4-8 【転職】と【精霊憑依】と【ルーチンワーク】

 「折角覚えた【転職】が使えない・・・。」


 カイトは項垂れていた。

 【ジョブホッパー】を変更してしまうと【転職】自体が使えなくなってしまうし、【スキルコレクター】は【スキルスロット】を始めとした有用なスキルが並んでいる。


 ちなみに転職したらスキルが使えなくなることは【スキルコレクター】を一時的に変更して確認した。


 「最初に【ジョブホッパー】を転職させてたら積んでたな。」


 「まぁ流石にそんなことしないでしょ。」


 「まぁなー。」


 【転職】が意味を為さなかったため、テンションが上がらないカイト。


 「【スキルコレクター】も強いんだし、今更基本職って感じもないでしょ?」


 「まぁそうなんだけどさ。4次職の情報がもっと欲しいから、せめて3次職は全てマスターしたいよな。」


 「どれだけ経験値稼ぐ気なのよ・・・。」


 カイトのゲーマー気質極まれりである。


 そしてフェリアが習得したのは【精霊憑依】。

 説明文ではやや分かりにくい。


 簡単に言えば憑依状態となって、フェリアの魔力を用いて精霊の攻撃を強化するスキルだろうか。

 精霊自体の成長にも繋がるようだ。

 そのおかげか、とうとうリルムも水属性を得た。

 水属性が強いダンジョンにでも行かないといけないかと考えていたのだが、幸いにもその必要がなくなった。


 【精霊憑依】を使用すると、フェリアの能力が上昇する。

 上昇する能力は精霊によって異なり、攻撃力が上がったり、防御力が上がったり、速度が上がったりする。

 また【精霊憑依】した状態でフェリアと精霊が放つ【精霊弾】は『弾』というよりもはや『大砲』で、【精霊砲弾】と言っても過言ではない。

 さらに『散弾型』や『放射型』のようなことも可能になった。

 前者は【エレメンタルショットガン】、後者は【エレメンタルバースト】とでも呼ぶのがいいのか、とカイト達は考えている。発動できる属性弾はその時憑依している精霊の属性に依るが。

 命属性のフェルムとの【精霊憑依】では【エレメンタルフィールド】と呼ぶべき領域を作れるようになった。生命力と気力を持続的に回復する領域だ。当然憑依なしのフェルムのバフより効果的で、状況によっては攻撃は他の精霊に任せてこちらを使うのも選択肢の一つだろう。


 ルナとレナが習得した【ルーチンワーク】もなかなか効果が高い。同じスキルを100回、連続でなくてもいいので使用すると効果が0.01倍上昇する。

 【万能士】は【器用貧乏】の効果で、スキルの威力や生産の成功率が0.8倍になっているので、2000回使用すれば1.0倍に戻る計算だ。

 どうやって把握したかと言うと、ひたすら【アイテムボックス】を使わせたのである。

 【器用貧乏】の効果で本来100枠のはずの【アイテムボックス】が0.8倍の80枠になっているのが分かっていたので、どのタイミングで枠が増えるかを試させたのだ。


 「鬼。」

 「悪魔。」


 「鬼畜。」

 「変態。」


 「ぶーぶー!」

 「ぶーぶー!」


 カイトは散々な言われようだった。

 確かにただひたすら繰り返すのが辛いのも分かるが。


 その甲斐あって、100回で0.01倍であること、ベースは元の【器用貧乏】適用前の効果であることが分かったのだった。10回で0.001倍、1回で0.0001倍かも知れないが、その程度は誤差だろう。

 ダメージスキルなどレベルアップでその程度の差は生まれてしまう。


ー▼ー▼ー▼ー


 「さて、またルーティンが変わりそうではあるな。俺は変化ないけど!」


 「まぁ拗ねないの。そのうち必要になるのは変わらない・・・はずよ?」


 「まぁこれからのことは分からないしな?」


 「ん。【ルーチンワーク】。」

 「【バリエーション】は?」


 【バリエーション】も強力なスキルであるが、対象が変わると上昇がリセットするという面では、強敵相手にしか使い所がない。

 その点【ルーチンワーク】は使うだけでいいので、訓練でも上げられるし、普段の狩りでも有効である。


 「ん、そうだな。【バリエーション】を活かせるようにいくつかの手段を【ルーチンワーク】で強化しとくといいかもな。」


 現状二人が使えるスキルは基本1次職と基本2次職の全スキルと【雑用士】の【アイテムボックス】である。

 そのうち戦闘に使えるのは、アクションスキルで【パワーアタック】【シャープアタック】【マジックボール】だけである。

 通常攻撃は【器用貧乏】の対象ではないので威力低減の効果はかかっていない。


 「攻撃スキル3種とバフスキルは魔力に余裕がある限り使ってもいいかもな。【マナゴールドアタック】はちょいと難しいか。」


 「ん。」

 「仕方ない。」


 「まぁ二人の戦い方は基本的に変化なしだな。成長する要素が増えただけお得だ。」


 「むぅ。」

 「ちょっと残念。」


 「フェリアも基本は変更なし。ハーピィリーダーが出た時だけ、土属性のカルムと【精霊憑依】して、【エレメンタルショットガン】か【エレメンタルバースト】で攻撃するといいかな?」


 「【精霊憑依】は私の消耗も激しいしね。今まで魔力ほとんど使ってないから減っていく感覚に慣れないわ。」


 「そのためにもどんどん使わないとな。」


 フェリアは【精霊憑依】で初めて自身が消耗するスキルを得た。

 魔力が減っても意識を失うなどのことはないが精神的な疲労は出る。慣れないうちはきついと言える。


 今の作戦であれば【精霊憑依】は2時間に1回。いくら消耗するとは言え、魔力の回復も精霊力の回復も追い付くだろう。


 「でも、普通のパーティを知らないけど、このスピードでレベルが上がるのは絶対異常よね。」


 「そりゃそうだろ。フェリアがこっちに来てからまだ二ヶ月も経ってないんだぞ?」


 「40日ぐらい。」

 「普通は20年?」


 ルナ達が言うように、普通20年くらいかかる成長がわずか40日程度である。

 とんでもない速度だ。


 「それでも・・・いつまで隠れてなきゃいけないのかしらね。」


 フェリアは15歳まで軟禁に近い状態で教育を受けさせられ、【感応士】を得ては捨てられ、今もまだ自由に表を歩けない。


 「そうだ・・・な。」


 確かにいつまでという感覚は分かる。

 カイトも半年耐えたのだ。

 希少職であることを悟られないように人との接触は最小限だった。


 フェリアは15年である。さらに希少職を得てからはもっとひどい状況に陥った。


 「うーん。」

 「ピンクのおねーさん?」


 そうである。

 フォレストリア家のアルマリアさえここにいなければ、今よりは自由に動けたはずだ。


 「すまん。すぐにここから移動してれば良かったのかもな。」


 「ううん。確かにアルマリアの動向は気になるし。今日明日動きたいわけじゃないのよ?ただいつになるんだろうなって。」


 「まぁ・・・。でもアルマリアって人はなんでまだこの街にいるんだろう?フェリアの生存を確かめるためだけなら1ヶ月でも長いだろ?」


 「うーん、それは確かに。何か他に任務でもあるのかしら?」


 「そう言われたらこの辺りもフォレストリアの管轄ではあるもんなぁ。」


 正確にはフォレストリアの下のビーストリムのさらに下であるが。


 「やっぱり接触してみるか?下手すればフォレストリアダンジョンに向かえなくなって宵闇の森に逃げることになるかもだけど。」


 「うーん。それも確かにありかなって。でもその前に3次職を終わらせない?4次職があればもう少し鍛えないとならなくなるけど。アルマリアに接触したとして、安全を確保するには必要でしょう?」


 確かにアルマリアの【従者】がどれだけの力を発揮するか分からない。

 たとえレベルが20だとしても複数ジョブを踏まえると4次職中盤くらいの力があっても不思議ではないのだ。


 「そうだなぁ。4次職があれば新しいスキルにも期待できるしな。無ければないで3次職の限界なら何があっても何とかなる・・・か。」


 「ん。」

 「【ルーチンワーク】。」


 「あぁ。【ルーチンワーク】で鍛える時間も必要だな。」


 そうしてしばらくレベル上げを続けることになったのだった。

 今以上のモチベーションを持って。

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