4-26 カイトの勘違いと次のダンジョン

 一頻り泣いて落ち着いた後。


 「それで、貴女の【隷属使役】はどうなってるの?」


 「あ、あの。【隷属使役】ってなんでしょうか。先程もおっしゃられていましたけど。」


 「え?貴女、お父様に逆らわないだけじゃなくて、逆らえないと言うのもあるってカイトに言ったのよね?」


 「え?ああ、はい。」


 「それは逆らえないような状況にされているのではなくて?」


 「えーっとですね。私達は幼い頃からそのように教育されてきたので・・・。」


 噛み合わない。


 「フェリア。俺が勘違いしてたみたいだ。」


 逆らえないという言葉をそのまま鵜呑みにしていたカイト。


 逆らうことは出来るが心情的にはできないというのも『逆らえない』と表現することを失念していたのだ。


 つまりフォレストリア家に【隷属使役】をする方法はない。


 そうなると必然的に『奴隷契約』を使ったということになるのだが、その方法は分からない。

 具体的に聞こうにもアルマリアは【奴隷】系統ジョブについて話すことは魔法契約で縛られている。


 「アルマリアさん、ひとつ確認したいんだけど、今現在貴女を身分的、立場的に縛る契約は存在しているのか?」


 「いえ、ありません。ジョブに関して話してはならないという契約だけです。」


 「カイト、どういうこと?」


 「簡単に言えば警戒しすぎたってことさ。アルマリアさん自身が報告することを選べて、フォレストリアにはそれを強制する方法はないってこと。」


 【奴隷】系統のことしか縛られておらず、隷属もないのであれば、報告内容はアルマリアに一任される。強制的に聞き出すことも出来ない。


 「え?カイト殿、どういうことです?」


 「フォレストリアのご当主様が、魔法契約を無視してまで、もしくは何らかの方法で強制的にアルマリアさんから聞き出すことはないだろうってことさ。」


 「カイト殿、そんなことを心配されてたのですか?そんな方法存在しませんよ!」


 「いやいや、魔法契約なんてものがあるんだし、俺には貴族がどんな力持ってるかも分からないんだから仕方ないだろ?警戒するしかなかったんだよ。」


 「だからゴーレムを作るマジックアイテムなんて無茶を言ったですね・・・。あんなもの王家にすらないと思いますよ?」


 「マジか・・・。」


 「カイト、やりすぎちゃったね?」


 やりすぎだったようだ。

 しかし、ゴーレムがなかったら防衛線がどうなっていたか分からない。


 「実はフェリアの力でしたってことにして秘匿してもらおう!!」


 実際フェリアはカルムの力を借りて同じことが出来る。問題はないはずだ。

 そんなことを考え、フェリアに功績を押し付ける。


 「カイト・・・。まぁいいけど。やろうと思えば出来るし。」


 フェリアも呆れながら同意する。


 「貴方達は本当に規格外ですね・・・。」


 事もなげに出来るというフェリアに対しての呆れのようだ。

 カイトに対しては言わずもがな。


 「とりあえず俺達の情報については、この前の魔法契約で十分縛れていると考えていいのかな。」


 「ええ、十分な縛りですよ。万が一契約に反してしまったら、お会いするまで強制力が解除できませんし。」


 「なら一先ず安心ね。」


 唯一心配だったのは、契約の文言に『出来得る限り』と入れてしまったことだ。

 これがあると、強制的に聞き出す方法があれば意味を為さなくなってしまう。


 その方法がとりあえずは存在しないと判明したので、前回結んだ魔法契約で十分だということが分かった。


 「あの・・・。非常に疑問なのですが、フェリア様方は一体何をどれくらい警戒されてらっしゃるのでしょうか?」


 「うーん、契約がある以上話せないこともないけど、これを聞いたら本当に苦労することになると思うよ?それでもいいか?」


 「そこまで言われると怖いですが・・・。事はフェリア様に関わっております。覚悟してお聞きしますので、是非お話下さい。」


 「分かった。じゃあ最初から話そう。長くなりそうだし、ルナ達も呼ぼうか。」


 心配がなくなったのでルナ達も紹介することにした。

 そしてカイトが今までのことを話し始める。


ー▼ー▼ー▼ー


 話が終わった後アルマリアは頭を抱えていた。


 「希少職の成長・・・。4次職の存在?頭がパンクしそうです・・・。」


 「だからいいかって聞いたのに・・・。」


 「まさかここまでとは。警戒するのも当然ですね。公になれば命を狙われるか、その身を拘束されるか。いえ、今のカイト殿達を暗殺したり拘束するのは不可能でしょうが。」


 「大丈夫かも知れないけど心が休まらないのは嫌だ。」


 「ん。」

 「当然。」


 「まぁそうならないために色々してきたし、考えもあるけどね。流石にそれは話さないわよ?」


 「ええ、構いません。そしてカイト殿、改めてフェリア様の命、人生を救ってくれたこと、心から感謝いたします。本当に奇跡が起きているとは夢にも思いませんでした。」


 「改めて聞くと奇跡以外何物でもないわね。」


 「偶然さ。出来ることをやってきたらなぜかこんなことになっているだけだ。」


 「ご謙遜を。恐らくご当主様がカイト殿の話を聞けば、感謝の意を示されることでしょう。今のままではお話しすることは叶いませんが。そこで、どうでしょう、皆様。一度フォレストリアにお越しいただくというのは選択肢に入りませんか?」


 「ん?」

 「大丈夫?」


 「んー、フェリアに任せるよ。」


 「そうね・・・。お父様が私を疎んで追放した訳じゃないのは分かったけど・・・。そうね。危険はないの?」


 希少職を成長させたことを喧伝すれば、フェリアの引き渡しを要求してきた者たちは震えあがるだろう。

 ただ別の面倒ごとを引き寄せる可能性があるため、それは出来ない。


 「そうですね。幸いフェリア様のお顔を知っている者は多くありません。髪の色さえ変えて頂ければ危険はほとんどないでしょう。」


 多少の危険であれば問題なく乗り切れる。


 「フォレストリアダンジョンは元々の目標ではあったけど・・・。カイトどう思う?次のダンジョンの目標がいきなりフォレストリアでも大丈夫かな?」


 フォレストリアダンジョンはランク5ダンジョンで、世界でも有数の難関ダンジョンだ。

 環境ダンジョンの森林型と呼ばれるもので、樹海、密林から始まり、珍しいところではマングローブ林、熱帯雨林、亜寒帯林、雲霧林、暗黒林など、同じ森林でも多様性を持つ。

 そして出てくるモンスターが特殊で、ランクの制限はあるが、そこで出てくる可能性のあるモンスターならば、どのモンスターでも出てくるという。

 つまりよほど特殊なモンスターでない限り出現するということだ。


 素材的にはおいしいのだが、攻略者としては対応力が必要となり苦労を強いられることになる。


 「俺達の課題的に、まだフォレストリアダンジョンは厳しい気がする。じっくり進むなら行けなくはないだろうけど。出来ればもうちょっとレベルを上げたあとに技術を磨いてからにしたいところだな。」


 「なるほどね。確かにそっちの方がいいかも。ねぇ、アルマリア?私を寄越せって言ったのはフォースリムよね?」


 「そ、それは・・・はい。自分のところの収益が上がらないのは災厄がいるからじゃないかと。難癖もいいところではあるのですが。」


 フォースリムはアクアリム、ビーストリムと並ぶフォレストリア内の大都市で、北都フォレストリアと王都シルファリアの間に存在する。


 フォースリムダンジョンは不人気ダンジョンで、制限型の変わったダンジョンだ。

 制限というのは入るのに規定の条件を達成しないと入ることが出来ず、【魔法士】系統限定のマジックリムダンジョンや、【見習い職人】系統限定の通称職人ダンジョンなどがある。


 フォースリムダンジョンの制限はパーティメンバー4人以下という人数制限型だ。


 その構造も変わっていて、探索の必要がなく、5分のインターバル毎にモンスターの集団が出現するウェーブ型と言われるダンジョンである。


 カイトの知識からすればよくあるタイプではあるのだが、この世界では珍しい。


 各ウェーブは30分以内で全滅させないといけないので、4人以下でしか挑めないため殲滅力が足りずなかなか進むことが出来ていないようだ。


 「あそこの特産って確かスライムゼリーとかスライムオイルよね?」


 「ええ、その通りですが・・・。何をお考えですか?」


 第1波から第10波まではスライム系が出現する。

 ウェーブ型だけあってその数は並大抵ではなく、大量にドロップを集めるには向いているのだ。


 ランク1のスライムからはスライムゼリーが、ランク2のスライムからはスライムオイルがドロップするが、そのアイテムの用途は幅広いため、需要は多い。


 「ダンジョンからの収入は増えているのに流通するスライム系ドロップが少ない。あまつさえそれがフォレストリアとか他の街で売られたりしたら・・・どうなるかしらね?」

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