4-22 vsゴースト

 「うひゃっ!な、なんでそれを!それになんでそんなに速いんだ!!」


 情けない声を上げながら無様に躱すゴースト。


 「まぁ速く動けるから速いだけだし、知ってる理由を話す義理はないな。というか、お前を守るアンデッドもいないんだし、さっさと諦めたらどうだ?」


 「な、何を!あ・・・あれ?オーガは?というかあの壁は何?」


 「今頃言ってるのか・・・。俺の仲間だよ。というわけでドラゴンもオーガもいない。どうするつもりだ?」


 急に動き出したドラゴンのせいで落下。その後混乱していたとは言え、余りにも現状把握が疎かである。

 この時点で、戦闘慣れしていないのがはっきりと分かる。


 「く・・くそっ!お、お前らに僕のドラゴンが倒せるわけがない!!そ、それに僕にはまだ手はあるんだ!」


 そうして【サモンアンデッド】を使用したようだ。

 数体のスケルトンが現れる。


 「今更スケルトンなんて意味ないだろ?」


 カイトは現れた端からスケルトンを倒していく。


 「というわけで大人しく捕まってくれないか?」


 意識を奪うくらいの攻撃をすることも出来なくはない。

 しかし、【スピリットリンク】を奪うのと同様、ゴーストが意識を失った場合、アンデッドがどう動くのかわからない。


 「も、もう許さないぞ!」


 そう言ってゴーストは新たなスキルを使用する。


 辺りが暗くなる。


 【ルインフィールド】を使用したようだ。


 「ふむ、これでドラゴンやオーガが駆けつけてくれるのを待つのか?」


 カイトとしてはゴーストの心を折ってしまいたいのだが。


 「だ、だからなんで分かるんだよ!!もういい!もっと来い!アンデッド達!!」


 そう言って再び【サモンアンデッド】。


 【ルインフィールド】で強化される分、確かに厄介にはなる。


 相手がカイトでなければ、だが。


 「無駄だって言ってるだろ?それともレッサードラゴンみたいなのがまだ呼べるのか?」


 「ひ、ひぃ。もっとだ!もっと来い!!」


 それでもどんどんと呼び出し続けるようだ。

 心はかなり弱ってきている。


 「な、なんでドラゴンもオーガも来ないんだよ!こんなはずじゃなかっただろ?!」


 「俺の仲間がちゃんと相手してくれてるよ。もうすぐオーガは片付くんじゃないか?ドラゴンは流石にもうちょっとかかるかな・・・。」


 「ふ、ふざけるなっ!!もういいっ!ぼ、僕自身がやってやる!!」


 ゴーストがそう言うと、何らかの力がゴーストに宿ったようだ。

 【ポゼッション】だろう。


 カイトは【テイクスキル】を使う準備をしながら様子を見る。


 すると馬鹿げた威力の【ファイアアロー】がカイトに向かって飛来した。


 何とか盾で防ぐカイト。


 「ぐっ・・・。」


 それでもかなり後方へと押し込まれる。


 「はははっ!僕をバカにするやつはみんな死んじゃえばいいんだ!!」


 様々な属性の【マジックアロー】がどんどんと打ち込まれる。


 少し下がったおかげで何とか回避は出来ているが、【テイクスキル】を使用する暇はない。

 【テイクスキル】は強力な分、使用するには相手に接触する必要がある。


 (これは・・・元々触れるのは難しかったのに、この状況じゃさらに・・・。幸いまだ対応できる範囲ではあるけど・・・。)


 余裕そうにしていたカイトだが、実は【テイクスキル】を使用する隙はずっと伺っていた。

 出来れば使わずに済むのが一番だとは考えてはいたものの、自分よりステータスの高いものを舐めるほど愚かでもない。


 「はははっ!あれだけ強気だったのに避けることしか出来ないのかぃ?!」


 「うーん、まぁそれだけバンバン打ってたら魔力切れもすぐかなってな。この暗くなったのだって維持には相当かかるんだろ?」


 「今の僕に魔力切れなんてあるものか!こんなに力が溢れているのに!!」


 そんなはずはない。

 カイトの【スキルスロット】には様々な制約があるし、フェリアの【精霊弾】は無制限に見えて、精霊の力という制限がある。


 「ふーん。まぁこの程度避けるのに苦労はないし、試してみるか?」


 「このっ!舐めるなっ!!」


 熱くなれば単調になる。

 単調になれば隙が出来る。

 実際はそこまで余裕はないのだが、カイトはゴーストの挑発を続ける。


 現在のカイトの【スキルスロット】には【シャイニングレイン】。

 レッサードラゴン級のアンデッドが召喚される場合に備えていたものだ。


 【ものまね】には【アイテムボックス】。

 今回のために色々と有用な道具を集めたので、それを使うためだ。


 【職業体験】には【パラディン】。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【パラディン】

基本4次職

転職条件

 【重戦士】をマスターする

 【回復魔法士】をマスターする

成長条件

 特になし

レベル上限:70

習得スキル

 【セルフリカバリー】(1)

 【パラディンガード】(30)

 【ディバインストライク】(60)


○【セルフリカバリー】:自身の気力を回復させる魔法。【リカバリー】より強力。

○【パラディンガード】:自身の防御力を一定時間大きく向上させる。

○【ディバインストライク】:光属性の大ダメージを与える。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 (今【スキルスロット】を切り替えるのは無理っ。でも【テイクスキル】を使うなら【スキルスロット】は空にしないと・・・。隙を作らないと【セルフリカバリー】があるとは言え、ジリ貧なのも間違いない。こうなったら相手のステータスに期待して【シャイニングレイン】を撃つしかっ!)


 「なぜ当たらないっ!」


 「そう簡単に当たってたまるかよっ。それよりいいのか?そんなに熱くなってたらアンデッドの制御が疎かになるんじゃないのか?」


 「はっ!例え僕が死んでもアンデッド達は止まらないさっ!ノースビーストリムは今日滅ぶんだっ!」


 「そうかぃ。それはいいこと聞いたぜ。どうせ変わらないなら殺したところで問題はないな?」


 「抜かせっ!必死で避けてるだけのくせにっ!」


 この間も【マジックアロー】系の魔法はどんどんと打ち込まれている。

 

 しかし、カイトにとって重要な情報を手に入れた。


 (あんまり考えてないみたいだし、色々話してくれて助かるな。)


 アンデッドの行動がゴーストの制御下にないのであれば、【ネクロマンサー】のスキル構成の中心である【スピリットリンク】を奪うことも出来る。

 【スピリットリンク】さえ奪ってしまえば、アンデッドに新たな指示を出すことも出来ないはずだ。


 当然カイトは【職業体験】で【霊感士】系統も試してはいた。

 しかしフェリアの【感応士】同様、扱うことは出来なかった。

 『素質』というのはこの2つのジョブを扱う上で重要なのだろう。


 そうしてカイトは【シャイニングレイン】を使うことを決める。


 「死ぬなよ?」


 ゴーストは戦闘慣れしていない。

 予想外のことが起きればパニックになって隙が出来るだろう。


 【スキルチャージ】があるとは言え、先に【挑発】を使っている。この短時間ではそこまでチャージも出来ていない。


 4次職の高レベル2つと【ポゼッション】のステータスなら死ぬことはない・・・はずだ。


 そう考えてカイトは【シャイニングレイン】を発動させた。


 光の矢が降り注ぐ。


 そしてそれはゴーストを次々と貫いた。


 「ぎゃぁぁ!痛い!痛い!なんだこれ!!」


 その隙にカイトはゴーストに走り寄り、頭に触れ【テイクスキル】を発動する。

 奪う対象は【スピリットリンク】。


 ジョブの要を奪われたゴーストから【ポゼッション】の力が失われる。


 「うわぁ!ち、力が・・・。お、お前、何をしたんだ・・・。」


 【シャイニングレイン】で傷ついた挙句、【ポゼッション】の力まで失ったゴーストは瀕死だった。


 「さぁな。これでもう抵抗出来ないだろう。丁度オーガもドラゴンも終わったみたいだぞ?」


 周りを見渡すと、すでにゴーストとオーガを分断していた壁はなくなっていた。


 そしてドラゴンはというと、凄まじい炎の矢に貫かれたところだった。


 「ははっ・・・。まさかこんなことに・・・。」


 ゴーストが力なく項垂れる。


 「カイトっ!」


 フェリアが駆けつけてきた。無傷のようだ。


 「ん。終わった。」

 「ちゃんと回収。」


 ルナとレナも同様だ。


 「お疲れ様。こっちも終わった・・・と思う。」


 もう為す術はないはずだ。


 「はははは・・・。こんな子どもにやられるなんて・・・。」


 『確かに興味深いな。』


 現実を受け入れられないゴースト。

 そこに不思議な声が響いた。

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