5-3 家具の受け取りとフェリアの新技
絵を用いた精霊へのイメージ伝達は上手くいき、フェリアと精霊たちのイメージ共有は概ね成功したように思えた。
では早速・・・と、ダンジョンに行こうとしたのだが、家具の注文から4日経ち、受け取りが可能になっていることに気がついた。
「うーん。どうせ周回しなきゃ時間はそんなにかからないし、午前中はノースビーストリムの家の掃除とか家具配置とかやろうか。」
「そうね。早速試してみたいのはあるけど、そっちもやらないとね。」
「ん!運ぶ!」
「わくわく。」
『挑戦者の休憩所』には、今日は付近のダンジョンを確認しにいくことにすると伝え、街を出てから人が通らない場所にマーキングし、【リターンポイント】でノースビーストリムの家に飛ぶ。
「相変わらず殺風景だな。」
まだ家具も何もないので、当然だ。
「掃除は【生活魔法】使った方が楽だし、とりあえずみんなで受け取りに行こうか。」
ー▼ー▼ー▼ー
「よし、こんなもんかな。」
カイトは自室の掃除を終え、家具を配置した。
と言ってもベッドとチェストくらいだが。
「この世界、風呂は全くと言っていいほど流行ってないしな・・・。」
前世の記憶があるわけではないので、そこまで入りたいわけではないが、知識としては入るのが常識であって気にならないこともない。
【生活魔法】には【ウォーター】はあるが、お湯を出す魔法はなく、湯を沸かすには薪が必要になる。
そのため、風呂を作るとなるとかなりのコストがかかるだろう。
まぁお金は十分にあるのだが。
フェリア達3人と暮らしていて困るのは、体の清拭や着替えをする時だった。
当然カイトが部屋を出ることになるのだが、カイトの興味の大半がレベル上げやジョブのシステムにあるとは言え、15歳の若い体は劣情を多少は持て余す。
まぁ同世代と比べれば、全くと言っていいほどないと言っていいのだが。
5歳で前世の記憶、というか知識を得たカイトは成熟していて、孤児院の年上の子供に面倒を見てもらっていた際に耐性がついている。
「まぁ孤児院を出て20日余りで自分の家を持つなんてさすがに想像も出来なかったけど。」
いくら規格外のカイトとは言え、それを予想するのは流石に無理というものだろう。
「さぁ、あとはダイニングキッチンをやるか。」
ー▼ー▼ー▼ー
ダイニングキッチンにはキッチンテーブルと椅子を4脚。
キッチンに竈はあるが、調理器具はまだ置いていない。
「そのうち揃えないとなぁ。ルナとレナのリクエストも多いし。」
そのルナとレナは今、フェリアと共に女性陣3人の部屋を整えている。
流石に女性陣の中に加わって、色々考えるのは勘弁してほしかったのだ。
フェリアは追放の真実を知って本当に明るくなった。
ルナとレナは家のことを考えるのが楽しいらしい。
まぁダンジョン攻略があるので色々我慢させてはいるが。
希少職である4人が何も気にせずはしゃげるのは本当に幸せなことだな、とカイトは噛み締める。
もちろん街の中では、【職業体験】で職業を変えられるカイト以外は不便が多い。
しかしそれも【職業斡旋】を習得すれば変わるだろう。
・・・フェリアに関しては精霊が嫌がって無理かも知れないが。
【精霊契約】さえしていれば精霊が離れてしまうことはないが、【精霊顕現】【精霊憑依】【精霊術】は使えなくなってしまう。
力を使いたがる精霊にとってはかなりの不満だろう。
精霊が力を使いたがるのは成長のためらしい。
使った精霊力を補充する際、その属性の力をより多く取り込めるということだ。
ちょうど筋トレで言う超回復みたいだなとカイトは思ったものだ。
今回のようにフェリアと協力して様々なことをやるのは、その成長の効率アップにも効果的なようで、ただがむしゃらに使うだけでは意味がないらしい。
今回の新技がまだ成功していないにも関わらず、もっともっととせがまれている。
そんなこんなで全員部屋の家具配置も終わり、ダンジョンに向かうためフォースリムへと戻ることになった。
ー▼ー▼ー▼ー
「さて、始めるぞ?フェリア、準備はいいか?」
「ええ、とりあえずやってみるわ。」
現在地はフォースリムダンジョン内。
第1波開始前だ。
最初にフェリアと協力する精霊はアルム。
【エレメンタルショットガン】で威力を分割するのに慣れているからだ。
そしてベビースライムが出現しだした。
全て出現したらフェリアが詠唱(・・)を始める。
「複数指定。対象ベビースライム。使用魔力10。【マルチロックレーザー】!!」
当初の想定であった魔力2よりも多い10の指定。
これは下手に残ってしまうことを避けるためと、ホーミングに意外に精霊力を使用するためだった。
そして詠唱とは言ったものの、実際には指示命令。
フェリアのイメージを固めるとともに、精霊が分かりやすい形で、尚且つ楽しんで聞けるようにしたコマンドワードだ。
対象指定に『視界内』のと付けたりすれば対象を絞れたりもする予定だ。
今回は50体全てを対象にしている。
フェリアの頭上に大きな、アルムの属性である水の【精霊弾】が浮かび、そこから多数のレーザーが全方位、放射状に発生する。
そしてそれらは弧を描きベビースライムを同時に貫いた。
「成功したわ!!」
精霊達が出来るとは言っていたものの不安だったのだろう。
精霊達は基本的に無邪気なので、楽観的過ぎるんじゃないかと心配になる気持ちは分かる。
「見事なもんだな。威力の調整が出来ているかは分からないけど、今までこんなことしたら魔力を使いすぎてたけどそれはなさそうだな?」
「全く問題ないわ。慣れてこれば実際に詠唱しなくても大丈夫な気がするし。」
「ん。かっこいい。」
「しゅわしゅわーどん!」
「とりあえず【マルチロックレーザー】は条件を変えて試せば使い物になりそうだな。」
「ええ。アルム以外の子もやりたいやりたいと騒いでるわ。」
「それじゃ次に行くか。まずは【マルチロックレーザー】を色んなパターンで練習しよう。次からは属性があるから多少残ったりするかも知れない。気をつけてな?」
ベビースライムに攻撃されたところで何が起こるわけでもないが、攻撃されないに越したことはない。
そして第2波。
色付きベビースライム50体だ。
「複数指定。対象は視界内の色付きベビースライム。使用魔力2。【マルチロックレーザー】!」
今度は視界内指定だ。
フェリアの前方に存在したスライム達10数体が貫かれ消滅する。
今の【マルチロックレーザー】はガルムの火だったようだ。
属性があってもレッドベビースライムも問題なく倒している。
「次。複数指定。対象色付きベビースライム。使用魔力5。【マルチロックレーザー】!」
向きを変えずに指定。
協力したのはリルムで風属性。
それでも問題なく、残り全てのスライム達を倒すことが出来た。
「問題なさそうだな。何かあったりする?」
「今のところ大丈夫かな?威力も変わってるわよね?」
「んー、多分?次は数を多め、威力低めで倒さないようにやってみるしかないかな。」
「いくらベビースライムでもたかられるのは嫌だわ・・・。」
「それはまぁ・・・。ルナ、レナ。【マジックバースト】でフォローしようか。」
「ん。分かった。」
「カイトも?」
「あぁ。集まってきたら【マジックバースト】で一掃だ。」
やり方が決まったので第3波を始める。
今度は属性ベビースライム50体だ。
「複数指定。対象モンスター。使用魔力1。【マルチロックレーザー】!」
対象指定の方法を変えたようだ。
それでも問題なくレーザーが全モンスターに向かう。
属性はカルムの火。
威力は小さい。
「威力調整も出来てるな。」
「ええ。魔力の代わりに精霊力を使いすぎてるということもないみたい。というか、楽しいみたいでかなりはしゃいでるわ。」
ダメージを受けたスライム達が集まってきているので【マジックバースト】で一掃。
「それじゃやり方は任せるし、フォローはするから第10波まで色々やってみようか。」
「そうね。残った時のフォローはお願い。」
その後色々な指定方法を試してみた。
精霊達も慣れてきたのか、複数の場合は対象指定を省略すると全モンスターを攻撃するようになった。
魔力指定を省略すると1だったので、省略する場合は10にすると決めた。
こうしてフェリアの新技【マルチロックレーザー】は完成したのであった。
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