4-3 ノースビーストリムダンジョンと風鳴り亭
間もなく夜明けという頃、ノースビーストリムに到着した一行は、ノースビーストリムダンジョンに向かった。
1階層だけでも探索して時間を潰すためである。
ノースビーストリムダンジョンはランク3のダンジョンで、風属性ダンジョンだ。
特色としては5階層ごとに環境がガラッと変化し、ボスモンスターが部屋にいるのではなく、徘徊していることだろうか。つまり探索中突然遭遇することがあるのである。
これがノースビーストリムダンジョンが不人気である理由だ。
また、このダンジョンだけの特色ではないが、ランク3ダンジョンからはトレジャーボックスと呼ばれる宝箱と、罠が出現する。
トレジャーボックスは一攫千金の手段として人気はあるが、そのほとんどは鍵がかかっていて、簡単には開けられない。失敗すると罠が発動することもあるからだ。
罠に関しては【罠士】の出番だ。罠の発見から解除、解除した罠を再設置してモンスターへ仕掛けるなど、罠に対しては無類の力を発揮する。
カイトの【職業体験】も【罠士】が基本となるだろう。
1階層から5階層は風穴、つまり洞窟型で出現するモンスターはランク1から2までのモンスターのみだ。
『ウィンドベビースライム』『ウィンドスライム』『バット』、そして徘徊ボスとして『ジャイアントバット 』。
ウィンドスライム以外はすでに戦ったことがある相手である。そして環境も慣れている洞窟。
地図は持っていないが、1階層を軽く探索するくらいは今の一行には問題はなかった。
そうして2時間ほど、様子見を兼ねて探索。ウィンドスライムとも遭遇したが特に問題なく撃破。1階層だけあってモンスターの数も少なく、ほとんど遭遇しなかった。
気をつけるべき他の攻略者と遭遇することもなく、無事ダンジョンから脱出した。
ちなみに攻略者に人気なのは肉が得られる6階層から10階層の草原エリアだ。その他に穀物が得られる21階層から25階層もあるが、こちらは難易度が高く、そこまで攻略者はいないそうだ。
食糧のドロップは場所も取らず、悪くなることもないので人気がある。
ー▼ー▼ー▼ー
ダンジョンを後にした一行を出迎えたのは、ノースビーストリムの朝の喧騒・・・ではなかった。
「なんか閑散としてるね。こんなもの?」
「いや、確かにノースアクアリムほど栄えてはいないとは聞いてるけど、これは閑散としすぎじゃないかな・・・。」
ノースビーストリムは辺境だ。ダンジョンに人気がなければ人は多くないだろう。
それでも朝であれば、朝食を販売する屋台に、それを購入する客。出発前に最後の仕入を行う行商人などでそれなりには賑わうはずだ。
いないわけではないがあまりにも少ない。
「うーん。とりあえず朝食がてら何か買って、ついでに情報収集しようか。」
そうしてカイトはどうやら焼き鳥を売っているらしい30代後半の男の屋台へと近づいた。
「お兄さん。焼き鳥4本くれないか?」
「おう!毎度!こんな親父捕まえてお兄さんとはお世辞がうまいな!1本10マナだ!」
「年上の男の人はみんなお兄さんさ。これは何の肉?」
「ここに来て間もないのかぃ?これはワイルドホークの肉さ!一番近くならこの街のダンジョンの草原エリアにいるぞ!うまいぞ?」
カイトに焼き鳥を手渡しながら答える焼き鳥屋の店主。
焼き鳥の味付けは塩のようだ。
フェリア達に手渡しながら手を付ける。
「美味い!いい味してるな!なぁみんな?」
「ん。」
「おいしい。」
「これはおいしいわね・・・。」
フェリアは本当に驚いているようだ。
「そうだろ?にしても別嬪さんばかりだな。攻略者パーティか?」
「ああ、そんな感じだ。ところで、人が少ないように感じるけどいつもこんなもんなのか?」
「にいちゃん達どこから来たんだぃ?ここは元からこんなもんさ・・・と言いたいところだけど、最近は特に少ないなぁ。」
「ビーストリムからランク3ダンジョン目当てさ。最近少ないって何かあったのか?」
しれっと嘘をつくカイト。
足取りを減らすには仕方のないことだ。
「最近帰ってこない攻略者が多いとかいう話だぜ。ここから出ていっただけかも知れないがな。」
それはあり得る話である。
「帰ってこない攻略者か・・・。ここのクランのメンバーもか?」
「それはそんなことないみたいだ。だから出て行ってるんじゃないかって話だぜ。」
「なるほど。情報助かるよ。ついでと言ってはなんだけど、お勧めの宿とかないか?来たばっかりで右も左も分からないんだ。」
「それなら『風鳴り亭』だな。飯が美味い。多少値は張るがな。」
「それはありがたい。情報料代わりと言ってはなんだけど、追加で4本くれ。」
「おう!ちょっと待ってな!」
そうして新たに買った焼き鳥を手に風鳴り亭に向かうのであった。
ー▼ー▼ー▼ー
焼き鳥屋の店主から聞いた風鳴り亭。
それは大通りに面したところにある立派な宿だった。
ドアを開けると目の前にはカウンター。
奥には食堂があるようで、宿泊客の朝食の喧騒が聞こえてくる。
「すいませーん!」
「はいはい。」
出てきたのは恰幅のいい女将さん。
「こんな朝に珍しいね。朝食かぃ?」
「それも頂きたいですが、宿泊もお願いしたい。空いてますか?」
「4人だね?何部屋だぃ?」
「えっと、4人部屋を一つ。」
これは予め決めてあったことだ。
4人纏まっていれば、何かあった時も【リターンポイント】で逃げやすい。
「ふむ。余り騒がないでおくれよ?一泊200マナだけど大丈夫かぃ?食事は、その日の夕食と、翌日の朝食を合わせて1人50マナだよ。」
通常クラスの宿泊の相場が50マナゴールドであると考えると相応に高い。1部屋の分安くはあるが。
一日400マナゴールドであれば余裕で稼げるはずだ。
「大丈夫です。とりあえず朝晩の食事付きで7日間。延長はどのように?」
「期限が切れる前日でいいよ。2,800マナだね。今日の朝食はサービスしとくよ。」
「はい。」
そう返事して出されたパーソナルカードにカイトのカードを重ねて支払いを完了させる。
この世界の支払いは全てパーソナルカードだ。だからこそカイト達は買い物にも苦労していた。見せる必要はないが見られる可能性はあるからだ。
カイトはこの時【戦士】としてカードを出した。3次職にしては若すぎるからだ。
「それじゃ部屋は2階の一番奥だ。食事はすぐ摂るかい?」
「カイト、一度荷物を置きに行きましょう。出来れば部屋で食べたいんだけど。」
フェリアが真剣な表情でそう言った。
そんなフェリアの様子を見て、一体何事だとカイトは思ったが、とりあえず了承する。
「それじゃそうするか。部屋で食べることって出来ます?到着したばかりで埃っぽいし、他の人に迷惑かけたくないんですけど。」
「出来るよ。準備したら持っていくね。」
「お願いします。」
そうして鍵を受け取って部屋へと向かった。
ー▼ー▼ー▼ー
「それでフェリア。何かあったのか?」
「ちらっとしか見えなかったけど・・・。この髪の色の女性がいるのが見えたわ。」
「ん。」
「食堂にいた。」
「それって・・・。」
「多分アルマリア・・・。フォレストリア家の従者よ。私を連れてきたうちの一人。」
「まじか・・・。やっぱり待機してる人がいたのか。」
「いないはずがないとは思ってたけど。まさかこっちにいるなんて。」
「どうする?街を移動するか?」
「そうね・・・。私のことが目的ならそろそろ帰ってもおかしくはないと思うけど。」
「同じ宿だからなぁ。他の連中は?」
「多分いないと思う。元々道中私の世話をしていたのはアルマリアだけだったし。多分他の連中はノースアクアリムにいるんだと思うわ。両方に網を張るはずだし。少なくともこの宿に泊まれるような人はいないはず。」
「それなら・・・、ちょっと危険だけど動向が掴めるここの方がメリットがあるかも知れないな。」
「それは確かに・・・。また外に出られないのね・・・。」
「もう少しの辛抱さ。とりあえずフェリア、髪の色をまた変えておこうか。」
「そうね。よくある金色にでもするわ。」
現在のフェリアの髪色は変装リングに依ってピンクゴールドになっている。これはアルマリアと同じ色だ。
流石に珍しい髪色が2人もいては注目される。
幸いまだフードを被っていたし、女将にもはっきりと見られてはいないだろう。
金色であれば誤魔化せるはずだ。
そうして届けられた食事を摂り、舌鼓を打ちながら、最初から波乱続きの現状を憂うカイトであった。
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