! このアイテムを使ってバジリスク専用の武器をつくりましょう!」
「武器?」
「そうです。以前にこのクエストにチャレンジした冒険者さんの報告書を読みましたがバジリスクの皮膚は弾力があってヌメっとしているから矢も槍も刺さらない。剣でも斬ることが出できなかったとあります」
「それで」
「だけど、長い舌で攻撃するからある程度、距離をとる必要がある⋯⋯
私、以前所属していたところで聖女がいて、聖女は魔鉱石に光を宿してその力を使って攻撃していたんです!そうだ光線! 光の熱で焼いちゃえばいいんだ!」
「⋯⋯」
「? ノイドさん目を丸くしてどうされたんですか?」
「いいや。やっぱりリュカさんはおもしろい女性だ。
君にはずっと驚かされぱなしだよ」
「はあ? でもこうなったら急いで武器を作らないと!」
「でもどうやって?」
「そうだった⋯⋯ノイドさん、武器ってどうやってつくりましょう」
「ハハ⋯⋯そうなるか」
『ギルド専属の武器屋がある』
「ギルドマスター!」
「ふたりともついてきなさい」
「はい!」
つづく
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