4-19 元攻略者のグール
「ゴーレムが!」
戦場に動揺が広がる。
今まで完全に無視され、その猛威を振るっていたゴーレムが倒されたのだから分からなくもない。
ゴーレムを破壊したのは元攻略者のグール達だった。
およそ150体のグール達は少人数のグループに分かれている。おそらく生前のパーティなのだろう。
そのグール1パーティがそれぞれゴーレム1体に対応している。
強さはまちまちで、すぐに倒すパーティもあれば、かなり苦戦しているパーティもあるようだ。
「グールはあれで全部なのかな?」
カイトはそう独りごつ。
ノースビーストリムで行方不明と言われている攻略者は250人ほど。その全てがグールとなっていればもう少し数がいてもおかしくはない。
ノースビーストリムにいる攻略者は2500人程度と言われているので、被害はその1割にも及ぶ。
それだけ被害があってなぜ大きな問題にならなかったのか。
それは元々攻略者というのは入れ替わりが激しく、大きなクランのように地元に密着しているところならまだしも、小規模クランやフリーの攻略者の動向はあまり気にされないことに原因がある。
大きなクランはそれぞれが管理局を通じて、小さいダンジョンをほぼ独占して攻略している。
そういうところを避けさえすれば、攻略者が行方不明になっていても発覚は遅れるだろう。
それでも最近は大型クランも狙われていたようだが。
「あれはグルドか?!」
「あっちはメーアよ!!」
「嘘だろ。アンデッドになっちまってるのかよ。」
そう言った大型クランのメンバーが、グールとなっている攻略者の素性に気づいてしまったようだ。
「あいつらを倒さないといけないのか・・・?」
「いやぁぁ。どうして?!」
「そんな・・・。」
グールとは言え顔見知りだ。中には深い仲の相手もいたのだろう。
動揺が広がる。
「あれが攻めてきたらまずいな。」
「ああ。思った以上に動揺がある。」
今は敵陣内のゴーレムだけを相手にしているが、ゴーレムを倒せることが分かれば、第一防衛線のゴーレムをターゲットにしてもおかしくはない。
「仕方ない。我々で切り込んで倒すしかあるまい。」
アルマリアがそう言う。
カイト達やアルマリアはノースビーストリムの住人ではないため、顔見知りはいない。
「うーん。仕方ない・・・か。」
カイトも渋々それを了承した。
本来であれば回り込んでゴーストを狙うべきではあるのだが。
動揺している攻略者達にグールの相手を任せるのは難しいだろう。
ゴーレムは次々と倒されている。
スケルトンの数は減ったように見えるが、いつまた補充が開始されるか分からない。
カイト達が出張る必要がある。
「私は配下と共に切り込んでグールを討伐する!その間もここへ攻め込んでくるアンデッドはいるだろう!指揮は任せるから死守するように!」
そうアルマリアは指示を飛ばし、出発する。
「待ってくれ!!」
まさに動き出そうとした時、声がかかる。
声をかけてきたのは、この街最大のクランの一つである『風の呼び声』のクランマスター、ゴーバットだった。
「あいつらは・・・俺たちにやらせてくれないか?どうしてあんなことになっているのかは分からない。でもあいつらも俺たちの仲間だったんだ。引導を渡してやるのも俺たちであるべきだろう?」
覚悟を決めた者もいるようだ。
「ふむ。それはクランの総意か?中途半端な覚悟で躊躇ってしまえば、今度はそなたたちがアンデッドになるかも知らないのだぞ?」
ゴーバットは周りを見渡した後声を上げる。
「もちろんだ!!せめて俺たちの手で討伐して手向けとしてやらねば、あいつらも浮かばれまい!是非とも俺たちを使ってくれ!!」
「分かった。そこまで言うのであれば任せよう。ただし無理はするな。どうしてアンデッドになっているか分からない以上、先程の話は冗談では済まないかも知れないのだからな?それとあまり時間はかけられないぞ?」
「恩に着る!!おめぇら!5分で選抜しろ!!他のクランにも声かけておけ!ただし防衛が疎かにならないようにするんだ!!」
ゴーバットはそんな指示を出しながら離れていった。
「カイト殿。」
「これに乗じて裏に回る・・・だろ?」
「ああ、頼めるか?」
「もちろんだ。予定通りになっただけさ。」
「フェリア様もどうかお願いいたします。」
「ええ、貴女も気をつけてね。」
「はい。ご武運を。」
正面からのグールは攻略者達に任せる。
当然スケルトンなども生者に惹かれて殺到してくるだろう。
カイトとフェリアは本陣から離れ、周囲の目が無くなった隙に【リターンポイント】を使用した。
ー▼ー▼ー▼ー
カイトとフェリアが離れた後、ゴーバットを始めとしたノースビーストリムの攻略者達は精鋭達を中心に、第一防衛線である堀を超えた。
堀には大量のスケルトンが落ちたはずだが、堀の中にその残骸はない。
スケルトンリーダーに呼び出されたスケルトンは、ダンジョン内のモンスターと同様に消えるようだ。
グール討伐隊の内訳は、精鋭パーティが6人1組が10組で60人。続いて露払いで集まってくるであろうスケルトンを倒すための中堅パーティが6人30組の180人。
精鋭パーティ1に対して中堅パーティ3を補佐として組ませ、1つの班とした。
グールパーティを1つずつ各個撃破する構えだ。
ゴーレムはすでにその大半が打ち倒されている。
「グールとなったあいつらの強さは不明だ!1班から3班までが接敵!残りは警戒しながら近づいてくるスケルトンを相手しろ!何かあればすぐ報告するように!!」
ゴーバットが指揮を取る。
そうしてグール達との激突が始まった。
3つの班の精鋭がグールパーティを囲む。
その周囲では補佐がスケルトンと戦い、精鋭に近づけないようにしている。
「ぐっ!」
「力が強いっ!」
精鋭パーティの盾役が、グールの攻撃を受ける。
自分の肉体を守ろうという考えのないグールの攻撃は総じて重い。
そしてさらに後ろから魔法が飛んでくる。
生前の魔法はそのまま使えるようだ。
「人とは違うと認識しろ!油断すると死ぬぞ!魔法はどこから飛んでくるか周りが伝えてやれ!こっちの魔法も防がれている!隙を見て打ち込むんだ!」
グール側の盾役もしっかりと盾役をこなしている。
相手の連携を崩す必要があるようだ。
「グール1パーティにつき、必ず2班以上で当たるように!思った以上に厄介だ!退路の確保は確実にしろ!危なくなったらすぐ撤退するぞ!!」
冷静に戦況の把握に努めるゴーバット。
内心は非常に焦っている。
思ったより厄介で時間がかかりすぎているからだ。
グールパーティは50組ほど。
今は分断して1組を相手にできているが、時間がかかれば囲まれかねない。
通常、グールへの対応は前衛がグールの攻撃を受け止め、後衛がグールの頭を破壊するというのが定石だ。
グールに限らずアンデッドは頭を破壊すれば倒すことが出来る。
ただ、この元攻略者のグール達はそれを防いでくる。まるで何を狙ってくるかを分かっているかのように。
ゴーバットは決断する。
「通常のパーティ行動ではジリ貧になる!相手グールのジョブ毎に対策を立てるしかない!パーティの枠を超えて行動するぞ!!」
流石はクランマスターである。
通常のグールはジョブを持たない。
所持する武器によりスキルを使ってくることはあるが、はっきりとした連携までは使ってこないのだ。
「まず【重戦士】のグールに対しては【軽戦士】が当たってくれ!【パリィ】と【カウンター】で腕を狙うんだ!腕を破壊できれば攻撃力、防御力ともに激減する!」
【重戦士】の厄介さは基本的に重装備による防御力にある。盾を持っていれば尚更だ。
倒すことに執心せず、腕の破壊を狙って無力化することを選ぶ。
「【魔法士系】と弓を使う【道具士】【罠士】のグールに対しては【重戦士】が当たる!【挑発】して攻撃を誘発してくれ!複数の攻撃を受けることになるから、【回復魔法士】と【補助魔術士】はそのサポートを!【攻撃魔法士】はその隙を見て【ファイアアロー】で頭を狙うんだ!!まずはそこから崩すぞ!」
グール系、というよりアンデッド系によく効く火属性の魔法。【ファイアボール】では威力が足りない恐れがあるので【ファイアアロー】を選択する。
「【軽戦士】と【格闘士】のグールに対しては【軽戦士】か【格闘士】で当たるんだ!倒す必要はない!回避に徹しつつ、腕か足を狙う!」
「【狩人】のグールは【気配隠蔽】を使ってくる可能性がある!同じように【狩人】で当たって【気配探知】で対応してくれ!出来れば【気配隠蔽】で後ろから頭部破壊も狙うように!【攻撃魔法士】の射線には入るなよ!」
「こちらの【道具士】【罠士】は全体のフォローだ!【攻撃魔法士】と同じように隙があれば頭を狙い打つ!アイテムの使用は最小限にするように!」
グールパーティより人数に余裕があるからこその作戦だ。
この作戦は功を奏した。
当然複数のグールパーティが集まってきたりすることもあったが、分断や誘引、撤退などを繰り返し、グール討伐隊は順調にその数を削っていった。
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