4-27 ノースビーストリムの拠点
フェリアの悪巧みは効果的かも知れないということで、次の目的地はフォレストリアを経由してフォースリムということになった。
近日中の出立を目標に準備を進めることになる。
ノースアクアリムから飛び出してきた時と違い、ちゃんと準備が出来るのは有り難い。
ルナとレナの【ジェネラリスト】によって、【アイテムボックス】が多数あるため、荷物の制限はほとんどない。
時間停止はないため、食糧は考える必要はあるが。
ちなみに【アイテムボックス】は各スキルによって独立している。
つまり【雑用士】の【アイテムボックス】と【道具士】の【アイテムボックス】は違うということだ。
【アイテムボックス】のスキルを習得することが出来る基本3次職は、【道具士】【建築士】【栽培士】【採取士】【行商人】の5つ。
【雑用士】を含めれば6つだが、【器用貧乏】の効果で2割減少しているため、全部で480枠ということになる。
【鑑定】上、同じ名前のものは同じ枠の中に入るので、実質的に持ち運べる量はかなりのものだ。
そんなわけで買い物に関してはルナとレナに任せた。
マナゴールドはハーピィ狩りのおかげで大量にあるので不安はない。
ドロップも大量にあるが、アルマリアに頼んである程度捌いてもらったので、そこでもお金が増えた。
フェリアの作戦にあった通り、そこでドロップしたアイテムはなるべくその街で捌いた方がトラブルになりにくい。
カイト達は管理局に登録しているわけではないのでそれを守る必要はないのだが、数が数だけに仕方がなかった。
アルマリアが売却しただけでもかなりの混乱が生じたらしい。
ちなみにハーピィ達が落とすのは主に『ハーピィの羽根』『ハーピィの爪』『鉄鉱石☆☆☆』である。ドロップ確率は100%ではないので倒した数とは一致しない。
全て素材なのでそこまで高くは売れないが、各500個ずつ売却して100,000マナゴールドほど手に入れた。
ハーピィ周回で一日600,000マナゴールドほど稼いでいたカイト達にとっては大した額ではなかった。
それだけ稼げるのもかなり異常と言えるのだが。
「買い物は二人に頼んだし、俺たちは拠点を探す・・・んだけど。」
お金は十分にあるので購入することは可能だろう。
「問題は維持よね?」
「そうなんだよなぁ。しかも突然現れたりするわけだろ?」
誰かを雇って維持するとしても隠蔽工作は必須である。
拠点に関してはルナとレナが熱望しているので叶えてやりたいという気持ちは強い。
「まぁ、最悪毎日帰ってこればいいっちゃいいんだけどな。」
「そうすると旅の準備が必要なくなるわね!でも最初はそれでいいんじゃないかしら?家もすぐに痛むってわけじゃないでしょうし、適度に帰れば。」
「それもそうだな。とりあえず・・・家ってどこで買うんだ??」
興味も機会もなかったカイトが知るわけもなかった。
ー▼ー▼ー▼ー
とりあえず宿である『風鳴り亭』の女将、アルメアに聞いたところ、商業組合で聞けばいいことが分かった。
管理局だの商業組合だの、なんで『ギルド』じゃないのかと、カイトならではの感覚で思っている。
冒険者に関してはそういう名前のジョブがあったことが広まってた頃の名残かも知れないが。
「こんにちはー。」
恐る恐る商業組合に入り、声をかける。
「はい。こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
返答してくれたのは制服を着た女性。
そのまま役職は受付なのだろう。
「えっと、家を買うか借りるにはどうしたらいいか伺いたくて。」
カイトのような若い者が家を欲しいというのは珍しいのか、受付嬢は目を見開いて驚いた様子を見せる。
それでもプロなのか、すぐに我に返り反応してみせた。
「ご予算とご希望の家の大きさはどのようなものでしょうか?」
「予算は・・・1,000,000マナゴールドで、大きさは・・・4人が住むのに十分なくらい?小さめでも大丈夫です。」
1,000,000マナゴールドと言うのは、今の宿が一人1日2食付きで100マナゴールドなので、およそ27年分になる。4人であれば7年分弱だ。
やや高級な宿なはずなので、安い家なら買えるのではないかと考えている。
「それであれば・・・、ご購入でいくつかご案内することが出来ますね。立地はあまりいいとは言えませんが。」
「立地は気にしなくても大丈夫です。出来れば閑散としてるくらいの方がありがたいですね。」
「そうですか・・・。では閑散とは少し違いますが、こちらはいかがですか?職人街の中にあるので少々うるさいですが人通りは少なく、サイズも手頃ではないかと。」
そうして見せられたのは2階建の建物。
元は工房だったのか1階は倉庫と作業スペース。
2階は小さな部屋が4部屋とダイニングキッチンのようだ。
建物の裏には小さな庭もある。
倉庫と作業スペースは想定していなかったが、余りにも条件に合いすぎていて驚くカイト。
「えっと、非常に好ましい物件ですが・・・。そもそもなぜこの物件を?」
「勘です。と言いたいところですが、立地も気にしなくて、閑散としているところがいいとのことだったので、あまり|人気≪にんき≫のない物件をとりあえず紹介することになっているのです。やっぱり駄目ですよね。」
「いえ、先程も言ったように好ましいです。倉庫とか作業スペースは考えてなかったんですが、あれば便利に使えますし。多少の騒音は気にしないのでそちらも大丈夫です。」
「多少の騒音で済めばいいんですが。とりあえず見に行ってみますか?」
「お願いします。」
ー▼ー▼ー▼ー
その物件は職人街ということもあって、街の中心からはそれなりに離れていた。
騒音も予想していたよりは大きい。
しかし建物は予想よりも綺麗で、しっかりしていた。
「やっぱりうるさいですよね?」
「いえ、これくらいなら大丈夫です。夜もこれだけうるさいんですか?」
「夜は流石に大丈夫です。たまに追い込みの仕事をする方もいますが、流石に気を使うようで。皆も似たようなことがあったりするので半ば諦めもあるとは思いますが。」
「夜眠れないほどでないなら大丈夫です。」
「それではっ!」
「ええ、ここを購入させていただきたいと思います。」
値段は800,000マナゴールド。
正直カイトには高いか安いかも分からない。
「それでは早速戻って手続きさせてくださいっ!」
不良在庫が売れるのが嬉しいのかテンションが急上昇の受付嬢であった。
ー▼ー▼ー▼ー
「それではこちらにサインを。それとパーソナルカードを拝見させて頂けますか?」
契約には身元証明が必要だろうと、【職業体験】は【軽戦士】にしてある。
「はい。確認させていただきました。若くして家を持とうとするだけあって優秀なんですねっ!」
カイトの年齢で上級職、3次職であるのは非常に稀だ。受付嬢がこう言うのも当然だろう。
「早く自立したくてちょっと無理しましたから。」
そう無難に返しておく。
「それでは書類は大丈夫ですのでお支払いをお願いします。」
「はい。」
再度パーソナルカードを相手のカードにかざして支払いを完了させる。
「値切りもしないなんて、剛毅ですね。」
「世間知らずなので・・・。今回はこれで大丈夫です。ただ、何かあったら助けてくれると助かります。」
「ええ。こちらとしてもすごく助かりましたから、何かあれば遠慮なく言ってくださいね?」
カイトが若い分親しみやすいのかやや口調が砕けている。
ちなみにフェリアもいるのだが、静かにしている。
多少の会話はしているのだが、カイトに任せるつもりのようだ。
まぁ世間知らずの程度はどちらも変わらない。
「それではこちらがあの物件の権利書になります。失くさないようにきてくださいね?」
「ありがとうございます。」
無事物件を購入したカイト達はルナ達と合流するべく『風鳴り亭』へと戻った。
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