第2話「冒険者ギルド」

1日のはじまりはクエストが貼り出された掲示板の整理からはじまる。


庭の草刈りに犬の散歩、果てまたはダンジョンの調査、素材集め、

作物を荒らす害獣モンスターの駆除などクエストは様々だ。


「人気のないクエストは一番目立つところに貼ってーー」


この仕事をはじめてふと、勇者と冒険者の違いはなんなののかと考える。


「うーん」


やはり依頼主の違いだろうか?


勇者は王様からクエストを授かり、冒険者は困りごとを抱えている領民から

この冒険者ギルドを通してクエストを受ける。

こんなところだろうか。


「それにしてもゴブリン討伐のクエスト多いなぁ。里におりてきてまで悪さするなんてめずらしい。

山の中に食べる物がないのかしら」


床にモップを掛けてるとモーニングの珈琲の香りが鼻を喜ばせてくれる。


そしてこんがりと焼けたトーストの香り。


早朝は2階に泊まっている冒険者さんが一階に降りてきて

朝食を食べながらゆっくりとくつろいでいる。


この時間に窓辺で飲む珈琲が一番心を落ち着かせてくれるのよね。


癒し!


私もひと仕事終えたらいただこうかしら。


住み込みで働かせてもらっている分、ちゃんと仕事はしなくちゃね。


「料理長! 私にも珈琲!」


「そこのドリッパーに入れて温めてあるから自分でついでのめよ。新入り」


「はーい!」


料理長は私と同い年のケルト・ウタルくん。


切れ長の大きく鋭い目に、私も羨ましく思っちゃうほどの小顔。


ちょっとツンツンしているけどカッコいいシェフ。


! 気づいたらもうこんな時間⁉︎


そろそろギルドが開業する時間だ。


他の受付の女の子たちもやってきた。


外では冒険者さんたちも待っている。


「本格的な接客、今日からだったな」


「ギルドマスター!」


「まずは焦らず、担当する冒険者を見つけることだ」


「はい!」


「はじめにも言ったが自分の専属になった冒険者のランクが高いほど君の報酬もあがる」


「うんうん」


「だから、受付の子たちは担当する冒険者が成長するように親身になるんだ。がんばりたまえ」


「はい!」


***


閑古鳥⋯⋯


受付の窓口は全部で3つ。


私のレーンだけ人ひとりいない。


来る冒険者さんはみんな先輩ふたりの専属だ。


こんなに常連さんばっかりだったら私が担当する冒険者さん見つけるの無理じゃない?


となりのユリナちゃんが落ち込む私を見て苦笑い。


「リュカちゃん。辛抱よ。堪えていればきっとお客さんが来る。

私なんか忙しくてわけてあげたいくらいだけどこればっかりはどうしようもないね。

ごめんね」


フォローになってないわ!


あいかわらずかわいい顔して毒を吐く金髪縦ロールちゃんだこと。


もうひとつとなりのシンシア姉さんは笑顔を絶やさず

テキパキと接客をこなしているなぁ。


さすがギルドNo. 1受付嬢。


小柄で栗色のショートカット。

アクセントのピンクのリボンがかわいい。

私たちより歳下な印象だけどあれで30歳のベテランだからおそろしい。


「⁉︎」


『このクエストなんかどうだ?』


『ゴブリン退治かぁ』


『ボーダはどうだ』


『ユウリがいいなら僕もいいと思う』


掲示板の前で話をしていた3人組が貼り紙を持って私の前にやってきた。


「お姉さん、このクエストをお願いします」


お!はじめての冒険者。


だけど⋯⋯


並んだ3人は16歳ぐらいで幼なじみだろうか?

どう見ても駆け出し冒険者だ。


やんちゃそうな男の子に魔女っ子スタイルの女の子はヒーラーかな?

まじめそう⋯⋯もうひとりの男の子は引っ込み思案な感じ。


登録証を見るとやっぱり冒険者になって1ヶ月。

日が浅い⋯⋯


それでゴブリン退治って⋯⋯


そろそろ背伸びしたくなる時期だもんなぁ。


「どうしたんですか?」


「はやくしてくれよ」


「あーちょっと待って。うーん⋯⋯」


ゴブリンがこの時期、里に出て暴れているのはちょっと違和感があるなぁ。


さっきから私の経験と勘が騒いでいる。


「ねぇ、君たち」


「「「はい!」」」


「君たちがこのクエスト受けるのはまだはやいと思うの」


つづく


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