4-24 戦後の反省会
アンデッドの大群を退け、ノースビーストリムは滅亡の危機を乗り越えた。
死亡者は0。
怪我は当然回復魔法でよくなるので損耗はないと言っていい。
対外的には、今回のアンデッドの襲撃は自我を得た|エルダーレイス≪・・・・・・・≫によるものだと言うことになった。
討伐したのはアルマリアだと言うことになっている。
実際アルマリアには、グール討伐隊が出発したと同時に敵本陣に切り込んでもらった。
【ネクロマンサー】が居たということを知るのはカイト達とアルマリアのみだ。
そのアルマリアも本当の黒幕はエルダーレイスだと知らされている。
エンシェントレイスであったことをカイト達は伏せたのだ。
エルダーレイスは、エンシェントレイスの下位に位置するモンスターで、その強さはランク3の最上位クラスだ。説得力は十分あるだろう。
ゴーストという男が何を考え、何をしてきたのか
はっきりしたことは分からなかった。
しかし、現実として、希少職として虐げられた人間が力を持って復讐に走った。
同情することも擁護することも出来ないが、カイト達の心中には複雑なものがあった。
カイト達にとってゴーストの姿はあり得た自分の未来だったのだ。
ー▼ー▼ー▼ー
「反省しなきゃいけないこともいっぱいあるけど、とりあえずお疲れ様だな。」
「ん。疲れた。」
「頑張った。」
実際ルナとレナはレッサーとは言えドラゴンを討伐した。
【ジェネラリスト】というジョブの特性を活かしきった形での勝利だ。
その疲労はかなり強いだろう。
「目先の戦果は予定通り全部アルマリアってことになったし、それなりの時間は稼げたってことになるのかしら?」
フェリアはアンデッドオーガの群れを単独討伐した。【ルインフィールド】で強化されたオーガはランク4下位程度の力は持っていたはずだ。
今回は準備時間が有ったとはいえ、かなりの戦果だ。
さらにエンシェントレイス戦では、フェルムとの【エレメンタルフィールド】で重要な役割も担った。
複数の属性をいつでも扱えるのはかなりの強みと言えるだろう。
その上、エンシェントレイス戦後、光と闇の魔力に惹かれてやってきた精霊が2体新たにフェリアと契約を結んだ。
光の精霊はイルム、闇の精霊はトルムと名付けられた。
さらに戦力幅が広がった形だ。
契約にかかったマナゴールドは20,000と40,000。
次があれば80,000。その次が100,000だろうか。
2体が興味を持った武器は双方とも弓。
顕現時の姿も双方とも妖精型で、性質は真逆であるが双子のような感じだ。
「そうだなぁ。ゴーレムを使っちゃったし、陣地作りは目立っただろうけど、今後のことを考えるくらいの時間は出来たかもな。」
カイトは今回の主戦力を担ったが、その内容には不満だらけだった。
ゴースト戦でもエンシェントレイス戦でも単独で近接による攻撃を当てられなかったからだ。
いくら相手の方がステータスが高いとは言え、近接職でない相手にこれはいくらなんでも情けない。
レベル上げ優先で技術を疎かにしてきた弊害だろう。
もちろんレベルが上がれば、技術の差なぞひっくり返せることも多数あるのだが。
それでも少し程度であれば格上に通用する技術を身に付けるのは喫緊の課題と言えるだろう。
今後のことを考える上では重要なことだ。
カイトの課題は他にもある。
技術を身につければ代替可能かも知れないが、その課題とは突発戦闘における手数の少なさである。
【ものまね】【職業体験】は1時間は変えることが出来ず、即応性は低い。
【スキルスロット】を【スキルチャージ】に回してしまえば、使えるのは【ものまね】と【職業体験】に設定したスキルと【サードジョブ】に設定したジョブのスキルだけだ。
まだ得たばかりの【サードジョブ】なので今後期待出来なくもないのだが、【遊び人】系統と【技能士】系統を活かすのであれば、少なくとも戦闘中でも【スキルスロット】を扱えるようにならなければならないだろう。【スキルチャージ】に拘らず、【スキルスロット】を即座に切り替えられるのであれば、打てる手は増えるのだ。
「カイトの反省点も理解できるけど、私ももっと【精霊術】を扱えれば、もうちょっと楽に戦えたはずなのよね。」
現状のフェリアは、大規模大威力か、小規模小威力の攻撃方法しか持たない。
大規模大威力の方法だと、ミスをした時点で詰んでしまう。精霊にほぼ全ての魔力を渡して行う【精霊憑依】や【精霊術】がそれだ。
逆に小規模小威力は、ほぼ消費はないが、決定力を持たない。ただの【精霊弾】ではランク4のモンスターと戦うには力不足だ。ランク2辺りであれば無双できるのだが。
そうなると精霊と協力して契約者のイメージで様々なことが出来る【精霊術】の練度を上げて、中規模中威力の攻撃方法を確立する必要がある。
カイトはそんなフェリアの反省を聞いてアドバイスをする。
「普段の魔力は【精霊顕現】に回して、あとはフェリアのイメージ力を高めていくといいんじゃないかな?規模に応じて段階を作って、それで決めるとか?」
実際に【精霊術】の発動条件はかなり曖昧だ。
今回使った【土壁】は作戦に使用したので、かなり具体的な情報を与えたため上手くいった。
咄嗟に使用する場合はイメージが曖昧になり、規模が大きくなりやすい。
もっと便利に使うにはいくつか段階を作ってイメージを固めていく必要があるだろう。
「なるほど。精霊たちももっと頑張るって言ってるし、色々考えてみるわ。ありがとう。」
「ん。ルナも。」
「ん。レナも。」
フェリアはある程度の道筋はついたようだが、今度は双子だった。
「ルナとレナは十分じゃないか?今でも十分【ジェネラリスト】の特色を活かせてると思うけど。」
「んー。火力?」
「ん-。魔法以外?」
ルナは火力に不満。レナは魔法しか使わないことに不満を持っているらしい。
「なるほど。火力に関しては難しい気がするけど。俺が思いつくのは【補助魔法士】の魔法と、【格闘士】の【ステップ】、【重戦士】の【ウォークライ】を活かして、近距離戦?そうすれば【格闘士】の【インファイト】も効果が出るから火力はあがる・・・。危ないし、失敗すれば【コンビネーション】の効果も途切れるけどな?」
○【パワーアップ】:対象の攻撃力・魔法攻撃力を一定時間上昇させる。
○【ガードアップ】:対象の防御力・魔法防御力を一定時間上昇させる。
○【スピードアップ】:対象の敏捷性を一定時間上昇させる。
○【ステップ】:自身の敏捷性を一定時間上昇させる。
○【ウォークライ】:自身の筋力を一定時間上昇させる。
○【インファイト】:至近距離で戦う際、攻撃力にボーナスを与える。
バフスキル、特に敏捷性を上げるものを多数使うと思考が追いつかなくなる欠点がある。回避という面ではかなり有効なのだが、使いこなすには熟練が必要だろう。
「ん。なるほど。」
「頑張る。」
「あと思いつくのは【集中】を使うってことと、短剣なんかを両手に持って手数を増やすことかな?」
「双剣!」
「集中?」
双子の双剣使いとかなんかかっこいいな、とかカイトは思いながら【集中】について説明する。
【集中】は【職人】が覚えるスキルだ。
そしてその【集中】は【工芸士】の【集中強化】で強化される。
○【集中】:自身の器用さを一定時間上昇させる。
○【集中強化】:【集中】の効果をさらに上昇させる。
【スキル情報】上の説明では「器用さを上昇させる」としかないが、実際に使用すると注意力や思考速度にも影響を与えている。
器用さそのものも双剣を扱う上で重要そうであるし、バフスキルで上がった速度を扱うにも使えるだろう。
「ん。理解。」
「組み合わせ大事。」
この多彩なバフスキルは【ジェネラリスト】ならではだ。使いこなせればきっと戦力はかなり上昇するだろう。
こうして戦後の反省会では各々が課題を見つけ、今後の育成方針を見定めることが出来た。
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