5-7 オーガの群れ
「へぇ。これが『ミスリルインゴット』なのね。銀インゴットよりも大分軽いわね。」
そう。ミスリルはやはり銀よりも軽かった。
それ以外の特性は武器にしてみないと分からないだろう。
「まぁ完成して良かったよ。とりあえず魔力が空だから午前は休みにして、午後はまたダンジョンに行こうか。」
「ん。買い物いい?」
「色々欲しい。」
「ん。欲しいものがあるなら構わないぞ。俺はこのまま宿で休んでるし。」
「さっき話してたんだけど、投げつけて使えるものを作る材料が欲しいんだって。色々作って試してみたいそうよ。」
「なるほどな。それなら尚更歓迎だ。ゆっくり休んでるから行ってくるといい。」
本当はガルドにミスリルを渡しに行きたかったのだが、どの道ルナとレナの武器作成に時間がかかる。
もう一つの考えていることが終わってからでもいいだろう。
そういう訳で午前中は各々自由に過ごすこととなった。
ー▼ー▼ー▼ー
午後からはいつも通りダンジョン探索である。
入り口付近はいつも閑散としていて、本当に人気がないようだ。
「数が多く出るんだし、上手くやれば稼げそうなのにな?」
「そうね、スライムの波だけでも750くらいいるわけだしね。」
「ん。怠慢?」
「面倒?」
カイト達はそう言うが、第4波からはスライムとは言え一度に100匹以上出現する。
30分の制限だと1分で3〜4匹倒さなければならず、範囲攻撃が無ければかなり面倒なのだ。
まぁ危険はないので、楽して稼ぎたい者はそれなりにいるが。
ちなみに新人はどんどん波を進めて、疲労したところでゴブリンから命からがら逃げてくることが多く、よく心配される。
ワイルドウルフの出てくる波まで行くパーティは稀だ。
「しかし、いつもいる連中が常にこっちを見てくるのは何なんだろうか?」
少し離れたところに集まっている連中は、初日のダンジョン侵入前から常にこちらを見てくるのだ。
最初は余所者を見る目かと思ったのだがどうも違う様子。
「んー。」
「暇な人?」
「ふふっ。そうかもね。でも何もしてこないなら無視していればいいんじゃない?」
「ま、それもそうだな。じゃあ行こうか。」
ー▼ー▼ー▼ー
今回は第26波以降の下見ということで、第25波まではすんなりと終わらせた。
そんな訳で第26波が始まったのだが。
「ここからはオーガなのね・・・。」
「まぁアンデッドオーガよりは弱いだろうさ。数は厄介だけど。」
出現したのはオーガ。
高い攻撃力とタフネスを誇るモンスターだ。
フェリアがアンデッドオーガ20体と戦ったのは記憶に新しい。
しかしその数は多く、60体ほどのようだ。
「ん。強い?」
「全力?」
「とりあえず全力で。だけど魔力枯渇することはないようにな?」
「アンデッドオーガにはかなりの攻撃回数必要としたから、新しい【精霊術】でどうなるか楽しみだわ。」
カイトが使うのは安全も考えて【ダークイロージョン】。
そこにフェリアの【コンデンスレーザー】が一体のオーガの頭に直撃し、そのオーガを消滅させる。
【コンデンスレーザー】はフェリアの新しい【精霊術】で、【マルチロックレーザー】の単体版と言うのか、フェリアの指先から一直線に【精霊弾】を凝縮したレーザーを放つというものだ。
ただの【精霊弾】よりも貫通力が高く、対象指定も簡単なので出も早い。指定する必要があるのは、協力する精霊の名前と、使用魔力だけだ。
「うん。行けるわね。使用魔力10なら消耗もないに等しいわ。」
フェリアの【精霊術】は日進月歩に成長している。
精霊に理解しやすいというのも効率を上げる上で大事な要素だったようだ。
ルナとレナも飛び回って、めった斬りにしている。
流石にオーガはタフなので何度か攻撃しないと駄目ではあるが、オーガの攻撃は、例え【ダークイロージョン】の効果がなくても、掠りもしないだろう。
カイトはカイトで新しい戦い方を見出した。
【ものまね】は自由枠で、【集中】は【スキルスロット】で定期的に使用する。
【職業体験】は【ジェネラリスト】を指定。
なぜこれまで思いつかなかったのかと思うほど便利だった。
【万能士】の【器用貧乏】がないため、基本2次職のスキルは使用できないが威力低下はなく、【ジェネラリスト】の【多芸多才】で基本3次職のスキルは全て使える。デメリットはレベル30の【消費魔力半減】とレベル60の【消費マナゴールド半減】で相殺。どころか、【ものまね】で使用する魔力も半減するので指定するものによっては大幅なプラスである。
思いつかなかった理由は単純で、フェリアの【感応士】やゴーストの【霊感士】は【職業体験】に指定しても効果を発揮しなかったからである。
それに加え、【雑用士】【万能士】も【職業体験】に指定するほどのメリットがなかったので、特殊系統のジョブを【職業体験】に指定することがなくなり、【ジェネラリスト】も考えなかったのだ。
なぜ思いついたのか。
それは第20波を終えた時、【サードジョブ】の【商人】をマスターしたことで、【雑用士】の転職条件をクリアして転職できるようになったからだった。
その後のインターバルの5分間、サードジョブを【重戦士】にするか【雑用士】にするかたっぷり悩んだのだ。
それを解決したのが。
「ん。【職業体験】に【ジェネラリスト】。」
「デメリットないよ?」
という双子の発言だった。
【バリエーション】【シャープアタック】【マジックボール】もないため、双子のような戦法は取れないが、サードジョブが【重戦士】であるため【戦士】の【パワーアタック】は使え、【ウォークライ】や【ステップ】を始めとする多彩なバフスキルや、【インファイト】【コンビネーション】などのパッシブスキルまで使用可能となった。特に有り難いのが【集中強化】である。
おかげで第21波から25波まで、今までと全く違う感覚で戦闘をすることが出来た。
「ん。終わった。」
「そこまで強くない?」
「お疲れ様。オーガもランク3モンスターだし、数は面倒だけど苦労するほどではないってことだろ?」
「アンデッドオーガよりも耐久性は弱いみたいだしね。痛みも感じるようだし。」
アンデッドの強みは痛みがないことかも知れない。
「武器が変わればもっと楽になるだろうな。」
「ん。楽しみ。」
「消費減るのがいい。」
「消費と言えばフェリアは大丈夫か?【コンデンスレーザー】は消費なしとは行かないだろ?」
「これくらいなら大丈夫。まだ予め渡してあった魔力も使ってないから簡単な補充分くらいしか消費ないよ。フェルムもいるし。」
命属性のフェルムが顕現していると、その周辺では生命力・魔力・体力が持続回復する。
顕現維持にフェリアの魔力は使われるが、トータルではプラスだ。
「予め渡しておけるってのは本当に無駄がないよなぁ。勝手に節約もしてくれるし。」
【精霊顕現】に使われた魔力は、精霊の姿を維持するのにも使われるが、姿の維持は精霊自身が解除して節約することも出来る。
さらに【精霊術】にも使えるため本当に無駄がない。
上限も今のところないようで、言い方は悪いが魔力タンクのようなものだ。
欠点は人前で顕現出来ないことくらいである。
「さて、次は何が出るかな?パターン的には種類が増えそうだけど。」
続く第27波ではオーガに加えてオーガグラップラーが出現。
同じランク3ではあるが、オーガよりも格闘技術に優れていて命中力が高い。
耐久性やスピードはあまり変わらないため特に苦労はしなかったが。
第28波は同じ構成で、第29波は格闘に交えながらやや強力な【マジックボール】を使用してくるオーガメイジが加わった。
中距離も警戒しないといけなくなったため面倒だったが、【ダークイロージョン】で狙いは定められない。
そして第30波ではとうとうランク4モンスターが登場した。
ハイオーガである。
オーガの単純強化ではあったが、その性能は段違いで、数も50体ととんでもないものだった。
ルナやレナ、カイトの武器攻撃は効果が薄く、武器変更の必要性が浮き彫りになった。
効果があったのは【シャイニングレイン】と【ダークイロージョン】、そしてフェリアの【コンデンスレーザー】くらいのもの。
攻撃を受けることはなんとか免れたが、倒し切ったのは制限時間ぎりぎり。
【シャイニングレイン】【ダークイロージョン】も合わせて20発は打っただろうか。
魔法耐久に優れているのかも知れない。
消耗が激しかったためこの日はこれで終了となった。
リザルトとして【リクルーター】【精霊術士】【ジェネラリスト】がレベル43、【スキルテイカー】がレベル40、【重戦士】がレベル38になった。
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