4-25 フェリア追放の真実

 「それでフェリア様、カイト殿。今後はどうされるおつもりか?」


 ある程度戦後処理が進んだあと、アルマリアとの話し合いの場が持たれることになった。


 「どうするって言われてもアルマリアがどうするつもりなのかが重要なのよね?」


 カイト達は色々話し合ったものの、アルマリアがフォレストリア家にどう報告するかでかなり変わると、結局結論は出なかった。

 いつでもノースビーストリムから離れられるように準備はするものの、アルマリアを矢面に立たせたおかげで、カイト達は何をしたか知られていない。

 アルマリアの傍に控えていたものの、カイトもフェリアもフードを深く被っていたので顔は見られていないはずだ。


 「あの・・・そもそもどうしてお二人はそこまでお家を警戒されているのですか?お二人の力があれば、戦うにせよ逃げるにせよ、どうとでもなるのでは・・・。」


 「それも考えなくはなかったけど、ここまで力がついたのは最近だし。まだまだ力不足を痛感したところだしなぁ。」


 「そうよね。それに私達だけが強くてもどうしようもないでしょ?アルマリア、貴女なら分かるでしょ?」


 フェリアが言っているのは、関係者を人質に言うことを聞かせようとする手法が存在することだ。


 「それは・・・そうですね。」


 「もうちょっと圧倒的に強ければそれも選択肢かも知れないけどな。」


 圧倒的な強さがあれば、即座の反撃などを考えて何もできない可能性もある。

 というか即座に反撃できるだろう。


 「なるほど。そういうことを警戒して魔法契約まで使ったんですね。」


 「そういうことさ。フェリアにアルマリアさんと会わせてあげたかったってのもあるけど。」


 そうでもなければ回りくどいことはせず、街から去るなり、単独で事態の収拾に当たるなりしたはずだ。


 「ねぇ、アルマリア。結局お父様、フォレストリアは何がしたかったの?私を殺すにしては中途半端よね?それに貴女は【隷属使役】されてるのよね?イメージする隷属とは随分違わない?」


 隷属されていれば自分の意志などなさそうなものだ。

 そうでなくてもかなりの制限があるはずだろう。

 しかしアルマリアにはそのような傾向は見られない。


 「そうですね・・・。まずフォレストリアの考えですが・・・。フォレストリアの言い伝えにこんなものがあるそうなんです。『鮮緑は災厄である。ただし災厄を殺してはならない。災厄は福音とも成り得るのだから』と。」


 今のカイト達ならばこの言い伝えの意味は分かる。

 『鮮緑』とはフェリアのような髪の色を持ち、精霊と感応できる素質を持つ子供のことだろう。

 『災厄』とは【感応士】を成長させられず、精霊を暴走させ被害を齎すこと。

 『福音』とは【感応士】を成長させ、強大な力を持つこと。

 つまり、【感応士】の存在を遠まわしに表現しているのだ。


 「災厄というのは知っていたけど、そんな内容だったのね。『殺してはならない』から『魔物に襲われて死んだ』ことにしようとしたということ。・・・呆れるわ。」


 「い、いえ。決してそういう訳ではないのです。ただ・・・。」


 「何か他にあるって言うの?」


 「フェリア・・・。」


 フェリアはやや感情的になっているようだ。

 無理もない。

 言い訳にもなっていないような言い訳で殺されかけたのだ。


 「これは聞いた話ですが。フェリア様は生まれてすぐその存在を秘匿されました。広まってしまうと『災厄』を恐れるあまり、何をしでかすかわからない連中がいるから、と。ですが、当然隠しきれない相手も御座いました。直近の分家筋です。その方たちがご当主様に詰め寄りました。『災厄は福音と成り得る存在なのか』と。」


 アルマリアはそこで話を区切り、喉を潤す。


 「とりあえずフェリア様が15歳となるまで様子を見ることになりました。しかし・・・フェリア様が得られたのは・・・。」


 「希少職ね。」


 「そうです。そこで分家筋はこう考えました。『希少職が福音のはずがない。福音でなければただの災厄だ。福音の可能性のない災厄であれば殺してもよい。』と。」


 見事な三段論法である。

 実際はその希少職を育てることが福音であるのだが。


 「そして、それはフェリア様の引き渡し要求に繋がりました。恐らく処刑するつもりだったのでしょう。そこでご当主様は苦渋の選択で、引き渡す代わりに宵闇の森へ追放することを決定しました。当然引き渡しを要求してきた者たちは反対しましたが、『追放するということはフォレストリアでなくなるということだ。直接殺すわけでもないので言い伝えに反することもない。そうなれば災厄など気にすることはないだろう?』として納得させました。」


 こちらも三段論法だ。

 いつの間にか災厄がフォレストリア家系に対してのものだけになっているが。

 引き渡しや処刑の大義名分を失わせる方法としては良策だろう。


 「そうして追放は実行された、と。」


 「はい。それで、私がこの街の調査を名目に護衛を任されました。他の護衛の攻略者は追放が実際に行われたかどうかの確認をするための人員です。そのため、宵闇の森では比較的魔物が出現する可能性の低い場所をこっそり選ぶことは出来ましたが、あれ以上浅くというのは無理でした。」


 「アルマリアとしてはもっと浅い場所がよかったってこと?」


 「私としてもそうですし、ご当主様としてもそうだと思います。」


 「それでも森を出られたのは完全に偶然だしな・・・。」


 「そこは・・・。こちらも出来得る限りの手を打ったつもりですが、そこだけはどうしようもなく。ノースアクアリムとノースビーストリムには連絡員も居て、予定通り戻らなければ疑われかねませんでしたし。私はこの街で調査の予定があったので、護衛に加わっていた攻略者たちがノースアクアリムに向かったはずです。」


 「やっぱり危なかったな。目立たないようにして良かったんだろう。」


 「そうね。そこでもカイトに助けられたわ。」


 宿でなく孤児院で保護されたのもフェリアが見つかることがなかった大きな要因だろう。


 「大きな賭けでしたが、再びこうしてお会いできたこと、本当に嬉しく思っております・・・。」


 「疑問なんだけどさ。なんでフェリアに本当のことを伝えてなかったんだ?」


 フェリアに本当のことを伝えてあれば、もっと安全に行動することも出来たはずである。


 「ご当主様にも伝えるべきだとは申し上げたのですが・・・。『最初に憎まれるべきは自分である』と頑として聞き入れてくださらなかったのです。」


 「それは・・・深い意味があるのかも知れないけど、自己満足でしかないだろう・・・。」


 カイトは呆れるようにそう言った。

 実際にフェリアは最初出会った時は絶望していた。

 もしフェリアに伝えていれば、そんなことはなかったはずだし、アルマリアとの接触にも苦労しなかったはずだ。


 「そうね・・・。お父様が色々考えて下さったって言うのならば、そこには別の本心もあったと思うわ。」


 軟禁されていたとは言え迫害されていたわけではない。

 追放以外にフェリアに思うところはない。


 「まず、私に希望を持たせたくなかった。上手くいかなかった時のためと、周りにいる人に悟らせないため。絶望していれば生還する可能性も減るわけだし。こんなことが考えられるわね。あとはアルマリアの態度から悟らせないためかしら?」


 「でも生還する可能性を減らしたら意味ないだろ?」


 「そうは言っても希少職だもの。元々かなり分の悪い賭けのはずよ。生還するには奇跡が必要なくらい。」


 そして実際奇跡は起こったのだ。

 精霊の声が聞こえなければ、カイトに出会わなければ、フェリアは生きては来られなかっただろう。


 「そう言われると、そうかもなとしか言えないな。」


 カイトは苦笑する。


 「それで・・・フェリア様は『福音』となられたのですか?」


 「そう言われてもねぇ。力は得られたけど、そんな大層なもんじゃないわよ。」


 「そうですか・・・。『福音』であれば・・・。」


 「戻る気はないわよ。あの追放された時の絶望は忘れられないわ。この話を聞くまでは『復讐』を考えていたくらい。」


 アルマリアの呟きに反応してフェリアが言い放った。

 フェリアの言う復讐は災厄のようなものではないのだが、半分悪戯のようなものだろう。


 「ふ、復讐?!それはっ!」


 「話を聞くまではって言ったでしょ?あー、でも私を引き渡せと要求したところにはしてもいいかもね?」


 「そんなこと先に言ったらどこの誰か分からなくなるだろ?」


 カイトも便乗してアルマリアを脅しにかかる。


 「そ、それは・・・。私としてもお伝えしたいのですが・・・。」


 慌てるアルマリアを見てフェリアが楽しそうに笑った。


 「あはは。冗談よ、冗談。そんな復讐なんてしないわ!」


 「するのは『ランク5ダンジョンを攻略して追放したことを後悔させる』って程度の復讐さ。」


 「お嬢様っ!カイト殿も!驚かせないでください!今のあなた達は冗談で済まないのです!!」


 「あははっ!ごめんなさい。でもアルマリアが悪いのよ?私をあんなに泣かせるなんてっ!うぅ・・・。」


 カイトは安心する。

 フェリアのこれだけの笑顔、涙も流しているが、を見るのは初めてだったからだ。


 追放の真実を聞いて、蟠りが全て霧散したのだろう。

 いくら気にしていないとは言ってもフェリアの心に痼りとなっていたのだ。


 フェリアとアルマリアは泣きながら、改めて再会を喜んでいた。

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