5-6 新素材の【合成】

 訓練も上手くいきつつあって、ダンジョン攻略に精を出したいところだが、装備の更新も大事である。


 そんなわけでカイトは、発見した生産系4次職のスキルを使い、新しい素材を作るべく奮闘していた。


 新しい4次職の検索は【サードジョブ】を手に入れてからはしていなかった。

 育てて転職できるようにした方が早いと思ったし、今判明している4次職でも十分使えるからだ。

 それに4次職のスキルは3次職までのスキルを使用できることを前提にしていることが多く、【ものまね】や【職業体験】ではその性能を十全に発揮できない。


 今現在判明している生産系4次職は【薬師】【錬金術師】【調合士】だ。

 【薬師】と【調合士】で何が違うんだと、発見したカイトは憤ったのだが、新素材の開発という点においては有り難い。


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【薬師】

基本4次職

転職条件

 【回復魔法士】をマスターする

 【工芸人】をマスターする

成長条件

 特になし

レベル上限:70

習得スキル

 【ファーマシー】(1)

 【マナボトル】(30)

 【ドーピング】(60)


○【ファーマシー】:魔力と素材を用いて、細かい過程を省いて薬品を作ることが出来る。

○【マナボトル】:マナゴールドを使用して、マナで作られた瓶を作成できる。

○【ドーピング】:持続効果を齎す薬品の性能を引き上げて使用することが出来る。

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【調合士】

基本4次職

転職条件

 【料理人】をマスターする

 【栽培士】をマスターする

成長条件

 特になし

レベル上限:70

習得スキル

 【粉末化】(1)

 【計量】(30)

 【マナコンテナ】(60)


○【粉末化】:素材を粉末化することが出来る。

○【計量】:目的の量を正確に取り分けることが出来る。

○【マナコンテナ】:マナゴールドを使用して、マナで作られた容器を作成できる。

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 「【粉末化】【計量】に【錬金術師】の【合成】で色々試せば何かは出来そうだな。素材の保存に【マナボトル】とか【マナコンテナ】は有り難いし。」


 【マナボトル】を発見した際は、これがトレジャーボックス産のポーション類の秘密かと興奮していた。

 トレジャーボックス産のポーションは使用すると瓶も消滅する。

 便利ではあるが謎だったのだ。

 普通に作成し瓶詰めしたものは当然消滅はしない。


 「とりあえず用意した素材を・・・鉱石系はおいといて、残りは【粉末化】しちゃうか。」


 カイトには金属の精錬技術はないので、ガルドからいくつかインゴッドを融通してもらった。

 青銅、銅、鉄、鋼、銀、金である。


 カイトの本命は鋼と銀だ。


 鋼は現状生産品としては最高峰の性能を持つ。

 これに【合成】で他の素材を加えてやれば、新しい素材としても使えるものになるのではないかという考えだ。


 銀は半分は興味本位だ。

 武器には向かない性質なので、使われるのは専ら装飾品だが、カイトの前世の知識にはそうではないものがあった。

 そう、ミスリルである。

 物語によって『聖銀』だとか『精霊銀』と呼ばれていたりするミスリルだ。


 この世界はカイトの前世の知識との親和性が高いので、存在する可能性が高い。


 そして手元には『精霊石』もある。


 元々フェリアが作った精霊石で、力が宿り切るには3ヶ月ほどかかるとされていたが、フェリアと精霊たちの成長のおかげで、すでに力は宿り切っている。


 手元には3個の精霊石がある。


 ガルドは1個300,000で買うと言っていたが、今のカイト達にお金は特に必要ではない。


 「よし、まずは精霊石を【粉末化】して、【マナコンテナ】に入れておこう。」


 【マナコンテナ】で作られる容器は何も指定しなければ1個1000マナゴールドで作成でき、その容量は200gほど。

 四角柱の中空容器で、口には円柱型の広いものがついている。

 蓋はない。

 不思議な力で蓋がなくともこぼれたりはしないようで、さらに余分なものが入ったりもしないようだ。


 ちなみに【マナボトル】は、使用マナゴールドは同じで、形状はワインボトルのようなもの、容量は200ml。

 飲みやすい形で作られるようだ。


 「とりあえず1個目は魔力で【粉末化】してみよう。どれくらい使うのか不安だけど。」


 生産系4次職のスキルの特徴なのか、【粉末化】と【合成】は魔力を使うかマナゴールドを使うか選択できるらしい。

 そのため【スキルスロット】の対象には指定できなかった。


 現在のカイトは【職業体験】に【調合士】、【ものまね】に【合成】、【サードジョブ】に【職人】を指定している。

 【サードジョブ】に【工芸士】としなかったのは、レベルが低いためステータスが低いと考えたからだ。


 「よし、【粉末化】。」


 精霊石の1つをマナコンテナ内で粉末化する。


 「出来たけど・・・魔力枯渇寸前じゃん。」


 使い切ることはなかったが、魔力はほぼ空になってしまった。


 「とりあえず検証のために、別の1つをマナゴールドで【粉末化】だな。」


 続いて次の1つを同じマナコンテナの中で粉末化。


 「使ったマナゴールドは・・・50,000か。多いのか少ないのか絶妙な設定だなぁ。」


 安くはないが、高くもない。

 魔力が足りるなら魔力の使用を優先しそうな設定だ。


 「最後の1つも【粉末化】してっと。」


 そうして出来上がった精霊石3つ分の『精霊石の粉末』。

 計量すると150gのようだ。


 【鑑定】した所、『精霊石』がそういう名称に変化していた。


 「予想通り【鑑定】を使えば名称の変化で新素材を判別できそうだな。」


 【鑑定】は本当に扱いにくいスキルで、その対象の名称のみが分かるスキルだが、武器や防具になっていればその素材までは判別できない。


 なので素材の状態であれば違いが分かるだろうと試してみたところ、予想通りだったということだ。


 「あとの問題は割合だな。」


 カイトの知識によるとステンレスと言われる錆びない鉄は、鉄にクロムというものを合成した合金で、そのクロムの割合が大体15〜20%であるらしい。


 「精霊石は貴重だし、そんなとんでもない量は必要とされないと思うんだけど。そもそもミスリルの作り方がこうじゃなかったら・・・。」


 精霊石3つを粉末にした時点で実質1,000,000マナゴールドかかっている。


 「それに割合と言っても重量比じゃなくて体積比かも知れないんだよなぁ。」


 同じ重さでも物質によって体積は変わる。

 ファンタジー作品ではミスリルは非常に軽い物質とされるので、もし【合成】でミスリルが出来たら急に軽くなるか、体積が増えるかするかも知れない。

 前者なら体積比で考えるべきだし、後者なら重量比で考えるべきだが、そもそもミスリルなんてものは存在しないかも知れないし、存在しても軽くないかも知れない。


 「あーもう。存在するかどうかも分からないものを考えてたってどうしようもないな!それにインゴットのサイズはどの素材でも一定なんだ。そういうものだとするしかないな。」


 実際はその通りだ。

 カイトは前世の知識に引きずられ、細かいことを考えてしまうが、この世界はそのように出来ているのだ。


 それに軽いことがいいこととは限らない。

 軽ければそれだけ攻撃力が下がるはずだからだ。

 色々な素材で出来た武器を何ら違和感なく扱えるのはゲームの中だけだろう。

 カイトはステータスの恩恵もあって、多少重くても問題なく扱える。

 

 重要なのはサイズで、そのサイズはインゴットによって規格化されている。

 恐らくこの世界のシステムが何かしているんだろう。

 鉱石5つでインゴットが1つ出来る。

 それ以外だと必ず失敗するのだ。


 カイトが得物にしようとしている武器は片手半剣と言われるバスタードソード。

 様々な条件に適応できる可能性があるものを選んだつもりだ。

 ハルバートなども候補にあったのだが、それだと盾が扱いにくくなる。


 バスタードソードを作るのであればインゴットを3つ使用する。

 つまりインゴット1つに対して使える精霊石の粉末は精霊石1つ分ということになる。


 「とりあえず1つ目のインゴットに少しずつ【合成】していくしかないか。」


 銀インゴット1つに対して【計量】で10g分を手に取り、【合成】を発動する。

 しかし発動する気配はなかった。


 「条件を満たさないと合成できないのか。でもなんだか精霊石の粉末が足りないって感覚があるな。」


 これも世界のシステムによるものだろうか。


 結局銀インゴット1つに対して必要な粉末の量は50g分だった。


 「うん、【鑑定】結果も『ミスリルインゴット』になってるな。やっぱり出来ちゃったよ。」


 【合成】に使用したマナゴールドは100,000。

 これもまた多いのか少ないのか分からない設定だ。


 「ミスリルは魔力使用の【合成】じゃ無理そうだな。半分は賄えるけど。それにしても思ったより感動が少ないな・・・。精霊石を粉末にしなくても良かったんじゃないかって気もするし。」


 とは言っても残り2つの銀インゴットもミスリルインゴットに変化させ、新素材開発は完了した。


 他にも作りたいものはあったのだが、とりあえず本命が出来たことで満足するのだった。

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