4-13 『カオスジョブ』と異変の原因

 「人為的?それにアルマリアの事情って?」


 「まだ絶対合ってるという訳じゃないからな。情報も穴だらけだし。」


 といいつつもカイトにはある程度の確信はあったが。


 「フェリア、確認なんだけど、『外敵侵入警報』って他国の人間が予告なく入ってきた場合に通知されるんだよな?」


 「え、えぇ。でも事前通達はあくまで警戒体制の話であって、他国のダンジョン権利者が自国に入ってこれば通知はされるわ。」


 「それって例外があったよな?」


 「例外・・・?あ、『カオスジョブ』ね?」


 「あぁ。イグルードの横暴さに、『こいつ、カオス堕ちは大丈夫なのか?』って思ったのを思い出した時、気がついたんだ。『カオスジョブ』なら『外敵侵入警報』が通知されるって。」


 『カオスジョブ』というのは、人道にもとる行為をすると獲得する可能性のある、『犯罪者』を示すジョブで、恐らくダンジョンの判断によって、その悪行を裁かれることを示すものだ。


 カオスジョブの名前の由来やジョブの名称は分かっていない。

 本人には分かるようだが、当然公開しないし、パーソナルカードにも表示されないからだ。


 しかし分かっていることもある。

 軽犯罪の繰り返しなどでカオスジョブに堕ちた者は、その後心を入れ替えて生活していればカオスジョブが破棄され、元に戻ることが出来る。

 逆に重大な犯罪を犯した者や、反省の色が見られないものは、さらに深く堕ち、ダンジョンから『敵対者』としてダンジョン権利者に通知されることになる。


 このダンジョンの判断というものは、直接管理するダンジョン権利者の主義や思想によって違うと言われている。

 もちろんダンジョン所有者のシルファリア王家の意向から外れるようなことは出来ない。ちょうど日本の憲法と法律や条例の関係のようなものだ。アメリカ的という方が正確かも知れないが。


 「例えば、カオスジョブが深く堕ちて、外敵侵入警報の対象になった後、何らかの手段で足取りを消し、宵闇の森に逃げ延びたとしたら?外的侵入警報が解除されて、何も痕跡もないから誤報と判断されると思わないか?」


 「何らかの手段って言われても。確かにそんなのがあるなら理屈は通らなくないかも知れないけど。」


 カイトにはある情報があった。

 転生者だからこそ辿り着けた情報だ。


 「手段については【リターンポイント】みたいなのが存在する以上あると思うんだけど、まぁ細かいことは後にしよう。それで、その外敵侵入警報が最初にあったのが数ヶ月前。その外敵判定を受けた何者か、アンノウンは宵闇の森に隠れた。外敵侵入警報は誤報とされたけど、とりあえず調査する必要があるかも知れないと、フォレストリア家が考えたとしたら?」


 「誰かを調査に派遣する。それがアルマリア?」


 「ああ、幸い、と言ってはなんだけど、名目も出来た。フェリアの追放って名目がな。万が一アンノウンが何らかの手段で外敵侵入判定を欺いていたとしても、アルマリアが調査員だと怪しまれるリスクは減る。」


 アンノウンがいるのかは分からないが、いると仮定して行動するのが妥当だろう。

 【従者】と【軽戦士】を持つアルマリアであればある程度の事態には対応できるし、人選としても妥当だと言える。

 フェリアの追放とノースビーストリムの調査、どちらの優先度が高かったかは分からないが。


 「仮にそうだとしても・・・、アンノウンがいると想定しないとそんなことは出来ないわよ?」


 「アンノウンはいる・・・はずだ。最初はその想定をして動かないといけないのも分かるだろ?外敵侵入警報なんだから。何もなければそれでいいんだし。」


 「それは確かにそうだけど。」


 「言ったろ?絶対に合ってる訳じゃない。今は筋道が立ちそうな推論を言ってるだけさ。それなりの根拠はあるけど。」


 カイトは出来れば根拠については話したくない。

 転生者であることはまだ話していないからだ。


 「そうね。それで?」


 「ああ。それで、この街にアルマリアが到着する。すると、ちょっとした異変は確かに起きていたんだ。」


 「攻略者の減少?でもそれは多少多い程度よね?」


 「そうだな。だけど、攻略者が移動したならその痕跡はあるはずだろ?」


 「他の街に移動した痕跡はなかった。その攻略者が管理局員なら他の街に移動しても確認も出来なくはないものね。」


 通常、攻略者は管理局の管理下にあり、拠点を移動したのならば、新しい街の管理局に報告する義務がある。

 そういった物を辿れば、移動履歴を確認することは容易だ。

 特にアルマリアであれば、フォレストリア家の権力を使えるのだから。


 「そう。それで異変の調査のために、滞在を延長していた。だからフェリアと離れて2ヶ月に近い今でもまだこの街にいる。そして、ダンジョンで異変があったと聞いたらすぐに向かうくらい何かしらのヒントを探している。」


 「うん。ダンジョンの異変は私たちのせいだけどね。」


 「ああ。それで明らかに異変の原因でないダンジョンに向かうくらい、今集まっている情報は少ない。つまりアルマリアはまだ何も掴んでいないんだ。分かっているのは最近特に行方不明者が増えてきたことくらいだろう。」


 「明らかに異変の原因でないって、なんで分かるの?」


 「そっちは後付けで大事なのは、今現在情報が少ないって方だな。今回の原因はアンデッドとアンノウンだ。攻略者の行方不明ならダンジョンを最初に調査するだろ?それで何も見つかっていない。急に動き出した可能性は否定できないけど、アンノウンやアンデッドの存在を少しでも把握してるなら、調査するのは宵闇の森のはずさ。」


 宵闇の森でなく街の中で調査していたのは、後付けではあるが、何も掴んでいなかったことの証明となる。


 「今回の原因がアンデッドとアンノウンっていう根拠はあるの?」


 「今回も魔物襲来警報の他に、外敵侵入の可能性もあるだろ?」


 「その外敵が、アンノウン?」


 「数ヶ月の準備を経て攻めてきたと考えられる。動機は分からないけどな。」


 「アンデッドが原因って言うのは?」


 「その根拠は今回アンデッドが攻めてきていることなんだ。」


 「攻めてきていることが根拠?よく分からないわ。」


 通常のアンデッドは、そのアンデッドがモンスターでも魔物でも、モンスターでも魔物でもない生者に対しては激しい敵意を向けるが、それ以外はほぼ動かない。

 つまり、アンデッドが遠方から攻めてくるはずがないのだ。近くなれば生者の気配を感じて積極的になるかも知れないが。

 アンデッドが攻めてきているという異常事態そのものが、異変であるという根拠になり得る。


 「フェリアが精霊の力を借りられるように、アンデッドを自由に使役できるジョブがあったとしたら?」


 「そんなの聞いたこともないわ!」


 「ん、希少職?」

 「精霊・・・じゃなくて、アンデッド使い?」


 フェリアの【感応士】の3次職は【精霊使い】だった。

 アンデッド使いという表現を思いつくのも妥当ではあるだろう。


 「ああ。」


 「確かにそんなジョブがあるなら・・・。でもあるの?」


 「ある。」


 このジョブの情報を開示するには、カイトの過去、というより転生者であることを話すしかない。


 なぜそのジョブ名に行き着いたのか説明がつかないのだ。


 『シーフ』や【ウィザード】はモンスターの名前から想像したと言えなくもなかったが、今回は難しい。


 フェリアの【感応士】の情報が皆無なのと同様に、そのジョブの情報も皆無なのだから。


 そう、そのジョブとは・・・【ネクロマンサー】である。

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