4-12 アンデッドの襲来

 ノースビーストリムは辺境だ。

 北に20kmも進めば未踏の地、『宵闇の森』が存在する。


 その『宵闇の森』には当然魔物が生息している。

 普段魔物は自身の生息域から出てくることはないが、いくつか例外が存在する。


 1つは自分の身を脅かす存在が現れたとき。

 もう1つは生息域の食糧が何らかの原因で減りすぎたとき。


 そんな例外が存在するので、当然ノースビーストリムには襲来に対する備えがいくつかある。

 街中に襲来を知らせる鐘もその1つだ。


 他にも丈夫な門や、上から魔法や矢を射ることが出来る城壁などもある。


 の魔物の備えはそれなりに十分である。


 ただし・・・今回ノースビーストリムを脅かしている魔物は普通ではなかった。


 今回のは『アンデッド』だったのだ。


ー▼ー▼ー▼ー


 「これは・・・魔物の襲来?」


 滅多にあることではないので、カイトも当然初めての経験である。


 「カイト、どうするの?」


 管理局の攻略者であれば、こういう時に戦闘に参加する義務がある。

 当然参加すれば報酬も得られるが。


 カイト達は管理局員ではないため、参戦の義務はない。


 「うーん。宵闇の森に異変があるならノースアクアリムも危ないかも知れない。一度様子を見に行きたいな。とりあえず情報も欲しいから二手に別れよう。」


 カイトとフェリアは【リターンポイント】でノースアクアリムの孤児院へ。

 ルナとレナはノースビーストリムで情報を集めることにした。


ー▼ー▼ー▼ー


 「マザー!!」


 「あら、カイト。フェリアも。どうしたの?」


 孤児院に到着したカイト達は無事、院長室にいるカトレアを見つけ声をかける。


 「ノースビーストリムで魔物襲来の鐘が鳴りました。こちらに異変がないか確認しに来たんです。」


 「まぁ!それは大変だわ。今のところここでそういう話は聞いてないけど、警戒はしておきます。情報ありがとう。それで、どんな魔物が攻めてきてるのか分かる?」


 「いえ、取るものもとりあえずこちらに来たので。今はルナとレナがノースビーストリムで情報収集に当たってます。」


 「そう。あの子達も色々出来るようになってるのね。こちらは大丈夫だから戻ってあちらで備えてください。それと・・・アルムがこれを気に入ってるみたいだから、渡しておくわね。何かあった時にきっと役に立つわ。」


 そうしてカトレアはアルムのお気に入りの魔法銃をフェリアに手渡したのだ。


 「いや、こんな高価なもの受け取れませんよ!変装リングも頂いてるのに!それにこちらで何かあった時に必要なのではないですか?!」


 フェリアは流石に恐縮して受け取ろうとしない。


 「私の武器は他にもありますし、そもそも前線に出るジョブではないので大丈夫ですよ。それに・・・真っ先に駆けつけてくれた貴方達の力になりたいのです。まだこの街では貴方達の騒動は落ち着いてませんし、出来ることはこれくらいですから。」


 「・・・分かりました。大事に使います。ありがとうございます。」


 「ええ。是非使ってやって頂戴。カイト、また顔出してね?」


 「もちろんです。他のみんなやガルドさんにもよろしくお伝えください。」


 カイトとフェリアは、ただの情報確認のためだけの来訪だったにも関わらず、思わぬ形で手に入った魔法銃を携えてノースビーストリムに戻るのだった。


ー▼ー▼ー▼ー


 一方ルナとレナはノースビーストリムで情報収集をしていた。


 【気配隠蔽】で気配を隠し、【育成士】の【聴覚強化】で聞き耳を立てる。


 「攻略者はとりあえず管理局へ集まるんだ!」

 「まだ時間はある!落ち着いて移動するんだ!」

 「魔物なの?!何が攻めてくるのよ!!」

 「落ち着け!とにかく準備を優先しろ!」


 様々な声が聴こえる。

 中には気になる声もあった。


 「どうも状況がおかしいらしい・・・。魔物警報なのに外敵侵入も同時に起こっているそうだ。」

 「外敵侵入?こんなところに?」

 「数ヶ月前にも噂はあったが、誤報の可能性もあったと聞いている。今回も誤報かも知れん。」


 外敵侵入というのは、ダンジョン権利者などの敵対者が、他の勢力にあるダンジョン圏内に侵入することである。

 通常はタイラント帝国に接する東側の街で確認される警報だ。

 ノースビーストリムはタイラント帝国には接していない。

 

 ちなみにノースビーストリムの警報はダンジョンの機能を通じて、ビーストリム、フォレストリア、シルファリアに通達される。


 「外敵侵入?」

 「もっと探す?」


 ルナとレナが得た情報は果たしてカイト達に十全に伝わるのだろうか?


 ルナとレナが得た他の情報に、攻めてきている魔物はどうやらアンデッドらしいというものがあった。

 そのせいか管理局周辺は情報が錯綜していた。


 「アンデッドだって?!」

 「スケルトンやレイス、グールなんかがいるみたいだ!」

 「そんなわけないだろ!なんだってアンデッドが攻めてくるんだよ!」

 「知るか!そういう情報があるってだけだ!」

 「ゴブリンとかウルフじゃねーのか?」

 「落ち着け!管理局からの発表があるまで静かに待機してろ!!」


 実際にアンデッドだとしたら確かにおかしい。

 アンデッドは生きているとは言えないので生存競争はしないのだ。

 だから他の強力な魔物から逃げて他のダンジョン圏内に入ることもないし、ましてや食糧を探して出てくることもない。


 「静かに!これから今回の襲来の詳細を説明するから静かに聞くように!」


 管理局からの発表があるようだ。


 「領主様からの情報によると今回の襲来はアンデッド種、レイス種、合わせて1000体ほどだそうだ!ただし皆も知っている通り、通常アンデッドが襲来してくることはない!何が起きるか分からないから気を引き締めるように!行動はクラン単位、パーティ単位で行なうように!基本は防衛だ!打って出ることは許さない!違反したクラン、パーティには相応のペナルティが課せられるので留意するように!」


 アンデッド系が1000体程度。

 管理局の作戦も分かったので情報収集を終える。


ー▼ー▼ー▼ー


 「アンデッド系が1000体程度か。領主側の情報なら間違いなさそう・・・なんだけど、何か見落としてるような気分なんだよな。」


 「ん?」

 「何か変?」


 「アンデッドなのはイレギュラーかも知れないけど、他に何かあるかしら?」


 合流した4人は情報交換を終えた。

 情報通りなら慌てることはなさそうだ。


 攻略者が減っているとは言え、この街の攻略者は新人を含めたら2000人はいるだろう。


 大量のアンデッドの行軍が20kmにも及ぶ。

 この街まで通常であれば2日はかかる。

 休みなく動いたとしても1日はかかるだろう。


 普通は飢えた魔物であるので、警報から半日以内には戦闘が開始するはずなのだが。


 「うーん。何だろうか。」


 魔物の襲来自体稀なので、アンデッドのこともあると言われればそれまでだ。


 「まぁ時間はあるみたいだし、ゆっくり考えましょ。」


 「ん。」

 「ハゲるよ?」


 「ハゲねぇよ!!この年でハゲてたまるか!ハゲるならイグルードのやろ・・・ん?」


 「ん?イグルードがどうしたの?」


 「いや、イグルードのバカと戦った時のことを思い出してな。」


 「何か特別なことあった?煩わしかっただけよ。あんなこといつもやってるのかしら?」


 「あー、あ!!」


 「きゃっ!何よ。急に大声出して。」


 「ん。うるさい。」

 「びっくりした。」


 イグルードへの感想、外敵侵入警報、魔物襲来警報、アンデッドの大群、そして誤報。さらにアルマリアの存在。


 「フェリア、ルナ、レナ。もしかしたら不味いことになるかも知れない。これはアルマリアが探していた異変の結果で、さらに言えば人為的なものかも知れない。」

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