3-15 vsイグルード

 「すまん、打開策何も思いつかなかった。」


 「仕方ないわよ。あんなやつが相手じゃ。」


 「ん。」

 「無理。」


 「何より問題なのは・・・領主が出てくる可能性があることだよなぁ。」


 クランの設立には領主の許可が必要である。

 イグルードは実家の力を利用して設立したのだろう。親は有力者なので領主とも面識があるはずだ。


 領主が出て来られるとまずいというのは、フェリアのことである。

 フォレストリアはノースアクアリムの主家の主家である。

 フォレストリアの娘であるフェリアのことを直接は知らないまでも、その特徴からフォレストリアに結びつきかねない。

 フェリアの生存をフォレストリアに知られるのは好ましくない。


 「予定より早いし、ランク2ダンジョンも終わってないけど・・・、この街から離れるべきかもな。」


 「私はいいわよ?ついていくだけだし。」


 「ん。ルナも。」

 「レナも。」


 フェリアは当然として、ルナとレナの双子もこの街では生きにくい。すでに【雑用士】として認識されてしまっているからだ。


 「でもとりあえず・・・、あいつらをぶっ飛ばさないとね?」


 「まぁあんなこと言う奴らはなぁ。」


 「ん。しつこかった。」

 「うるさかった。」


 「二人は大丈夫だったか?てか何で見つかったんだ?」


 「んー、あれが何か買いに来たみたい?」

 「多分?」


 「というか、あのイグルードってやつ、3次職とは言え、カイトの言ったようにズルして上げただろうし、レベル上げてたとしてもそこまで高くないでしょ?」


 「だろうなぁ。」


 「そうすると問題は取り巻きの方だったり?」


 「あー、やっぱりそう思う?」


 「当然。あんな連中が一対一をするわけないじゃん。」


 「ん。五対四。」

 「きっとそう。」


 「だよなぁ。対外的にはルナとレナは戦力外のはずなんだが。」


 「となると戦うのは私とカイト?」


 「うーん。フェリアの【精霊弾】は不味くないか?威力高すぎるだろ。」


 とてもじゃないが【マジックボール】の威力ではない。


 「となると杖術?あんまり自信ないけど。」


 「いやそれでも大丈夫だと思うけど、それにしたって【魔法士】が【戦士】に勝つのはまずくないか?」


 取り巻き連中もおそらく【戦士】だろう。みな剣を持っていた。


 「そうなるとカイトが全員と戦うことになるから、それはそれで目立たない?」


 「そうなんだよなぁ。相変わらず打開策がない。」


 「ん。フルボッコ。」

 「それで逃げる。」


 「それが一番無難かなぁ。そうなると・・・フェリアもがっつりやってみる?」


 「え?隠した方が良くない?」


 「いや、逆に実力ある方が容姿で疑われても、希少職だとは思われないだろ?そうなるとフェリアに結びつきにくくなるかなって。」


 一応フードで隠していたが姿は見られている。些細な情報でもフェリアに結びつくかもしれないので、それを打ち消すインパクトは必要だ。


 「なるほど。カイトの【マジックボール】くらいの威力・・・、もうちょっと弱くかな?出来る?それくらいに抑えてもらって、あとは杖術も?」


 【精霊弾】を威力を抑えるのは難しいが、その程度の調整なら出来るようだ。


 「まぁ相手の出方次第ではあるけど、俺が前衛でその後ろにルナとレナ。んで回り込んでくるやつをフェリアが【マジックボール】擬きと杖術で迎撃が無難かな?」


 「んじゃそれで行きましょ。ルナとレナは我慢してね?」


 「ん。」

 「大丈夫。」


ー▼ー▼ー▼ー


 そうして裏庭で相対する双方。

 まだ戦うと決まったわけではない。


 「それで?場所を変えたところで3人は渡さないって結論は変わらないけど?」


 「こんな人気のない所に来ておいてまだ無事で済むと思ってんのか?逃げ場はもうねぇぞ?」


 「逃げる気ならついて来ないさ。でもいいのか?さっきガルドさんが言ってたように、いくら【剣術士】だってレベルが低けりゃ勝てないぞ?」


 「うるせぇよ。お前を叩き潰すのはもう確定してんだ。黙ってボコられればいいんだよ!!」


 「誰が好んでボコられるかっつーの。んで、結局やるのか?」


 「いつまでも舐めてんじゃねぇ!!お前らやっちまえ!!女を狙えばコイツは何もできなくなる!!」


 「はぁ。やっぱこうなるのか。こんなことして大丈夫なのかね?」


 そうしてイグルードと取り巻きの5人対カイト達の戦いが始まった。


 イグルードは号令をかけるとともに剣を抜きカイトに切り掛かる。


 カイトはそれを容易く躱し、3人と連携を取るべくやや下がった。


 「てめぇ。剣も抜かないとか舐めてんのか!」


 「いやいや、急に切り掛かってきたのはそっちだろうに。」


 「おめぇら!さっさと取り囲んで女どもを捕まえろ!!」


 「さー、そんなこと出来るのかな?」


 駆け出した取り巻き達。

 そこに【マジックボール】が4襲い掛かる。4体の精霊がそれぞれ【精霊弾】を使用したのだ。


 「ぎゃっ!」「いてぇ!」「うっ。」「ぐはっ!」


 威力の抑えられた【精霊弾】は相手を昏倒させたりはしないものの足を止めるには十分だった。


 「てめぇら、何やってやがる!!」


 イグルードの怒号が響く。


 「イグルード、よそ見してていいのか?」


 その間にカイトは剣を抜き、正眼に構えた。


 「はっ。てめぇなんざ【剣術士】の俺様にかかれば・・・」


 言い切らせないうちに、かなりゆっくり目に切り掛かる。


 慌てたイグルードが挙げた剣を、カイトの剣が上から打ち付ける。


 「俺もパーティメンバーをあんな目で見られて黙ってはいられないんでね。さっさと終わらせてもらう。」


 余り表には出していないが、カイトはイグルード達の言動を腹に据えかねていた。


 カイトが意図的に作り出した鍔迫り合いを崩し、剣身を流す。

 その勢いを利用して回転し、【パワースラッシュ】をイグルードの腹に打ち込んだ。


 甲冑を着込んだ腹部を切り裂くことはなかったが、強い衝撃がイグルードを襲う。

 そしてカイトは返す剣でイグルードの首を後方から強く打ち据えた。もちろん剣の腹でだが。


 悲鳴を上げる間も無く意識を手放したイグルード。

 それを見た取り巻き達は恐慌状態に陥った。


 「イグルードさんが!!」

 「やべぇ、あいつ強すぎる!」

 「いや、こっちの【魔法士】もやべぇぞ!」

 「まずはカイトをみんなで囲んじまおう!!」


 正直な話、イグルードよりもこの4人の方がレベルは上である。2次職とは言えそれなりに成長しているからだ。

 そのせいか、フェリアの相手をやめて、カイトを集中して攻撃するという選択肢が浮かんでしまった。


 「おいおい、お前らの相手はそっちじゃないのか?」


 取り巻き達が驚いている隙にフェリアは杖を構え突っ込んでいた。

 リルムの力を乗せた突き、払い、そして【精霊弾】。

 瞬く間に3人が昏倒する。

 残ったのは1人だ。


 1人を残したのはフェリアの考えだ。

 どのように圧倒的に倒されたのか認識させる必要があると考えたのだ。

 生命力が残っていても、急所にそれなりの衝撃が加えられれば気絶という状態異常に陥る。

 カイトもフェリアもそれをこなしたのだが、これは実力差がなければ出来ることではない。


 「それで?まだ続ける?」


 フルフルと首を振って拒否する最後の一人。


 「そ。それじゃあ連中が起きたらガルドさんに謝っておきなさい。私たちはもう行くわ。」


 カイト達がその場を去ることが分かってホッとした様子を見せた。


ー▼ー▼ー▼ー


 「カイト、済まなかったな。」


 「いや、こちらこそ迷惑をかけた。二人を守ってくれてありがとう。」


 「良いってことよ。・・・行くんだろ?」


 「流石にな・・・。まぁほとぼりが覚めた頃、また顔を出すよ。」


 「ああ。ぜひそうしてくれ。」


 「それじゃ孤児院に挨拶してくるわ。あいつら気絶してるけど、面倒かけてすまんな。」


 「気にするな。ただ気をつけろよ?あいつら、あれだけじゃない。すぐに追っ手がかかってもおかしくないぞ?」


 「まぁ・・・そうだろうな。大丈夫。考えはある。」


 「そうか。カイトが言うなら大丈夫だろう。達者でな。」


 「ああ。」


 そうして騒動を終えたカイト達は孤児院へと向かった。

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