4-23 本当の黒幕

 「誰だっ!」


 カイトが警戒しながら辺りを見渡す。

 しかし誰もいない。


 『ふむ。この者に憑いていた霊である、とでも言っておこうか。』


 ゴーストと【ポゼッション】していた霊だろうか。


 「おいっ!助けてくれ!」


 ゴーストがその霊に助けを求める。


 『ふむ。それも一興よな。ただしこれ以上求めるのであれば人間を辞める必要があるぞ?』


 「そんなことはどうだっていい!頼む・・・。」


 『ふははは!契約成立だ!』


 霊がそう言った途端、ゴーストの周りに魔力が吹き荒れる。

 次の瞬間、ゴーストの体が消滅し、その魔力が霊に流れ込んだ。


 「カイトっ!あれは危険よ!精霊が騒いでる!!エンシェントレイスだって!!」


 「エンシェントレイスだって?!ランク4最上位じゃないかっ!」


 「ん。危険。」

 「どうする?」


 「戦闘準備だっ!ここで止めないとっ!」


 エンシェントレイスはレイス系最上位の魔物で、ランク4の中でも最強の類だ。

 物理攻撃はほぼ効かず、攻撃するには魔法に頼るしかない。

 攻撃面では4属性魔法を使いこなすと言われている。


 カイトは咄嗟に【スピリットリンク】をリリースし、【スキルスロット】で【魔法戦士】の【マジックウェポン】の一つである【ライトウェポン】を使用する。

 【ものまね】には【リフレクション】を指定。

 【職業体験】は【パラディン】のままだ。


 「フェリア!フェルムの力は?!」


 「大丈夫!」


 「ぎりぎりまで待機して力を溜めさせてくれ!ルナ!レナ!散開して魔法準備!回復も任せる!」


 「ん。任せて。」

 「行く。」


 そうしてエンシェントレイスを囲んで戦闘準備を完成させる。


 『ふははは。我に抗おうと言うのか?いいだろう。せっかく手に入れたこの力、試してみようではないか。』


 「その前に少し話でもしないか?」


 『ほう。慌てて対応した割には落ち着いてるな?』


 「まぁな。ゴーストから聞き出したかったことがあったのにお前に食われてしまったからな。」


 『いいだろう。ここで果てる汝らが聞いて意味があるかは分からないが、冥土の土産にはなるだろう。何でも聞いてみるが良い。』


 「ゴーストがここまで力を得たのはお前がいたからか?」


 『いかにも。我が誘導し力を得させた。思った以上に力を持ち、我まで使役するとは思わなかったがな。』


 「つまり俺がゴーストの力を封じたことでお前が自由になり、その後ゴーストの力を逆に取り込んだと、そういうことか?」


 『そうだ。お陰で過去最高の力を得ることになった。感謝するぞ。』


 「そうか・・・。ゴーストに同情することはないが、お前を解き放ったのは俺の責任だ。全ての元凶がお前だったと分かった今、責任を持って打ち果たしてやる!!」


 カイトは時間を稼ぎ、【スキルスロット】のクールタイムを経過させることに成功した。

 そしてそこに【魔法戦士】の【バーストストライク】を指定する。


○【バーストストライク】:【マジックウェポン】の力を解き放ち攻撃する。使用後【マジックウェポン】の効果は消失する。


 【ライトウェポン】と【バーストストライク】、それに【パラディン】の【ディバインストライク】は、エンシェントレイスのような霊系モンスターへの切り札だ。


 『なんだ、もういいのか?それでは遠慮なく行くぞ?【ダークイロージョン】。』


 まさかの闇魔法。

 その恐ろしさをカイト達はよく知っている。


 「【リフレクション】!!」


 【ものまね】に指定しておいた【リフレクション】を使用。

 闇の霧が展開されるのをなんとか防いだ。


 『ほう。そんな高度な魔法が使えるとは。とても【メイジ】には見えないが?』


 「色々あるんだよ。まさか最初から切り札を使わされるとはな。今度はこっちから行くぞ!」


 カイトが【ライトウェポン】で強化された剣を振りかざし、エンシェントレイスに肉迫する。


 『その剣は怖いな。』


 そんなことを言いながらカイトから逃れるように移動する。


 そこにフェリアの【精霊弾】が。


 『ぬっ。・・・これは魔法ではないな?厄介な。』


 間髪入れずにルナとレナのボール系魔法が。


 『鬱陶しい!【ダークバースト】!』


 「ぐっ!」「きゃっ!」「「うっ。」」


 闇属性範囲攻撃魔法だ。


 「回復をっ!それと攻めていれば恐らく【ダークイロージョン】は無理だ!フェリアはどんどん【精霊弾】を頼む!」


 『くははっ。まさかこれほどまでに戦えるとは。ゴーストとの戦いは手を抜いていたな?』


 「殺す気はなかったんでねっ!」


 そう言いながらエンシェントレイスに攻撃する。


 カイトの攻撃だけは受けまいと回避に徹するエンシェントレイス。


 【精霊弾】とボール系魔法は当たっているがダメージになっているかは疑問だ。


 「フェリア!タイミングを見て【エレメンタルフィールド】を!」


 「分かったわ!」


 フェルムの命属性の【エレメンタルフィールド】であれば一瞬動きを止めることくらいは可能だろう。

 エンシェントレイスは【精霊憑依】は知らない様子なので、今の指示だけで何をするかは不明のはずだ。


 エンシェントレイスは隙を見て【ダークバースト】を唱えてくる。

 範囲攻撃であるため、回避するのは非常に困難だ。


 ルナとレナの攻撃力上昇にも期待できない。

 【バリエーション】分の上昇はあるのだが。


 『汝らは不思議であるな。』


 戦いながらエンシェントレイスが語りかけてくる。


 「何がだよっ!」


 『戦い方が多様であるし、ゴーストが憎んでいた攻略者とは比較にならぬほど能力が高い。』


 「そうかぃっ!こんな所で死ぬわけにはいかないものでねっ!」


 相変わらずカイトの攻撃は当たらない。

 というか警戒されている。


 「ルナっ!光を!」


 「ん。」


 ルナに指示。

 使うのは閃光爆弾だ。


 『ぬおっ。』


 「くらえぇぇ!【ディバインストライク】!」


 閃光爆弾は効果覿面だった。

 カイトが与えたダメージも大きい。

 【ライトウェポン】による【ディバインストライク】で2重の光属性攻撃である。


 『ぐぅ・・・小癪な。』


 それでも討伐にはほど遠いようだ。

 同じ手は二度と通じないだろう。


 エンシェントレイスが次に打った手は、【ダークボール】の高速使用。

 カイトの足を封じるつもりだろう。


 カイトも流石の数の多さに足を止め盾で受けるしかなかった。


 【リフレクション】は使えない。

 消費も大きいし、クールタイムも長いからだ。

 【ダークイロージョン】対策として取っておくしかない。


 カイトは【パラディンガード】を再使用。

 急に途切れると危険だからだ。

 【セルフリカバリー】で気力を維持し、ルナとレナの【ヒール】と【リジェネレーション】で耐える。


 その間もフェリアの4属性の【精霊弾】はエンシェントレイスに当たっている。

 何の痛痒も与えていないようだが、それも作戦のうちだ。

 フェルムは参加せず、精霊石の中で精霊力を限界まで蓄えている。


 「カイトっ!」


 そのフェルムの力が十全になったようだ。


 「頼む!」


 フェリアがフェルムを【精霊憑依】でその体に宿し、命属性の【エレメンタルフィールド】を使用する。


 アンデッドに特攻のある命属性だ。


 『ぐ・・・なん・・・だ、これ・・は・・・。』


 狙い通りエンシェントレイスの動きを封じることに成功。


 【ダークボール】の圧力から逃れたカイトはエンシェントレイスに止めの一撃を叩き込む。


 「これでっ!終われぇぇぇ!【バーストストライク】!!」


 【スキルチャージ】で増幅された光属性の【バーストストライク】。

 それは闇属性でアンデッド、さらに命属性の【エレメンタルフィールド】で弱体化したエンシェントレイスに絶大な効果を与えた。


 『まさか・・・こんなことが・・・。ぐぁぁぁ。』


 形を失い、溶けるように消えていくエンシェントレイス。


 「ん。終わった?」

 「勝った?」


 「ああ。終わったっぽいな。」


 「勝ったのね。あんな強敵に。」


 「本当の黒幕ねぇ。ゴーストも結局死んでしまったしどうしたもんかね。」


 「エンシェントレイスが出現して、さらにそれを討伐したなんて誰も信じないわよね。」


 「ん。オーガ。」

 「行ってくる。」


 フェリアの倒したオーガを拾いにいくようだ。


 「そう言えばオーガとレッサードラゴンのこともあるんだな。やれやれ。」


 こちらはアルマリアも把握しているので問題はないだろうが。


 「とりあえず街の近くのアンデッドがどうなったか確認しにいかないとな。」


 そうして4人はノースビーストリムへと戻るのだった。

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