5-23 フォースリム解放隊と方針転換
「『フォースリム解放隊』。リーダーの名前は『トラッド』。」
「目的は『フォースリム家の打倒』。構成は100人くらい?」
「でもやることはまだ小さい。」
「フォースリムの悪行を演説することくらい。」
「あとはパーティでダンジョン行くくらい?」
「でもトラッド本人はあまり来ない。」
「つまりダンジョン前を監視していたのは有能そうな人のスカウト?」
「ん。そう。」
「レナ達は若いからスルー。」
「まぁそれはそうだろうな。」
「でもそれならあの連中がダンジョンの何かに関わってても不思議じゃないんじゃない?」
「んー。お金が必要。」
「素材を集めてる。」
「だからダンジョンに何かするわけがない、と。」
「ん。領主には目障りだけど。」
「素材がないと困る。」
「だからちょっと不穏でもそのままなのね。」
「ん?それならダンジョン封鎖なんてしたら、その連中が黙ってないんじゃないか?」
「ん。それはあり得る。」
「けど、すぐじゃない。」
「そうか・・・。まぁ直接関わることはないだろうけど、結局ダンジョンの異変ってのが何かも分からないな。」
「あのダンジョン自体『モンスターハウス』の集まりのようなものだしねぇ。ルナ、レナ、その『フォースリム解放隊』がお金集めて何しようとしてるのか分かる?」
武装蜂起はダンジョンの所有権がシルファリア国王にある時点で現実的ではない。
ありえるとしたらフォースリム領主を捕らえて、フォレストリアかシルファリアに訴えることだろうか。
「ん。力をつけて大きくなる。」
「それで街での発言権を得る。」
「流行っていないダンジョンの利権を独占して領主を脅そうってとこかしら?」
「ん。多分そう。」
「トラッドには何か不思議な力があるらしい。」
「不思議な力?どんなのか分かるか?」
「ん。パーティが一緒だと強くなりやすい。」
「あとジョブに縛られないスキルを使う?」
「それって・・・。」
「ああ。ジョブに縛られないスキルってとこは、【遊び人】とか【技能士】【雑用士】みたいだな。」
だが【技能士】【雑用士】には『パーティメンバーを強化する』とか『パーティメンバーの獲得経験値を増やす』などの効果を持つスキルはない。
【遊び人】には【職業訓練】があるが、もし持っているならばもっと稼げているはずだ。
「流石に【ジョブマスター】ってことはないよな?」
「ん。転職50回は無理。」
「転生者で【遊び人】でも普通はきっと心が折れる。」
「なんか普通じゃないって言われてる気がするんだけど?」
「ん。普通じゃない。」
「レベル上げはその代表。」
わずか半日で4次職のレベルを上げ切り、5次職もレベル42にするのは確かに異常だ。
「あはは。確かに、感謝はしてるけど、レベル上げに対する執念みたいなものは異常と言えるわね!」
「ん、鬼畜。」
「レベルジャンキー。」
「相変わらず言い方がひどい・・・。」
若干認めている部分もあるため強くは言えないカイトだった。
「ねぇ、カイト。」
フェリアがやや真剣な口調でカイトに問い掛ける。
「ん?どうした?」
「あのね、私達がこうして5次職になって力を手に入れたじゃない?これからどうする予定なのかなって。」
「そうだなぁ。フォースリムダンジョンでひたすらレベル上げってわけにも行かないよな。何か考えがあったりするの?」
「うん。まずカイトが前に言ってた土地を手に入れる件を真剣に検討し始める時期なのかなって。今ならランク4ダンジョン、もしかしたらランク5ダンジョンでも攻略出来るでしょ?」
「リベンジはまだ達成してないけど、ランク4なら多分大丈夫だろうな。全員が複数ジョブになったわけだし。」
「そう。少なくとも確実にランク3ダンジョンはクリア出来る。これは街を作れるだけの権利を手に入れるってことになるの。」
「街・・・か。ちょっと大袈裟だよなぁ。」
仲間が4人しかいないのに街と言われても想像もつかないだろう。
「でも考えないといけないことなのよ?ダンジョンを手に入れてしまえば、他の国のダンジョン圏内に入ることは出来なくなるんだから。」
「あ・・・。」
そう。
ダンジョンの所有者及び所有者から管理を任されているもの、そしてその後継者たちは、ダンジョン権利者と呼ばれ、他のダンジョン圏内に進入すると、そのダンジョンのダンジョン権利者に『外敵侵入』として通知されることになる。
カイトはただ漠然とダンジョンを攻略して土地を得るとだけ考えていたので、そこまで考えていたわけではないのだ。
以前話し合った時、建国だとか隠れ里だとかは話していたが、あの時点ではあくまで夢物語。
実際に5次職、ランクで言えば5に相当するジョブにまで成長することが出来た状況となれば、夢物語で終わらず、より現実味を帯びてくる。
「何も考えずにダンジョンを攻略してしまえば今以上に生きにくくなるってことか・・・。確かに現実的に宵闇の森を探索できる力がある今なら、ちゃんと考えないと行けないよな・・・。」
宵闇の森が忌避される理由は、魔物が出ることそのものよりも、ランクの高い魔物が多数出現することだ。
ランク3相当の3次職までしかいない今の世の中では、ランク5相当の魔物が出た時点で全滅だろう。
逆にランク5相当のカイト達ならば避ける必要がなくなっているとも言える。
【リターンポイント】などもあるので万が一ランク6相当の魔物が出現しても逃げるだけなら出来る。
「となると・・・、まずダンジョンを手に入れるべきかどうかから考えないとだな?あの時とは状況も違ってるし。」
アルマリアと会って話をしたことにより、ダンジョンを手に入れる動機はかなり下がっている。
「でも力を見せてしまえば利用される可能性は変わってないわよ?むしろ5次職、いえ4次職だけでも相当な情報で、しかもカイトにはそこまで到達させる手段があるんだもの。」
「そうだなぁ。少しだけなら手助けするのもやぶさかでもないんだけど。全員対応するのは面倒だな。」
「それに他者を転職させられるのがカイトしかいないのも問題なのよ。下手に4次職を増やしても次代がそうなれる方法がないと危険なだけだわ。」
いつ、どうやって、基本4次職の情報と転職方法が失われたかは全くもって分かっていない。
「今は今で、3次職だけで成り立っているんだから、無理に4次職を広める必要もないけど・・・。ゴーストみたいな例もあり得るからなぁ。」
「実際私達がゴーストみたいになっても不思議ではないのよ?実際今ならこの国を制圧することだって出来るはずよ?」
「ん。国盗り?」
「建国より楽?」
「そんなことしないって・・・。でもそうだな。まずは何で転職方法が無くなったかをはっきりさせないと、何をするにも動けないか?」
カイト達の特異性は今はパーティ内と極一部にしか知られていない。
4次職を広められれば、この国はもっと豊かになるはずだが、広まってしまえば他国との戦争にその力が使われる可能性だってある。
「あ、そうか。民間では失われていても王家とか高位貴族にはまだ残ってる可能性もあるんだ。」
「それは・・・なくもないわね。あったとしても当主とその後継者とかかなり少ない人数でしょうけど。」
権威を保つには何かしら特別なものが必要だ。
「でもそうだとしたらフェリアが追放されるのもおかしな話にはなるよなぁ。」
「転職条件と成長条件はカイトの【職業情報】で分かっただけだから、希少職については知られていない可能性はあるわよ?今のはあくまでも基本4次職と転職方法のことだけ。マスターしないと転職出来ない【職業斡旋】のような方法なら、希少職は使えないでしょう?」
「そう考えることも出来るな。転職方法か・・・。」
「ん。出来る。」
「【スキル付与】。」
レナの言う【スキル付与】は【攻撃魔法士】と【工芸士】を前提とする【魔道具職人】のスキルだ。
○【スキル付与】:制作物に自身の持つスキルを付与することが出来る。付与できるスキルはその制作物の形状・品質により決定される。
「確かに形状とか品質とか色々試せば可能かも知れないな・・・。」
「そうなるとやっぱり『なぜ4次職は失われたのか』と『王家などは把握しているのか』をしっかり調べないと危険ね。」
「あとはずっと隠して生活するかだな。幸い金はもう十分あるから何とでもなるし、今も似たようなもんだろ?」
「カイトがそれでいいならそれもありではあるけど・・・。そんなことは思ってないでしょ?」
「まぁな。孤児院でお世話になった身としては、出来る範囲で、希少職で困ってる人なんかへ手助けしたい気持ちはある。」
「それはルナも。」
「もちろんレナも。」
「もちろんカイトに助けられた私も同じ気持ちよ。」
「よし、そうだな。まずは出来ることからやろう!」
「何か思いついたの?」
「最終的には、フェリアの親父さんに直接聞く!だけどその前にいくつかやれることをやろう!」
「お父様に・・・。確かに何か知ってる可能性はあるわね。」
「だろ?でも、それを聞くと言うことは、国の禁忌に触れる可能性があるってことだから、その前に準備するんだ。」
「ん?」
「どんな?」
「とりあえずの目標は宵闇の森の探索だ!けどその前にやらないと行けないことがあるから、まずはフォレストリアだな。」
転職方法が失われた世界で【遊び人】になった俺は【賢者】にはなれないのだろうか rasen @nadis
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