4-16 アルマリアとの接触

 「貴殿が情報を持っているという者か?」


 席に着きながらアルマリアが切り出す。


 アルマリアとの接触に当たって、いくつか作戦を立てることにした。

 出来うる限り渡す情報は減らしたいからだ。


 「ええ。恐らく貴方が欲しているであろう情報を。」


 現在対応しているのはカイト一人だ。

 アルレアに頼んで仲介を取り付け、話し合いの場を作ってもらったのだ。


 「興味深い話だが、今は時間がない。手短にしてくれないか?」


 「そうしたいのは山々なんですが、慌てると危険なんですよ。今回の情報を端的に言えば現在起こっていることの全貌、特に外敵侵入についてですね。」


 アルマリアを待っている間にやったことの一つ。

 それはカイト単独でのアンデッドの大群の隠密偵察だ。

 本末転倒ではあるのだが、接触する上で必要だと感じたからだ。

 その甲斐あって、アンノウンの実在が確認でき、その正体も掴めた。

 

 「なぜそれを?公表はしていないはずだが。」


 「今回の騒動が起きてから情報を集めたんです。数ヶ月前に起きたという噂がありました。そしてそれは事実だった。その騒動で使われた手段の予測と実現可能性について、そしてその騒動を起こした者の正体についてお話できます。」


 「本当か?!いや、失礼。そうであるならばぜひお話を伺いたい。」


 驚きのあまり大声を上げるアルマリア。

 すぐに我に返り落ち着きを取り戻す。


 「もちろんです。ですが・・・私も今回様々な危険を冒しています。出来ればをお約束していただきたい。」


 アルマリアと接触するだけで危険なのだ。

 アンノウンの調査も安全とは言い難い。


 「もちろんだ。主人に掛け合って出来うる限りの報酬を出してもらうことを約束しよう。もちろん情報に偽りがなければだが?」


 「いえ、金銭による報酬はいりません。こちらを読んでサインしていただくだけで結構です。」


 そうしてカイトは2枚の紙を差し出す。


 「これは魔法契約?いやただの契約書か。」


 魔法契約書であれば1枚で済む。改竄は不可能だからだ。


 「ええ。よくお読みになって、納得していただけたらサインをお願いします。」


 ただの契約は上位者にとってはなきに等しいものだ。権力で簡単に覆せるからだ。

 と言ってもできる限りは守る。そうしないと人心が離れてしまう。


 書いてある内容は『双方ともに今回得られた情報とその情報源を出来得る限り秘匿し、それを達成するための最大限の努力をする。罰則は200,000マナゴールドの支払い。契約の破棄は双方の同意のもとでのみ可能とする。』というものだ。

 罰則はやや大きいと言えるが、高位貴族相手であれば大したものでもない。


 それを読んだアルマリアが言う。


 「その・・・、私はフォレストリア家に仕える者だ。主人に報告するために秘匿は難しいのだが。」


 「ええ、存じております。ですので『出来得る限り』と記載してありますでしょう?それに、これはただ体裁を整えるための小道具です。無いよりはマシでしょう?努力はしていただけると思いますし。」


 「・・・了解した。サインさせてもらおう。」


 今回の作戦のキモはここである。

 必要なものは『体裁を整えた契約書』だ。


 大事なことは『双方の条件が同程度であること』。


 カイトはアルマリアの署名を確認してから、【職業体験】に設定した【交渉人】の【マナワード】を使用し、自身の署名をする。

 

 「【コントラクト】。」


 そしてカイトが【ものまね】で予め設定しておいた【コントラクト】を使う。

 【ものまね】の条件を満たすなら【職業体験】で起動だけでもすればいいので、実際に契約に使ったことはなかったが。


 対等条件で【コントラクト】に必要なマナゴールドは10,000のようだ。


 【コントラクト】を成立させるには、【マナワード】で契約条件を読み上げた上で相手の同意を引き出すか、契約書に条件を記載した上で契約執行者の名前を【マナワード】で書き込む必要がある。

 前者は大量のマナゴールドが必要になるため現実的ではない。

 当然今回利用したのは後者である。


 また【コントラクト】そのものにもマナゴールドが必要になる。こちらは契約内容が、対等であれば安く、不平等であればあるほど高くなる。

 今回は完全な対等なので最低額のはずだ。

 さらに【コントラクト】では、契約の他に、契約に違反し、それが解消されるか罰則を消化するまで違反者に影響を与える強制力を指定できる。これも適用する効果によって必要マナゴールドが変化する。

 今回の強制力はデフォルトである「不快感を与える」なので追加マナゴールドはない。


 そして作成された契約書が魔法の光を放ち、魔法契約が完了した。


 「なっ。それは魔法契約?!」


 「騙し討ちのような真似をして申し訳ない。ただ、このようなことが出来るという特異性がこちらにはあるとご理解いただきたい。」


 「確かに魔法契約書を使わない魔法契約など聞いたこともない。・・・貴殿は一体何者なんだ?」


 「細かい詮索はなさらない方がよろしいかと。今回の契約の制約が増えますので。私としては貴方の主様に私の情報が出来るだけ伝わって欲しくないのです。命令されれば従わなければならないのでしょう?」


 「貴殿はどこまで知っているんだ?」


 「大まかには、と。」


 【コントラクト】を使ったことによって、魔法契約書では不平等すぎる契約は成立しないことが分かった。つまり他者を【奴隷】にするには【隷属使役】が必要なのだ。

 これはある意味当然だった。魔法契約書の存在はフェリアが知ることが出来たのだ。

 軟禁されていたとは言え、秘匿している事実に触れるようなものは伝えるようなことはしないだろう。

 つまり魔法契約書は市井に出回っていて、使われていると思われる。

 そんなマジックアイテムを利用して【奴隷】を作れるのであれば、【奴隷】系統の存在ももっと明かされているだろう。

 事実、カイトは知らないが、魔法契約書はおよそ200,000マナゴールド程度で取引されている。


 「むぅ。騙し討ちではあるが、騙されたわけではない。厄介な。」


 確かに騙してはいない。

 契約内容にある最大限の努力の範囲内だからだ。

 契約内容も対等。

 その前の会話でも嘘はついていない。


 「・・・怒らないんですね?」


 「うーむ。驚愕が大きくてな。」


 「なるほど。・・・では、本題に入りましょうか。」


 そうして本題である今回の異変の首謀者の話に移る。


 「私には相手のジョブが分かる【鑑定】の上位スキルのような能力があります。」


 スキルとは言わない。

 察せられるだろうが。


 「俄には信じがたいが・・・。っ?!」


 アルマリアが顔色を変える。


 「ええ、貴方のジョブも当然わかっています。」


 「それはっ・・・だからこの魔法契約なのか・・・。」


 「はい、身を守るためには必要ですから。」


 「そうまでして情報提供を・・・?相手はそれほど厄介なのか?」


 「そうですね。それだけが理由ではありませんが、厄介な相手で間違いありません。続けても?」


 「頼む。」


 「首謀者の名前は『ゴースト』。実名です。ジョブは【ネクロマンサー】でさらにカオスジョブです。そして【ネクロマンサー】は・・・『失われた最上級職』に匹敵する4次職です。」


 「・・・。」


 アルマリアは言葉にならないようだ。

 それも当然だろう。

 『失われた最上級職』など伝説の中の存在でしかない。


 「それで・・・その能力などは分かっているのか?」


 アルマリアは何とか言葉を絞り出す。


 「アンデッドを使役し、己の力とすることの出来るジョブです。遺体をアンデッドとする力もあるようですね。」


 「となると、今回のアンデッドの襲撃は・・・。」


 「間違いありません。事前の偵察でアンデッドの中に『ゴースト』がいるのを確認しました。」


 「貴殿はそこまで・・・、いや今は有難い。外敵侵入警報の対象は間違いなくそのゴーストだろう。そして・・・最近いなくなっている攻略者はその餌食になった可能性が高いということか・・・。」


 「ゴーストの周りには元攻略者のグールが多数配置されていました。ゴーストは攻略者を殺し、カオスに堕ちたのでしょう。」


 「そうして3ヶ月前の警報が通知された・・・か。警報の足取りが追えなくなった手段にも心当たりがあると?」


 「はい。【ネクロマンサー】のスキルに、自身に霊を宿し、その力を使用できるというものがあります。霊と言うのはレイスのようなモンスターだと思っていただければ。それで非物質化して宵闇の森まで移動したのではないかと。」


 「なるほど。」


 「それと、深く堕ちたカオスジョブには一時的に警報にかからず潜入することの出来るスキルがあるそうです。そしてその深さは【ネクロマンサー】に匹敵するレベルです。」


 「それはつまり・・・最上級職を2つ分の力を持った相手ということか?」


 「ええ、残念ながら。それともう1つ残念なお知らせが。カオスジョブは自軍の数を誤魔化すスキルを持っています。今回のアンデッドは1000体ではなく、5000体ほどです。」

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