5-5 装備の注文とカイトの訓練

 「なんじゃこりゃあああああ!!!」


 ガルドの声が響き渡る。


 突然現れたカイトが有無を言わさず裏庭に連れ出し、とりあえず見てくれとアンデッドレッサードラゴンを取り出したからだ。

 取り出したのはルナだが。


 「説明してから出せよ!!」


 尤もである。


 「説明しても信じなかっただろ?」


 それもまた尤もである。


 「うっ。そりゃ揶揄ってるとしか思えないだろうな・・・。」


 「だから結果は同じだと思ったんだよ。押し問答の分手間は省けるだろ?」


 ちなみにガルドの店の裏庭にもマーキング済みである。

 ガルドはカイト達の秘密を知っているから相談もしやすい。


 「それでこれは魔物のレッサードラゴン?いや、これはアンデッドだったのか?!カイト!どうやって手に入れたんだ!危ねぇことすんじゃねぇ!」


 「成り行きだよ。巻き込まれたんだ。あと倒したのはルナとレナだ。」


 「巻き込まれたって・・・。アレか!!ノースビーストリムにアンデッドの大群が押し寄せたってやつか!でも噂にゃドラゴンが出たなんてなかったぞ!」


 「話すと長くなるんだけど・・・。」


 カイトはガルドに詳しい話を説明する。


 「なるほどな。それは確かにこっそり討伐して正解だったかも知れねぇな。・・・それで、アンデッドオーガもあるんだろ?どうして欲しいんだ?」


 「全員の防具の更新と、ルナとレナの小剣と短剣。あとは試してみたいことがあるし、予備も欲しいから、ドラゴンの素材を少し・・・ってとこかな?余った分は譲るからお願いできるか?」


 「そうだな・・・。双子の嬢ちゃん達の武器はドラゴンの牙でいいだろ?カイトは盾をドラゴンの鱗を使って・・・。カイトの武器とフェリアの嬢ちゃんはどうするんだ?」


 「俺たちのは考えがあるから、今回は保留でいいよ。」


 「ほう?それならいいが。カイトの武器は更新すべきだぞ?防具は専門とは言えないがアンデッドオーガレザーに要所にドラゴンの鱗を使う感じでいいな?」


 「うん、任せるよ。下手な人にこの素材は見せられないし。」


 「そうだな・・・。それならお前たち、解体を手伝え。」


 「げ。・・・まぁそうなるか。みんなもいいか?」


 「そんなことしたことないから楽しみだわ!」


 「ん。勉強。」

 「肉は残念。」


 アンデッドなので肉は食べられなくなっている。ただの魔物であれば食べられることもあるのだが。

 レッサードラゴンの肉は超高級品だ。

 倒せる者がほぼいないため、供給されない。

 ちなみにオーガの肉は食べられない。硬すぎるらしい。


 結局午前中いっぱい掛けてレッサードラゴンとオーガの解体に励んだ。

 4次職のステータスを目いっぱい活かした4人は、解体に多大な貢献をするのだった。


ー▼ー▼ー▼ー


 午後は再びフォースリムダンジョンである。


 今回はスライムが出現する波では引き続きフェリアが。

 ゴブリンが出現する波ではカイトが。

 ワイルドウルフが出現する波ではルナとレナが。

 オークが出現する波は全員で攻略した。


 フェリアの【マルチロックレーザー】はほぼ問題なく、かなり細かい調整が出来るようになった。


 カイトは非常に苦労した。

 基本的に【スキルスロット】を利用した攻撃以外は封印したため、とにかく時間がかかる。

 30秒に1回しか使えないからだ。

 しかもゴブリンの攻撃を防いだり避けたりしながら。


 30分で強制終了されてしまうため、20分が過ぎたら【シャイニングレイン】で一掃することになっている。


 【スキルスロット】で使用するスキルは【ディバインストライク】。

 これは【スキルラーニング】による習得を踏まえたもので、【サードジョブ】で使用しやすい2次職や3次職よりも習得が困難な4次職のレベル60スキルがいいだろうと判断したからだ。

 ゴブリンを倒すには派手過ぎるスキルだが、今発見しているものの中で適しているのが【ディバインストライク】しかなかった。


 最初はかなり苦労した。

 数もそれなりにいるので防御や回避に意識が割かれ、【スキルスロット】への指定に集中できなかったためだ。


 思い立って【ものまね】に【集中】を指定してからは劇的に変わった。

 双子のように【集中強化】はないが、思考に余裕ができ、【スキルスロット】への指定も楽になったのだ。


 【職業体験】は【重戦士】だ。

 これは【挑発】を使うためで、見学している3人にターゲットを向かせない必要があったからだ。


 30秒毎に【バーストストライク】を使用したことで、5ウェーブを乗り越える間に使用回数は200回を超え、【スキルラーニング】に成功した。

 【スキルラーニング】に必要な回数は200回のようだ。

 【リターンポイント】もかなり使用しているので間もなくラーニング出来るだろう。

 【ダンジョンウォーク】はフォースリムダンジョンでは使用できないのでしばらくお預けである。


 【ディバインストライク】の習得が完了したので、次に選択したのは【魔法戦士】の【マジックウェポン】と【バーストストライク】。


○【マジックウェポン】:一定時間武器に魔法を付与して攻撃力を増加させるとともに属性も付与する。【属性変換】の対象となる。

○【バーストストライク】:【マジックウェポン】の力を解き放ち攻撃する。使用後【マジックウェポン】の効果は消失する。


 今回は【魔法戦士】の【マジックウェポン】をそのまま習得したいので、属性は無属性になる。効果は攻撃力の増加だけだ。

 【マジックウェポン】の効果時間は長く30分ある。ただ、クールタイムはなく、すぐさま再使用が可能だ。再使用した場合、それ以前の効果は消えて上書きされる形になる。

 【バーストストライク】は強力だが、使用するのに前提として【マジックウェポン】が必要となる。


 ちなみに【スキルスロット】に【マジックウェポン】を指定する際は、属性変換適用後のスキルを指定可能だ。これは【スキルメモリー】する際に、モンスターの魔法などが【ウォーターボール】と認識されたりすることが由来だろう。

 スキル名に『マジック』と付くものは【属性変換】の対象となって、『マジック』部分を各属性の接頭辞、『ファイア』や『ウォーター』などに変化させて使うことが出来る。


 【魔法戦士】のスキルは【属性変換】さえ使えば汎用性は高いので【スキルラーニング】する価値は十分にあると言えるだろう。

 【マジックウェポン】は【属性変換】を【職業体験】を使用しなくて済む【スキルスロット】で使うのに向いているが、【バーストストライク】はラーニングして、消費があっても咄嗟に使える方が便利だ。

 逆に【マジックウェポン】をラーニングさえ出来れば、【職人体験】や【サードジョブ】に【属性変換】を使える【攻撃魔法士】を設定すれことで、強力な【バーストストライク】を【スキルスロット】で【スキルチャージ】で使う選択肢も生まれる。


 「お待たせ。」


 カイトは第15波を終え、3人に話しかける。

 3人はフェリアの新しい【精霊術】のアイデアを出し合っていたようだ。


 「カイト、お疲れ様。」


 「ん。お疲れ。」

 「カイト頑張った。」


 「【集中】を使うことを思いつくまではしんどかったな・・・。次はルナとレナだな。準備はいいか?」


 「ん。大丈夫。」

 「どんとこい。」


 ルナとレナが相対するのはワイルドウルフ。

 ランク3のモンスターなので、ゴブリンよりは当然強力だ。


 生命力や攻撃力だけでなく、連携もまたゴブリンよりも巧みなので、ゴブリン以上に気を抜けない。


 ただ今回は二人も使用できるバフは全て使用しているため、例えワイルドウルフが相手でも3回から4回の攻撃で倒しきっている。

 武器が変われば一撃かも知れない。


 「まるで踊ってるようね。」


 「ホント器用だな、あの二人。」


 ヒラリと躱し、その隙に攻撃。

 ちらほら【マジックボール】も放っている。

 不用意な攻撃には【パリィ】からの【カウンター】もあるので、かなり盤石だ。


 「躱せない攻撃を持たない相手なら無双って言えるほどだなぁ。」


 「むしろ範囲攻撃以外で止める方法がなさそうだわ。」


 そのうち範囲攻撃対策を何とかする必要はあるが、今は訓練中だ。

 そしてその訓練は十分身になっていると判断できる。


 双子の二人が難なくワイルドウルフの出現する波を終わらせたあとは、全員でオーク出現の波を終わらせる。


 フェリアの【マルチロックレーザー】もかなりスムーズに発動できるようになり、ターゲットを取りすぎないように細かく指定することもできた。

 ルナとレナは言うまでもなく、相手の懐に入り込んでめった斬りにし、次々と倒していった。

 カイトだけは30秒に1回。今はそのうちの1回は【マジックウェポン】のバフなので、攻撃するのは1分に1回の【バーストストライク】のみとなってしまっているため、ほとんど攻撃することは出来なかった。


 結果【リクルーター】【精霊術士】【ジェネラリスト】はレベル40に、【スキルテイカー】はレベル37に、【サードジョブ】は【農家】を終えて【商人】レベル29となった。

 【サードジョブ】はいよいよ2次職の最後のジョブのマスター間近となる。

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