「無能ちゃんはさよなら」聖女のひとことでパーティーを抜けた女勇者は冒険者ギルドの受付嬢からやり直す
ドットオー
第1話「無能ちゃんはさよなら」
腰のあたりまで伸びた長い髪をうしろで束ねてキュッとポニーテールに。
笑顔をつくるのも忘れてはダメ。
『いらっしゃいませ。ようこそ冒険者ギルドへ』
私、リュカ・ミティーネは幼なじみルーク・パラドと勇者として魔王を倒す旅をしていた。
きっかけは私とルークが生まれ育った村が魔王配下の魔物たちに襲われて壊滅したことからはじまる。
生き残った私たちは王様から魔王討伐の勅命を受けて勇者となった。
魔王城をめざす旅をはじめたころは私とルークの2人だけだったけど、
またひとり、またひとりと仲間が加わっていきパーティーは5人にまでなった。
旅をはじめてから2年が経過したころ、聖女のリタが6人目のメンバーとして
パーティーに加わった。
聖女リタが加入したことをきっかけにパーティーの空気がガラッと変わる。
“ユニークスキル至上主義”
聖女リタの能力によってメンバーひとりひとりにユニークスキルが与えられた。
ただひとりを除いてーー
『ユニークスキル発動! 炎環連撃斬(ゲートファイヤーインフェルノ)』
「すごい⁉︎ あんなに苦戦していた幹部級の魔物をルークがあっさりと⋯⋯」
震える手を見つめるルーク。
「これがユニークスキル⋯⋯」
このときのルークの表情は新しい力に魅了されているようだった。
私たちのパーティーは魔王城に近づくにつれて次第に強くなっていく魔物に苦戦を強いられていた。
それがリタがもたらした“ユニークスキル”によって魔物討伐がサクサクと進むようになったのだ。
加速するパーティー内の“ユニークスキル至上主義”
ついにこの日がやってきた。
「リュカ、話があるんだ⋯⋯」
「どうしたのルーク?」
「この先、ユニークスキルがないとキツイ⋯⋯」
「⋯⋯そのようね⋯⋯うすうすだけど私も感じてた」
「お前にもリタから授かったユニークスキルがあるはずだ。なのにいっこうに発動する気配がない。
リタに言わせればリュカ、おまえにはユニークスキルを扱う才能がないそうだ」
「才能⋯⋯そうか⋯⋯私ってこんなにダメダメだったのね」
「落ち込むなよリュカ。柄でもないぞ」
「ルーク⋯⋯」
「話終わった?」
「リタ⁉︎ まだだ、これからだ」
「はやくしてぇ」
「待ってくれ。伝える順序がある」
「さっさと言えばいいじゃん。パーティーから出てってくれって」
「おいリタ⁉︎」
「ルークいいの。覚悟できていた。言って。ルークの言葉で聞きたいの」
「俺は迷っているんだリュカ。お前とは幼なじみ⋯⋯それにーー」
そう、私たちふたりは愛しあっていた。いつか魔王を倒したら結婚しようと誓い合った。
それは旅に出てはじめての野宿。
星空を見つめながらふたり同じ毛布にくるまってした約束。
「ルーク⋯⋯」
『私たちできてるの』
「⁉︎」
「リタ!」
「どういうこと⋯⋯」
「すまん! いつかちゃんと話すつもりだった」
「そういうわけよリュカ」
そう言っておもむろにリタはルークの頬にキスをした。
「⁉︎」
「だから“無能ちゃんはさよなら”」
***
『うわああーん』
放心状態で街を彷徨っていた私は気づいたら居酒屋に入って
めったに飲まないお酒を口にしていた。
「聞いて! それでね!それでね!」
そして店のカウンターでたまたまとなりの席に座っていた
渋いおじさんにめちゃくちゃ絡んでいた。
「なにが聖女よ! ただの悪女じゃない! 私のルークにきやすく抱きついて
チューまでしちゃってさ! 私なんかルークとどこまでしたと思っているの!
はっ! あの勝ち誇ったリタの顔! そうかもうしちゃったんだぁ」
「お嬢ちゃん。さすがにそこまでにしたらどうだい?」
「舌まで入れたチュー」
「は?」
「ルークにせがまれたけど私は恥ずかしくてそこまでできてなかったのにぃ。あの女はきっと」
「いろんな女性を泣かしてきたおじさんもさすがにいまのは“カクッ”となったよ」
「これからどうやって生きてこう。剣を持って戦うことと。ルークのお嫁さんになることしか考えていなかった⋯⋯」
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「ゆうしゃりゅか・みてぃーね⋯⋯グスン。この名前を聞いたらちゃんと頭をさげなさい。さっきから頭が高いのよぉ」
「やれやれ⋯⋯それじゃあリュカ。私のところで働かないか?」
「え?」
***
夜通し私に付き合わされた渋いおじさまの正体は冒険者ギルドを経営するギルドマスターだった。
勇者になってからずっと愛用していた装備をひとつひとつ外して新品の制服に袖を通す。
こうして脱勇者した私は冒険者ギルドの受付として人生を再スタートすることになった。
『駆け出し冒険者様ですね。どうぞこちらへ』
つづく
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