5-22 フォースリムダンジョンの異変
カイト達はややゆっくり目にフォースリムダンジョンを進めていた。
【雑用士】の成長条件である『過去10回と違う方法で討伐する』は、第10波のみ【攻撃魔法士】と【育成士】をマスターすることで解放される【雷魔術士】の【サンダーレイン】という、【シャイニングレイン】と同等の威力で、別属性のスキルで倒すことで易々とマスターすることが出来た。
【雑用士】の経験値10倍が生きた形だ。
【雷魔術士】の他にも【魔法士】系と生産職を前提とする魔術士系が数多く存在した。
そしてそれらの中で特に戦闘に向くジョブは、レッサーデーモンが使ってきた魔法を内包するジョブだった。
【料理人】と【攻撃魔法士】が前提の【火魔術士】。覚えるスキルは【火属性強化】【クリメイション】【インフェルノ】。
同じく【料理人】と【回復魔法士】が前提の【氷魔術士】。覚えるスキルは【氷属性適正】【アイスコフィン】【ダイヤモンドダスト】。
そして【攻撃魔法士】前提で【建築士】との組み合わせが【土魔術士】で、スキルは【土属性強化】【ピットフォール】【アースクエイク】。
【栽培士】との組み合わせが【水魔術士】で、スキルは【水属性強化】【ウォーターフォール】【タイダルウェーブ】。
【採取士】との組み合わせが【風魔術士】。スキルは【風属性強化】【ウィンドエッジ】【トルネード】。
【育成士】との組み合わせが前述の【雷魔術士】。スキルは【雷属性適正】【サンダーボルト】【サンダーレイン】。
【メイジ】の【リフレクション】に相当する魔法をランク4魔法、【シャイニングレイン】に相当する魔法をランク5魔法とすると、ランク4魔法は全て単体攻撃、ランク5魔法は全て全体攻撃だった。
【属性適正】系のスキルは【属性変換】にその属性を加え、【属性強化】系のスキルはその属性を単純にやや強くするスキルだ。
【雑用士】が無事【万能士】になってからは、二つの【スキルスロット】でランク5魔法を使い回し、段々とレベルの上がっていく5次職と【メイジ】のステータスのおかげで、【器用貧乏】も苦にすることもなく、第40波まで進むことができた。そして、その時点でフェリア達の目標となる基本4次職に転職した。
【万能士】は第37波を終えた時に【ジェネラリスト】となり、第40波を終えたらレベル50に。
【職業訓練】の効果を強く実感することになった。
1.5倍ほどの効果があるようだ。
5次職はレベル42となり、上がりにくさはあるものの、3つ目のスキルを習得した。
【リクルーター】の【マルチワーク】、【スキルマスター】の【ギブスキル】、【エレメンタルマスター】の【精霊共鳴】、【オールラウンダー】の【ルーチンワーク強化】。いずれも有用なスキルだ。
「よし、明日は新しいスキル、特に【精霊魔法】と【精霊共鳴】を検証して、そのままレッサーデーモンにリベンジだな!」
ダンジョンの待機場所に戻ってくるなり、そう言って、意気軒昂にダンジョンの外に向かって歩き出した。
そのリベンジが果たされないことは知らないままに。
ー▼ー▼ー▼ー
「おい、貴様ら!」
カイト達が外に出ると不意に声をかけられた。
ふとそちらに目を向けると鎧姿の男がそこに立っていた。
「なんでしょう?」
「いやに若いな。ダンジョンからの帰りか?」
「そうですが・・・ご用件は?」
偉そうな態度の兵士に対して、無礼になりすぎない程度の受け答えをする。
「現在ダンジョンに異変が生じている。その原因を調査中だ。何か心当たりはないか?」
また異変か・・・と思いながらカイトは答える。
「いえ、特には。どのような異変なのですか?」
「それは言えん!とにかくダンジョンから出てきたのは今のところ貴様らだけだ!記録するからパーソナルカードを提示しろ!」
パーソナルカードを提示することは出来ない。
職業欄のこともあるが、それよりもフェリアのことがあるからだ。
流石に末端は知らないだろうが、ダンジョンの調査をしているのならば、領主の息が掛かっているのは間違いないだろう。
「お断りします。」
「ほう。誰に向かって言ってるのか分かってるのか?!」
「いえ、名乗りをして頂いておりませんので、貴方が誰なのか存じ上げませんが?そんな相手にパーソナルカードを提示するはずがないでしょう?」
出てくるなりこの状況だ。
兵士の名前なぞ知るわけがない。
パーソナルカードは個人情報の塊だ。
買い物をする時見られたりすることはあるが、気をつければ防げる。
それに相手の職業を知ることが、犯罪行動につながる場合もある。
例えば【算術】を持たないことが分かれば、複雑な計算で煙に巻いて詐欺を働いたりなどだ。
やりすぎればカオスに堕ちるが、殺人などでなければ、実際はそこまで厳しくはない。
「貴様ぁ!フォースリム家筆頭騎士のバートレット様を知らないだとぉ?!」
「ええ、存じ上げませんでした。最近この街にきたばかりですので。」
筆頭がこんなところで単独で調査をするものなのだろうか?と疑問に思いながら応えるカイト。
『カイト。フェルムだよ。フェリアから伝言。この男は領主の息子だって!』
するとフェルムから伝言が伝えられる。
精霊は声を聞ける相手を選択できるのでこういうことも出来るのだ。
(よりにもよって領主の息子かよ。まずいな・・・。)
フェリアの名前を知っている可能性も否定できない。
髪の色も変えているし、フォレストリアの名前も消えてはいるが、顔立ちなどから類推される恐れがある。
変装リングの存在くらいは知っている可能性もある。
「ルーナ。フィーを連れて先に帰っててくれ。こっちの対応は俺がするから。レーナもな。」
咄嗟に偽名を使って指示を出す。
「ん。分かった。」
「気をつけて。」
そう言って歩き出す3人。
「貴様っ!何を勝手なことをっ!」
「もうすぐ暗くなりますし、ダンジョンのことについて聞くだけなら私だけいれば問題ないでしょう?」
【職業体験】で【戦士】を指定しながらそう応対する。
「それは貴様が決めることではないっ!」
「領主様の筆頭騎士であるバートレット様が、暗くなるまで女性達を留め置いたとなると、噂になれば好ましくはないでしょう?ここで帰せば紳士的だったと言うことになるのでは?」
「それはっ!・・・まぁそういう考えもあるか。」
なんとか言いくるめることに成功したようだ。
「それで、異変について話せないということであれば、私から特にお話しすることはないのですが、他に何かありますか?」
「こほんっ!重大事により細かいことは秘匿されている!まずはパーソナルカードを提示せよ!」
「それは私達が何か疑われていると言うことでしょうか?この通り若輩なもので、そんな重大事を引き起こすようなことは全く心当たりがないのですが?」
【戦士】と表示されたパーソナルカードを見せながら、疑われるのは心外とばかりに言葉を並べる。
むしろ大量にモンスターを討伐して領主の懐を暖めているはずだ。
それ自体が重大事と言えば重大事なのだが。
「15歳か。ふんっ。まぁいい!確かに貴様のような若造が大それたことなぞ出来るはずもないな!ただし!明日からしばらくはダンジョンは立ち入り禁止になる!そのことは留意しておくように!」
「そうですか・・・。分かりました。それでは失礼します。」
何とか誤魔化し切れたと安堵しながらカイトも宿へと帰った。
ー▼ー▼ー▼ー
「とまぁ、こんな感じで乗り切ったよ。」
「お疲れ様。私も顔は知らなかったけど名前だけは聞いてたから、何とか切り抜けられてよかったわ。」
「ん。傲慢。」
「うるさかった。」
「それにしてもダンジョン立ち入り禁止って、領主がそんなことして大丈夫なのか?ここは流行ってないから影響は少ないだろうけど、その日暮らしの攻略者なんかは困るだろ?」
「んー、普通はありえないわ。普通なら不満が爆発して大変なことに・・・って、あのいつもいる連中は大丈夫なのかしら?」
「むしろあの連中が何かしたってこともありえるのか?」
「んー。それはない。」
「リーダーが慎重。でも理想主義者。」
「ん?調べてたのか?」
「ん。【ルーチンワーク】。」
「ついでに情報収集。」
「なるほど。」
アルマリアについて調べた時と同様に【集中】や【聴覚強化】【気配隠蔽】などを使いながら調べたのだろう。
「それは助かるよ。それじゃ今分かっていることを教えてくれるか?」
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