4-21 それぞれの戦い
開戦の狼煙を上げたのはカイトの【スキルチャージ】からの【挑発】である。
【挑発】は人である【ネクロマンサー】のゴーストには効果は薄いが、ゴーストが乗っているレッサードラゴンなら話は別である。
【スキルチャージ】したのは、通常の【挑発】では使役されたアンデッドには効果がない可能性を考えたため採った手段だ。
カイトの放った【挑発】の効果は、その狙いを違わず、レッサードラゴンの急な方向転換と動作を生み出した。
その上に悠然となっていたゴーストは踏ん張る暇もなく落下する。
カイトに向かってレッサードラゴンが走り出したのと同時に他の3人も行動を開始する。
ー▼ー▼ー▼ー
まずフェリアだ。
フェリアは落下したゴーストとアンデッドオーガの間まで走り切り、顕現したカルムとの【精霊術】で足元に高さ10m幅5m長さ20mほどの壁を作り出す。
これは現在のフェリアの全魔力をカルムに渡して作れる最大サイズの壁だ。
これが作れることから、オーガの相手がフェリアとなったのだ。
今回は予めカルムに魔力を渡していたので、フェリアの魔力は完全ではないものの回復し、十分と言える魔力量は確保できている。
「さて後はここから撃ち続けるだけね。」
後ろにいるゴーストに気をつけつつ、今度はアルムとの【精霊憑依】を行う。
銃を好むアルムとの【精霊憑依】では、他の精霊達の【精霊弾】も銃から放てるようになる。
カトレアから託された魔法銃は魔石の魔力を利用するので、そこから放たれる【精霊弾】は、その大きさや威力が増す。
【精霊弾】であるのでフェリア自身の魔力消費はない。
気をつけるべきは魔力を消費するアルムとの【精霊憑依】の持続時間だ。
主の姿が見えなくなったアンデッドオーガ達はその統制を失い、近くにいる生者であるフェリアに狙いを定める。
しかし身長3mほどのオーガにとって10mの壁は大きく、例え手を伸ばそうが届かない。
そこを容赦なくフェリアの【精霊弾】が打ち付ける。
一発の威力はさすがにオーガを打ち倒すほどではないが、着実にダメージを与える。
特にフェルムの命属性とガルムの火属性は効果が高いようだ。
やや遠方ではルナとレナがレッサードラゴンと戦っている音が聞こえてくる。
壁の後方ではカイトとゴーストによる戦いも始まっていた。
無事ターゲットの受け渡しは出来たようだ。
すると辺り一面が暗くなる。
ゴーストがカイトと戦いながらも【ルインフィールド】を発動したようだ。
壁を叩くオーガ達の力も上がったようで、多少振動が強くなった。
耐久力も上がり、ダメージを受けたときののけぞりも小さくなったように感じる。
「壁はまだ大丈夫。さっさとケリを付けちゃいましょうか。」
そうしてフェリアは再び壁上からの狙撃を始めた。
ー▼ー▼ー▼ー
一方ルナとレナはレッサードラゴン相手に舞うように戦っていた。
カイトが釣り出したレッサードラゴンにすかさず【挑発】を放ち、その敵意を分散させる。
落ちたゴーストが何か喚いて、レッサードラゴンに命令しているようだが、距離が離れた今となっては効果がないようだ。
ここで効果が出てしまうとまた別の方法を取らなければならなかったのだが、好都合だ。
【マジックボール】【ファイアボール】【ウォーターボール】【アースボール】【ウィンドボール】の5種類のボール系魔法と弓による【パワーアタック】を放ち、レッサードラゴンを攻撃する。
大したダメージを与えることはできないが、敵意を稼ぐことが出来、無事カイトへのターゲットは外れて、ルナとレナに向かった。
ボール系の魔法は魔力消費が最低で、今の二人であればかなり長い時間撃ち続けることが出来る。【パワーアタック】も同様で、消費が少なく使いやすいスキルだ。
今の二人のそれらの攻撃は、レッサードラゴンには何の痛痒も与えない。アンデッドが痛みを感じるかは別問題だ。
しかし【バリエーション】と【コンビネーション】のダメージ漸増系パッシブスキルの発動条件は満たしている。
当たれば当たるほど強力になっていくのだ。
ペチペチとレッサードラゴンの全身をボール系魔法と矢が叩く。
ルナとレナはレッサードラゴンを挟みこむように常に対角に位置し、レッサードラゴンの顔が正面にあるときは回避を優先し攻撃を控える。
するとレッサードラゴンのターゲットは交互に変わり、その場に押しとどめることが出来ている。
もちろん少し近づいたり、離れたりといった揺さぶりもかけている。
尻尾をぶん回して背後を攻撃する方法もあるので、気を抜くことはできない。
だが、絶対に避けるべき攻撃は【マジックブレス】だ。
自分たちが当たらないことは当然だが、カイトやフェリアの方向に撃たせるのもまずい。
そしていよいよ【マジックブレス】が放たれた。
ルナに向かって放たれた|それ≪・・≫は放射状に広がりながらかなりの範囲を薙ぎ払った。
ルナはその予備動作を確認したらレッサードラゴンに向かって突っ込み、鼻先で方向転換することで避けた。
放射状であるが故、レッサードラゴンに近ければ近いほど、左右への幅は小さいのだ。
そして|レッサー≪下級≫なだけあって、相応に溜め時間も長い。
4次職のステータスを以てすれば、かなり余裕のある回避方法だった。
下手に左右に移動して、予測で攻撃されるより安全である。
そうしてチクチクと攻撃を続けていると突然辺りが暗くなった。
と同時にレッサードラゴンの動きが機敏になり、二人の余裕が少なくなる。
ターゲットの変更後の行動が多彩になり、側方にいても腕による薙ぎ払いや、尻尾の回転攻撃が行われる。
ブレスは多用してはこないが、溜め時間がやや短くなり、左右への移動に対する反応もよくなったため、避けるにはぎりぎりとなった。
それでも二人は攻撃を続ける。
疲労に対しては【回復魔法士】の【リカバリー】を使用。
魔力枯渇に対しては【アイテムボックス】から【マジックポーション】を取り出し使用。
【ジェネラリスト】ならではの戦い方でダメージを蓄積させていく。
すでにボール系魔法は、ボールとは言えないサイズと速度になっている。
それでもまだ、アンデッドレッサードラゴンが倒れる様子はない。
しかし、今ではもう魔法が当たるたびにターゲットが切り替わり、矢もレッサードラゴンに突き刺さるようになっている。
もう十分だろう、と、ルナとレナはレッサードラゴンを挟んでアイコンタクトを取る。
そしてレッサードラゴンの攻撃後の隙に二人同時に【ファイアランス】を放った。
ー▼ー▼ー▼ー
カイトは落下したゴーストが混乱する中、その付近に到着し、問い掛けた。
「あんた一体こんなことをしてどういうつもりなんだ?」
「お、お前が僕のドラゴンを操ったのか!!な、何をしたんだ!!」
ゴーストの容姿は、年齢は20歳くらい、髪の色は銀だろうか。汚れて灰色に近く伸び放題となっている。顔はほとんどその髪で隠れていて表情を伺うことは出来ない。
身長は165cmほどで体は細く、ひ弱な印象を受ける。
吃逆もあるだろう。
「何をしたって、単に【挑発】をかけただけだよ。」
「そ、そんなわけあるか!その程度で僕の支配からコントロールを奪うなんて出来るはずがない!」
「出来たんだからいいだろ?それよりも質問に答えてくれないか?こんなことしてどうするつもりだったんだ?」
「ふんっ!ぼ、僕を虐げたノースビーストリムに復讐するためさ!自分達の街の攻略者に蹂躙されるなんてとっても素敵だろう?!」
「・・・まぁそんなところなんだろうな。でも残念だったな。今頃グール達は全部潰されてるさ。」
「ど、どうやったか知らないがあんなゴーレムなんかで止められるわけないだろ!じ、事実簡単にやられてたじゃないか!」
「まぁ結果はお前が捕まってから見れば分かるさ。とりあえず大人しくお縄につくんだな。」
「お、お前がいくら若くして【重戦士】だからって、お前が僕に叶うはずないだろ!」
【挑発】を使ったと伝えたことでカイトのジョブを【重戦士】だと勘違いしたようだ。
一応狙いではあったのだが。
捕らえる予定である以上、出来れば伝える情報は減らしたい。
余裕が無ければその限りではないが、見るからにゴーストに近接戦闘技術はない。
「いくらお前が4次職でカオスジョブだろうと、やってみなければ分からないさ。」
そう言ってカイトは剣を構えて切りかかった。
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