5-15 エンシェントレイス再び

 第41波が始まる。

 出現したのはエンシェントレイスとエルダーレイスの大群。


 「オーガと言い、レッサードラゴンと言い、縁があるなっ!」


 【シャイニングレイン】でエルダーレイスを一掃しながら叫ぶカイト。


 ノースビーストリムでゴーストが従えていたオーガ、レッサードラゴン。

 そしてゴーストを乗っ取ったエンシェントレイス。


 奇しくもフォースリムダンジョンにはその全てが出現することとなった。


 セオリー通り【ダンジョンウォーク】で部屋の隅に移動したカイト達。


 「エンシェントレイスまで出てくるなんてね・・・。」


 フェリアが不安そうに言う。


 エルダーレイスを一掃した後に残ったエンシェントレイスは10体。

 残ったエンシェントレイスも【シャイニングレイン】で結構なダメージは受けているはずだ。


 「前のやつよりプレッシャーは少ないな?それにし喋る気配もない。」


 ノースビーストリムで戦った際は濃厚な死の気配が漂っていたが、今回はそれはない。

 当時よりレベルが上がっているのもあるが、それよりもビーストの力を取り込んだのが大きいのだろう。


 ノースビーストリムに出現したエンシェントレイスが喋ったのは、モンスターではなく魔物だったからかも知れない。


 「ん。リベンジ。」

 「今度は近接。」


 前回はルナとレナは【マジックボール】系統以外で戦うことは出来なかった。

 武器を新調し、このダンジョンで訓練したことで、近接戦闘にも自信が持てているのだろう。

 

 ちなみにカイトもエンシェントレイスにほとんど躱され、攻撃を当てることが出来なかった苦い思い出を持つ。

 その経験があるからこそ、このダンジョンで様々なパターンを訓練してきたのだ。


 「俺も今度はしっかりと当てないとな。」


 レイスなどの幽体系モンスターには、単純な物理攻撃は意味を為さない。

 ダメージを与えるにはスキルを使用する必要があるのだ。


 カイトは【スキルスロット】がまだクールタイム中のため、【ライトウェポン】ではなく【ファイアウェポン】を使用。

 【挑発】を使用して、エンシェントレイスの注意を自分に向ける。


 エンシェントレイスの攻撃は【ダークボール】【ダークアロー】【ダークバースト】。

 【ダークイロージョン】を警戒して、【ものまね】には【リフレクション】を設定しているが、その気配はない。

 ノースビーストリムで戦ったエンシェントレイスはやはり特別だったのだろう。


 魔法以外だと【ドレインタッチ】というスキルも使ってくる。


○【ドレインタッチ】:対象に触れることで、対象の生命力・魔力・気力を奪い取る。


 「ルナ!レナ!【ドレインタッチ】に気をつけろ!あと【ダークバースト】も!」


 「ん!」

 「気を付ける!」


 ルナは左から、レナは右から。

 ドラゴンファングを交互に振って攻撃を仕掛ける。

 右手の小剣では【パワーアタック】を。

 左手の短剣では【シャープアタック】を使っている。


 この二つのスキルを多用するのは【ルーチンワーク】による効果上昇を狙っているのもあるが、『技後硬直』と言われる隙が非常に少ないからだ。

 魔法に分類されるスキル以外はほとんどこの技後硬直がある。


 純粋にスキルの効果で動けないという訳じゃなく、武器を強く振ったり速く振ったりすることになるため、隙が生まれることになるのだ。

 なので、レベルが上がってステータスを上げ、武器の操作に慣れれば、当然この技後硬直も短くなる。


 ルナとレナの攻撃は、【身体強化】【ウォークライ】【ステップ】【パワーアップ】【スピードアップ】【集中】というバフの効果も相まって、十分なダメージを与えることが出来たようだ。

 

 左右のスキルによる連撃。

 そして僅かにある【パワーアタック】【シャープアタック】のクールタイムを埋めるための通常攻撃の連撃。

 反撃の【ドレインタッチ】は【パリィ】と【カウンター】で迎撃。

 その【カウンター】の隙を埋めるための【マジックボール】。


 そして驚くべきことに【マジックボール】後に放たれたエンシェントレイスの【ダークバースト】にも対応してみせた。


 【マジックバースト】系の魔法は術者を中心に放たれる魔法だ。

 それを逆手に取ってエンシェントレイスに超接近して避けたのである。

 ルナとレナの二人ともが同様の方法で避けているので、予め考察してあったのかも知れない。


 【ダークバースト】を避けたあとは【ペネトレイト】を使用して左手の短剣で突き刺し、バックステップして次に備える。


 しかしエンシェントレイスはそれまでだった。

 離れるとほぼ同時にエンシェントレイスは消滅したのだ。

 【シャイニングレイン】でかなりダメージを受けていたとは言え、完勝だ。


 対してカイトはルナとレナが相手をしている2体を除いた8体と相対していた。

 【ダークボール】や【ダークアロー】は盾でしっかりと防ぎ、【ドレインタッチ】に対しては【パリィ】からの【カウンター】。

 自ら攻めることはせず、パーティの盾役としての役割をしっかりと果たしている。


 その後ろからはフェリアが【コンデンスレーザー】で1体ずつ確実に倒していく。

 【マルチロックレーザー】でもいいのだが、まだ第41波であるし、カイトがしっかりと盾になれるかを見る必要があるからだ。


 総じて危なげなく第41波をクリアする。


 「あの【マジックバースト】系の避け方は前から考えてたのか?」


 「ん。そう。」

 「【コンビネーション】のため。」


 【コンビネーション】はダメージを受けると効果がリセットされてしまう。

 そのため、回避が困難な範囲攻撃とは相性が悪い。


 それが一つでも回避できるとなれば、その有用度は計り知れないだろう。


 「カイトも出来そう?」


 「んー、やってやれなくもないだろうけど、俺の場合はその後がなぁ。」


 カイトの武器は大きく、懐に潜り込んでしまうと取り回しが利かない。

 魔法も同様で超至近距離だと、魔法の出現位置を指定するのに苦労するだろう。


 単体魔法の出現位置は自身の周囲であればどこでも出せるため、普段はあまり意識しないが、そのような場合は指定しなくてはならなくなって苦労をすることになる。


 「まぁスタイルも違うからな。タンクとしてはあんな動きするわけにも行かないし。」


 「それもそうね。カイトは完全なタンクって感じではないけど。」


 「出来ることも多いからな。ただ壁役は必要だからやってるだけって感じではある。」


 「とりあえず第45波までは大丈夫そうだし、そこまで行っちゃう?」


 第36波からそれなりにゆっくり進んでいるが、現在ちょうどダンジョン侵入から2時間が経過したところだ。


 変更したばかりのサードジョブの【狩人】もマスターし、【道具士】になっている。

 4次職は全てレベル61になった。 


 【狩人】のマスターで解放された基本4次職は、【ブレイカー】【スピードスター】【軽業士】、【呪術士】【治療魔術士】【ハーミット】の6種類だった。


 その後、第45波までエンシェントレイスがウェーブ毎に10体ずつ増えた。

 その穴を埋めるように600体前後のエルダーレイスも出現したが、そちらはカイトの【シャイニングレイン】で一掃。


 フェリアの【マルチロックレーザー】はエンシェントレイスに易々と回避されるため、出が早く、速度も速い【コンデンスレーザー】で1体ずつ仕留める必要があった。そのため、第42波から第45波まで30分弱を要したのだった。


 結果として変えたばかりの【道具士】はマスター。

 【ストライカー】【シューター】【投擲士】、【マジックボマー】【ポーショナー】【アイテムエキスパート】、【冒険者】が解放され、基本3次職の戦闘職は残すところ【罠士】だけとなった。


 4次職はレベル64となり、レベル70も段々と近くなって、4人のモチベーションはますます上がることになる。

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