5-16 レッサーデーモン

 「ちょっとエンシェントレイスの止めの刺し方を考えないといけないわね。」


 【シャイニングレイン】は実はエンシェントレイスにあまりダメージを与えていなかったようで、第42波から第45波を戦ううちに使用した2度目以降の【シャイニングレイン】では止めを刺すことが出来なかった。


 「【シャイニングレイン】の効果がそこまで小さいとはなぁ。魔法防御がすごく高い?使うならチャージをしっかりするか他のバフを乗せて完全に防御を抜くかかな?」


 開幕のチャージした【シャイニングレイン】はそれなりにダメージを与えているようにも見えるので、戦いながらチャージする方法もなくはないだろう。

 カイトが攻撃することが出来なくなるが。


 2.2倍の【シャイニングレイン】ならダメージを与えられると言うことは、一定攻撃力以下の魔法攻撃はダメージを無効化してしまう可能性がある。


 「ん。反省会は後。」

 「進む?戻る?」


 「そうだなぁ。次で恐らく最後のモンスターの種族が分かるんだよな。」


 獲得マナゴールド量は第41波からも変わらず波を越える毎に50,000追加されている。

 第46波は合計800,000の予定だ。


 ここまでの合計はおよそ7,000,000マナゴールドにまで及び、第50波で終わりだとするならば、ダンジョンクリア1回につき12,000,000マナゴールドを超える計算になる。


 合計800,000マナゴールド分のモンスターを出現させるには、恐らく所持マナゴールドが4桁のランク4モンスターを80体から800体用意する必要がある。

 強力なランク4モンスターの小さめの群れを、ランク3モンスターの大群で埋めて合計額に到達するようにしている場合もあるが、カイト達にとってはランク3モンスターはものの数ではない。


 「傾向が変わるとすれば、ランク4モンスター、それも強力なのが数多く出ると思う。」


 第26波から第35波までは『魔法士殺し』。

 魔法耐性が高く、生命力も高いモンスターが多かった。


 第36波から第45波までは『近接殺し』。

 魔力を使用した攻撃でないとダメージを与えられない上、空中で戦う幽体系モンスターが続いた。


 近接殺しが続く可能性はあるが、第46波からはボスまでの最後の関門。

 傾向が変わる可能性は十分にある。


 「ランク4モンスターが数百体いると仮定するとして、まずそれに耐えられるかよね?」


 30分耐え切ればタイムオーバーとなり、ダンジョンから退出させられる。

 逆に言えば30分耐えることが出来れば生還できるとも言える。


 「耐える前提なら【ダークイロージョン】を主力にするとして・・・。新しく出現した4次職のスキルはまだ試せてないし、把握し切れていないんだよな。」


 【職業情報】と【スキル情報】で大体の効果は分かるが、ウェーブ間は5分しかないので細かい検討をする時間もない。


 「今まで通り、【パラディンガード】を始めとした防御力アップ系スキルで耐えることは出来ると思う。」


 カイトは4次職のステータスを複数持っている。

 ランク4モンスターの攻撃ならばそれなりに耐えることが出来るだろう。


 ただ、フォースリムダンジョンはランク4ダンジョンだ。

 4次職になったカイト達なら理解できるが、ダンジョンのランクと職業のランクはほぼ一致していると言える。


 つまりこのフォースリムダンジョンは4次職が適正のダンジョンなのだ。


 そのランク4ダンジョンの終盤。

 4次職レベル60を超えていても危険な状態に陥る可能性は十分に考えられる。


 「心配なのは範囲攻撃を連発される場合だな。【マジックバースト】クラスなら問題はないけど【シャイニングレイン】や【ダークイロージョン】レベルだと不安だ。」


 すでに【ダークイロージョン】はノースビーストリムのエンシェントレイスが使用した実績がある。


 「ん。全力ならいける。」

 「とりあえず戦う。」


 「そうね。後先考えずに攻撃すれば倒せないこともないでしょうし、カイトは防御主体で、私とルナとレナで倒すことに専念すれば行けないこともないと思うわ。それに危険はあるかも知れないけど逆に言えば適正範囲ではあるはずでしょ?」


 4人しか入れないダンジョンに4人の4次職。

 そのうち一人は複数の4次職を持つ。


 「そう言われたら確かにそうだなとしか言えないな。まぁ無理して攻撃の深追いだけはやめてくれよ?」


 「ん。当然。」

 「ヒットアンドアウェイで戦う。」


 「基本的に【コンデンスレーザー】で狙撃するわ。」


 「了解だ。それじゃ時間もないし行くぞ!」


ー▼ー▼ー▼ー


 「ダメージがでかい!絶対に深追いはするな!!」


 大苦戦である。


 「フェリアはフェルムの【エレメンタルフィールド】からは絶対に出るなよ!」


 数が多いし、個体は強い。


 「ルナとレナは魔法に注意してヒットアンドアウェイで1体ずつ確実に削ってくれ!」


 そして魔法攻撃も多い。


 「フェリアはルナとレナのどちらかが狙っているのを優先的に狙撃してくれ!」


 さらにタフである。


 幸いカイトのタンクにはまだ余裕があるし、【挑発】は有効なため、範囲攻撃以外は全てカイトを狙っている。


 ただしレッサードラゴンのように包囲しているモンスターだけでなく、その周辺にいるモンスターからも容赦なく魔法が飛んでくる。


 出現したのはレッサーデーモン。

 ランク4モンスターで、レッサードラゴンと並ぶ脅威として恐れられている。


 近接攻撃も魔法攻撃も得意で、耐久力もある厄介なモンスターだ。

 唯一の救いは魔法攻撃がほとんど単体攻撃であることくらいだろう。


 それが160体で構成されているのが第46波だ。


 飛んでくる魔法もえげつない。

 【マジックボール】をランク1、【マジックアロー】をランク2、【マジックバースト】をランク3とするならば、【リフレクション】や【ダークミスト】と並ぶランク4魔法だ。


 火属性の【クリメイション】。

 水属性の【ウォーターフォール】。

 土属性の【ピットフォール】。

 風属性の【ウィンドエッジ】。


 基本4属性以外も存在する。


 雷属性の【ライトニングボルト】。

 氷属性の【アイスコフィン】。


 中でも厄介なのが【ピットフォール】と【アイスコフィン】だ。


 【ピットフォール】は対象の足元に穴を作って落とす魔法。

 【アイスコフィン】は対象を氷に閉じ込めて動きを封じる魔法。


 それらの魔法を、一身にターゲットを集めているカイトに使われたら、一気に戦線が崩壊する恐れがある。


 実際にそれは起きた。

 【ピットフォール】には土属性精霊のカルムが土を持ち上げることでカイトを引き上げ、【アイスコフィン】には火属性精霊のガルムが凍結が始まる寸前に溶かすことで対処して事なきを得た。


 【ピットフォール】は一瞬だけ穴が開くだけなので、その瞬間に回避すれば落下は防げる。

 【アイスコフィン】も同様に、凍結しようとする瞬間に回避すれば逃れられる。


 ガード不可は厄介だ。

 避けてしまえば後ろに魔法を通してしまう可能性があるし、戦線がずれる可能性もあるからだ。


 「フェリア、急に魔法が行くかも知れないから警戒だけは忘れずに!ルナ!レナ!このペースじゃ間に合わない可能性もあるから。今回は無理のない範囲で効果的な攻撃を探ってくれ!」


 160体を30分以内に倒すには、1体10秒程度で倒す必要がある。

 今はルナとレナが1体を攻撃して足止めし、その隙をフェリアの【コンデンスレーザー】が貫く形で討伐している。


 足止めのない【コンデンスレーザー】は避けられるし、ルナやレナのどちらかだけでは【挑発】を使っても注意を引ききることが出来ない。

 攻撃対象は【挑発】を使った者に絞られるが、警戒心までは解かないようだ。


 「フェリア。鞭。」

 「それと銃。」


 ルナとレナがフェリアに【精霊器召喚】を要求する。


 「分かったわ!鞭は捕らえる形でいくわよ!」


 精霊のおもちゃを構え、フェルムの得意な鞭に切り替える。


 現れた鞭のボディがルナと相対しているレッサーデーモンに絡みつき拘束した。


 精霊のおもちゃの鞭形態は、把持部を発生部が挟むことで形作られる。

 フェリアはそれを右手に持つ。


 そして左手に余っているもう一つの把持部を持ち、アルムの得意な銃形態を出現させる。


 鞭と銃の二刀流である。


 右手の鞭で拘束し、左手の銃で攻撃する。

 その攻撃に合わせ、ルナとレナが飛びかかり、両手の武器で【ペネトレイト】を発動し、同時にレッサーデーモンの両肩に突き刺した。


 人型をしているレッサーデーモンの肩は骨さえ避ければ突き刺さりやすい。

 さらに人体であれば心臓や肺すら狙える。


 ドラゴンファングがしっかりと突き刺さり、フェリアの銃撃がレッサーデーモンの頭を貫通し、討伐に成功した。


 拘束さえ出来れば特に苦労なく倒せる可能性が出た瞬間だった。


 その後も色々な討伐方法が試みられた。


 フェリアが両手に鞭を持ち、それぞれ2体ずつ拘束する方法。

 1本の鞭に対して2体の拘束が限界だった。

 ただ、操作はフェルムがするので避けられることはまず無かった。


 拘束したレッサーデーモンを倒す方法として、【ペネトレイト】で心臓を狙う、【フルスイング】で首を落とす、【ベビーアタック】で頭を狙うなどが試みられ、【ペネトレイト】で心臓を穿つのが効果的だと発見した。


 その間カイトは、そのほとんどが【挑発】の維持と魔法への対処だったが、近接攻撃に対しては余裕があれば【カウンター】を狙い、少しずつだが撃破数を稼いでいた。

 

 そうして30分が経過し、レッサーデーモンを40匹ほど残して、初めてのタイムアウトを迎えたのだった。

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