第4話「ひょっとしておいしくない?」

朝、冒険者さんが起きてモーニングを食べはじめる時間には必ず

テーブルの上に色とりどりの花が飾られている。


私が並んだテーブルを拭きはじめるころにはもう飾られている。


「こんな早朝に誰なんだろう?」


冒険者ギルドで働きはじめて1週間。


そろそろ気になりはじめた。


「リュカ」


「おはようございます。ギルドマスター」


「君に相談があるんだ。ちょっとこの席に座らないか」


「はい!」


「リュカはここに住み込みで働いてもらっている。朝昼晩の食事もここの料理を食べている」


え? なに? もしかして食事代はちゃんと払えって話? それ困るー!


「正直な感想でいい。ここの料理の感想はどうだ?」


「は?」


「おいしいかおいしくないか」


「あ!そうですね。うーん私はどちらかというと旅をしていたからふかふかのベッドで寝れて、

3食毎日食べれることに幸せを感じていたので味まではとくに気にしていなかったというか

強いていうなら可もなく不可もなく」


「他には」


「あ⋯⋯うーん、とくに印象に残らないというか⋯⋯あ!でもどの料理もサソリの串焼きに比べたら断然おいしいですよ! 

あれを毎日食べて過ごすハメになったときは魔王を倒すなんてどうでもいいからはやく帰りたいと正直思っちゃいました」


「聞く相手を間違えたかな?」


「ああ! そうだパン! 朝食のパンはとてもおいしいです。バターを塗って食べたときなんかほっぺが落ちそうになります。

あと珈琲も!」


「あれは仕入れているんだ。裏にある妹夫婦が経営しているパン屋から⋯⋯」


「そうなんですね⋯⋯」


「はぁ⋯⋯」


「あの、どうかしたんですか?」


「うちのギルドの料理の評判が乏しいんだ。けっしてマズいわけじゃない」


「だけどレストランってわけじゃないからそこはこだわらなくてもいいんじゃないですか?」


「冒険者ギルドの醍醐味は料理だと思っている」


「は⁉︎」


「難関クエストを終えた冒険者たちが開放感に満たされながら酒を片手に料理を食らう。

そして夜通しのお祭り騒ぎ⋯⋯私はあの光景が好きなんだ。だからギルドマスターをやっていると言ってもいい。

こんな光景、冒険者ギルドでしか味わえない。これこそが冒険者ギルドなんだと私は思っている」


「はぁ⋯⋯」


「だが、うちのギルドは他のギルドと比べておとなしいというか。どちらかというとお通夜なんだ」


「! それは深刻ですね⋯⋯」


「それで私も考えたんだよ。原因は料理じゃないかって⋯⋯誰もおかわりする姿を見たことない」


「なるほど」


「料理長には相談したんですか?」


「喧嘩になったよ。案の定ね」


「あれま⋯⋯」


「彼はもともと別の酒場で働いていたんだけど、向こうの料理長と揉めてね。

居合わせた私が引き取ったんだ」


「ギルドマスターって捨てられているものを拾ってくるタイプなんですね⋯⋯」


「本当に捨てられていて拾ったのはいま世話している猫とリュカだけだよ」


「あ、ありがとうございます⋯⋯」


胸になにか刺さった⋯⋯


「それはさておき、ケルトは自分の味にこだわりが強いんだ。それでなんども人と揉めている。

もしケルトの味に要望があったら言ってやってくれないか。濃いとか薄いとか⋯⋯」


「その女に求めてもムダだよ」


「⁉︎ 料理長」


「ケルト⋯⋯」


「こいつやたらバクバク食うから。あまりものを適当に混ぜた料理を食わせているんだよ。

だから俺の料理の本当の味なんて知らない。見てみろよ。ここにやってきたころより肥えてきてるだろうが」


「ええ⁉︎ 本当ですか!」


「おっさん、俺の料理の味が気に入らなかったらいつでもここをやめてやる」


「待ちなさいケルト!」


「洗濯で制服が縮んだと思ったら私が大きくなってたのね。なみだ⋯⋯」


「「そこ?」」


つづく



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