第5話「勝手口の向こう側」
「料理の味かぁ⋯⋯」
サソリとかヘビの串焼きを食べて過ごしてた私には料理長の料理はなんでもおいしく感じるよ。
そりゃあ私の制服も縮むわけよ。
ギルドマスターもなんでこんな私に相談したんだろ?
おそうじも終わったし朝食たべよう⋯⋯
そうだ! せっかくだから料理長がつくったごはんを食べさせてもらおう。
そうすればなにかアドバイスできるかも?
まぁ、カエル肉をご馳走だと思って食べていた私の味覚でよければだけど⋯⋯
「料理長!」
厨房をのぞきこんだ。
「アレ? 誰もいない?」
おや? 奥の勝手口が開いている。
行く? 行かない?
もちろん選択は“行く”
***
「料理長!」
⁉︎
「ウソ⋯⋯」
驚いた。
勝手口は冒険者ギルドの裏庭にはつながっていた。
そこは花壇に植えられた花で彩られていた。
「お花畑みたい⋯⋯あッ!この花はテーブルの上に飾られていた花だ」
どれも見たことがある。
いったい誰が育てているのかしら⋯⋯
「勝手に入ってくるんじゃねーよ」
「料理長⁉︎」
「なんだ新入りか」
「この花って料理長が育てているんですか?」
「んだよ。悪いかよ」
「別にそういうわけじゃあ⋯⋯」
「俺は花をいじっているのがいちばん落ち着くんだよ」
料理長の頬が赤くなった。
「俺ん家はアレなんだ。上も下もみんな女なんだ。
とくに姉ちゃん3人にはよくままごとの道具にされた」
「かわいい」
「はぁッ!」
「ごめんなさい。その花はなんていうんですか?」
「パンジーだよ」
「そっちは?」
「ゼフィランサス。あっちに植えたチューリップはもうじき芽がでるーー」
「お好きなんですね」
「お、おう⋯⋯あそこに咲いているのはポインセチアだ」
いつも厨房にいるときはツンケンした顔しているけど、
花の話をしているときの料理長は表情もほぐれて楽しそう。
「あッ! あっちにはタンポポが咲いてますね」
「あれはタネが勝手に飛んできてあそこに生えただけだ」
「ああ⋯⋯」
***
料理長のちゃんとした料理食べさせてもらったけど⋯⋯
味はとてもおいしい⋯⋯
だけどなんだろうな⋯⋯量が少ないような⋯⋯味が薄い?いや⋯⋯
お父さんは領主様お抱えのシェフって言ってたし⋯⋯
この街の領主様は伯爵。つまりは貴族様だしなぁ。
料理長も子供の頃食べたお父さんの料理の味に感動してそれを再現していると話してくれた。
『俺は親父の料理が王国イチだと思っている⋯⋯』
なんて照れ臭そうな顔しながらーー
だから変えたくないほど味へのこだわりが強い⋯⋯
『リュカちゃん、リュカちゃん』
「あッ!ユリナちゃん」
「さっきからボーッとしてどうしたの?」
「ごめんなさい!」
「さっきから常連さんが待っているわよ」
「あッ!ユウリくん」
「リュカさん、今日もイートラビィ倒してきたぜ!今日はなんと50匹!」
「へぇーだいぶ腕の筋肉の締まりも良くなってきたしすごいね。それじゃあ次のクエストは少しレベルあげてみる?」
「いや!まだだ!」
「え⁉︎」
「俺はイートラビィを狩りつづけるぜ。あいつを一発もはずさずに一撃で退治できればめっちゃ強え冒険者になれる気がするんだ。
今日は48連倒だったし、あと少し⋯⋯あと少しで俺は」
「なるほどねぇ。ところで他の2人は?」
「“ユウリはイートラビィ専門の駆除業者にでもなるの?“なんて言ってパーティーを抜けていった」
「ええっ⁉︎ リリムちゃんたちやめたの⁉︎」
「いいんだ。パーティーは解散させるつもりだったし、わかってねぇんだよリリムもボーダも強くなるってのは地道なことだって」
「そうだけど、ひとりってのも⋯⋯」
「心配にはおよばねぇぜ。俺にはリュカさんがついているから安心だ!」
「じゃあイートラビィをこれ以上乱獲したら絶滅しちゃうから。今度は近所のダンジョン学者の先生のところに行って書類整理を手伝ってきて」
「?⋯⋯それはなにを鍛えるクエストだ?」
「頭」
「は? ⋯⋯ああ、そうかわかったぜ。その学者先生のところへ行ってダンジョン攻略のヒントを得てくるんだな。
情報も冒険者にとって武器のひとつだからな」
「いってらっしゃい」
「人気のないクエストさばくなんて成長したね。リュカちゃん」
「ユリナ先輩のご指導のおかげです」
「ふーん。私ってそんなに腹黒いかしら?」
「ん?」
「戻ってきたわよ。常連さん」
「そうだリュカさん! もうちょいここの飯の量増やしてくれよ。
めっちゃ体を動かして帰ってくるからモリモリ食べたいし、精がつくもん食べてパワーをもっと回復してぇんだよ!」
「それだ!でかしたよユウリくん!」
「よくわからねぇけどマジかッ! おっしゃーッ! リュカさんの役に立ったぜ」
「待っててくださいギルドマスター! 私見つけました」
つづく
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