4-2 ノースビーストリムへの移動と5体目の精霊

 翌日、カイトはただひたすら走っていた。

 目指しているのはノースビーストリム。


 色々考えたが、何をしたところで、希少職である4人が目立つ可能性は変わらない。

 そうであるなら、とりあえず当初の予定通り動こうと考えたからだ。


 カイト達が今やるべきことは、ただ強くなることだ。


 ノースアクアリムでトラブルを起こした今となっては、悠長に歩いてノースビーストリムに向かうわけには行かないので、カイトが【気配隠蔽】を利用して単独で移動。目的地付近に着いてから【コールパーティ】で呼び出す予定だ。


 宵闇の森が左手側の彼方に見える位置をひたすらに進む。


 ノースビーストリムはノースアクアリムの東に存在する。

 昨日一夜を明かしたスライムダンジョンはノースアクアリムの北方で、宵闇の森の手前に存在している。

 つまりそのまま東、宵闇の森を左手方向にしていれば、ノースビーストリムには近づける。

 問題はどこで南下を開始するかだった。


 【ジョブホッパー】と【スキルマニア】の2職を所持しているカイトの身体能力は高い。

 移動速度もスタミナもかなりあると言えるだろう。


 通常ノースアクアリムからノースビーストリムへは徒歩で1日だ。

 距離にすれば30km。

 今のカイトであれば本気で走れば1時間程度で着くだろう。


 そういうわけでまずは1時間ほど走ったら、そこから南下することにした。


 ひとまず周辺に気配はない。


 今のカイトは【気配隠蔽】と【気配探知】を使用するために、【職業体験】に【狩人】を指定している。

 【気配探知】はアクションスキルであるため、定期的に使用しなければならないが、使いすぎては魔力切れを起こしかねない。


 気配がないことに安堵しつつ、南下を開始してから20分ほど。


 カイトはとうとう街道を発見した。

 ノースアクアリムとノースビーストリムを繋ぐ街道だろう。


 カイトは再び周辺を確認する。


 【気配探知】の効果範囲は広いわけではないからだ。


 ひとまず水分補給をしてから、【スキルスロット】に【リカバリー】を指定、使用する。

 【リカバリー】は気力を回復し、疲労を取り除く【回復魔法士】の魔法だ。


 街道からやや離れた地点に【セットポイント】でポイントを指定し、【リターンポイント】でスライムダンジョンへと戻る。


 そうして【ダンジョンウォーク】で3人と合流した。


ー▼ー▼ー▼ー


 「もう着いたの?」


 出発してからわずか1時間半だ。

 【リカバリー】を併用しながらの全力ダッシュがいかにとんでもないものかを示している。

 とは言っても気力を回復して疲労を取り除くことはできるが、精神的疲労は残る。


 「まぁいつここに調査が来てもおかしくはないからな。」


 ノースアクアリムがどのような対応をするかは分からない。

 そうであるならば最悪の事態を想定するしかなかった。

 カイトがスライムダンジョンに通っていたことくらいは調べれば分かるかも知れない。


 「ん。」

 「お疲れ。」


 ルナとレナの二人がカイトを労う。


 「とは言っても、確かに早く着きすぎたよなぁ。」


 時間としてはまだ午前中、それもかなり早い時間だ。

 ノースビーストリムに入ったとしても何もできないだろう。


 ちなみにこの世界の門は全て開かれている。

 戦争時は別だが。


 もしどこの街でもパーソナルカードの確認なんかを行っていたら、カイト達はどこにも出ることは出来なかっただろう。


 なぜ、チェックをしないか。

 それは敵対者は基本的にダンジョンの影響範囲に入れない、というか入ったところで通知されるからだ。

 どのように判断しているかは分からないが、ダンジョンの機能としてそういったものが存在しているため、例え夜中でも街の門は閉ざされていない。

 朝早くからやや遠方のダンジョンへ赴く人のためという面もあるが。


 「早めに行ってノースビーストリムダンジョンに入ってみるか?」


 「でも宿は早めに決めてしまいたいわ。」


 「おいしいとこがいい。」

 「きれいなとこがいい。」


 「それも確かにあるんだよなぁ。ただ早すぎて情報収集のしようもないし。」


 「あ、カイト、それなら1つお願いがあるんだけど。」


 「ん?」


 「途中でいくつか【セットポイント】してる?」


 「あーまぁ、南下を開始する地点とか、30分経過地点とかはあるけど?」


 「危険かも知れないけど・・・。宵闇の森の入口でいいから少し様子を見たいの。それで、会えるか分からないけど、あの時助けてくれた精霊にお礼を言いたいなって。」


 「あぁなるほど。そういうことなら・・・まず俺が行って監視とかいないか確認してくるから、問題がなければ10分後に【コールパーティ】するよ。」


 どうもフェリアが置き去りにされた地点は、ノースアクアリムとノースビーストリムの間くらいのようだった。

 歩いた時間や進んだ方向からの推測だ。


 そうしてカイトは再び宵闇の森付近に移動し、周囲を確認するのであった。


ー▼ー▼ー▼ー


 「ここが・・・。」


 フェリアがこの森を脱出した際は必死だったため、あまり覚えていないのだろう。


 「魔物はいないみたいだけど、何があるか分からないから、あんまり奥には行けないぞ?」


 「もちろんよ。少し入ったところで呼び掛けてみるわ。」


 最近、フェリアは声を出さなくても精霊と会話出来るようになった。

 それを出来ると知った時は、「それなら独り言みたいなことしなくて良かったのに!」と叫んだとか叫んでないとか。


 そうして少しだけ森を進んだあと、フェリアが意識を集中して話しかける。


 カイトとルナ、レナは周囲の警戒だ。


 20分ほど経過しただろうか。

 フェリアが集中を解いた。


 「ちゃんとお礼を言えたわ。みんな喜んでくれた。・・・それで、1体付いて行きたいって言ってくれてるんだけど・・・。いいかな?」


 精霊契約にはマナゴールドが必要である。

 その必要量は1体目は1,000マナゴールド、2体目は2,000マナゴールド、3体目は4,000マナゴールドと倍々に増えている。

 これで契約すると5体目なので16,000マナゴールド必要となる。


 「まぁ大丈夫だろ。フェリアの戦力が増えるのは歓迎すべきことだし。」


 「ん、新しい子。」

 「どんな子かな?」


 ルナとレナも歓迎のようだ。


 そうして新たな精霊がフェリアと契約を結んだ。

 名前はカルム。ガルムとよく似ているが仕方ないだろう。カイトから名前を取ったようだ。


 そして嬉しい誤算が。

 契約に必要なマナゴールドが10,000で済んだのだ。

 次の契約にいくら必要かまだ分からないが、単純な倍々ではなくなったようだ。


 (16進数かもなぁ。)


 16進数であれば、次は20,000、その次は40,000、そして80,000ときて、さらにその次は100,000となる。


 「新しい子はカルム。属性は土で、好きな武器は剣みたい。それと、ここにいた子達が同化して他の4体も少し成長したわ。」


 未だ属性を得ていない精霊はリルムとアルム。予定では水と風なので、ガルムの火、カルムの土を合わせて基本4属性が揃ったことになる。


 フェリアの攻撃における万能性がさらに上がったと言える。


 「じゃあ用事も済んだことだし、まだまだ早いけど、ノースビーストリムに入るとしようか。」


 やることもないのでそれもいいだろう。

 万が一見咎められたら、夜営後だということにすればいい。

 街に入ってからであれば、ダンジョンに向かうと言えば問題はない。


 そうして再びカイトの警戒後、【コールパーティー】でノースビーストリム付近に移動。

 何事もなく街に入ることが出来たのだった。

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