3-14 クラン『黄金の風』

 人混みを搔き分け、ガルドの店に辿り着くとそこには目つきの悪い金髪の戦士風の男を中心に5人ほどが取り囲み、騒いでいた。


 「いいから、来いって言ってんだろうが!!」


 「絶対嫌!」

 「帰って!」


 どうやらルナとレナを無理に勧誘しているらしい。

 ガルドが守ってくれているようで、二人はガルドの後ろにいる。


 「ここで騒ぐんじゃねぇ!嫌だって言ってんだから大人しく帰りやがれ!!」


 「武器屋如きが俺様に指図するんじゃねぇよ!いいから二人をこっちに寄越しやがれ!」


 如きとは言うが生産職だとしても3次職のレベル50である。弱いわけではない。


 「一体何を騒いでるんだ?」


 カイトがその場に割り込み問いかける。


 「お、カイト。面倒なとこにきちまったな。」


 「ルナとレナに目をつけられたってなら俺たちの問題さ。ガルドさんを巻き込んで申し訳ない。」


 「いいってことよ。短いとは言え弟子みたいなもんだからな。」


 「おい!お前!!急に割り込んで何駄弁ってやがる!!・・・お前、カイトか?」


 「久しぶりだな・・・。イグルード。で、これは何の騒ぎなんだ?」


 騒いでいた男の名はイグルード。

 カイトの2つ上の男性で、ノースアクアリムで有数の商家の4男だ。


 イグルードはずっとカイトを目の敵にしていた。

 孤児院にやってきては傍若無人に振る舞うイグルードをずっと無視していたからだ。

 中身が大人のカイトにとって、イグルードはただのガキ大将で自己陶酔のためだけに孤児院にやってきていると看破していたからだが。


 そんなカイトをイグルードはずっと気に食わなかった。

 しかし2つ下であるのに、算術には負け、知識でも負け、果てには訓練でも負けた。

 カイトは武術はそこまで優秀ではなかったが、それでもそれなりには出来たのだ。

 というかイグルードが弱かっただけだが。


 流石に15歳になってから孤児院に来ることはなかったが、未だに取り巻きを連れて大きな顔をしているようだ。


 「それで一体これは何の騒ぎなんだ?」


 カイトはフェリアに目でルナとレナの保護を頼むと、イグルードに改めて問いかけた。


 「あん?俺様がクラン作ったからよ。追い出された可哀そうな【雑用士】を雇ってやるって言っただけだよ。【雑用士】なんだからはお手のものだろ?色々な雑用があるかも知れないけどな!顔はいいから役に立つだろ?」


 とんでもなく下衆な話だった。


 「ふざけてるのか?そもそもルナとレナは俺のパーティメンバーだ。お前に渡すわけにはいかない。」


 「はぁ?【雑用士】をパーティメンバーだって?お前こそふざけてんじゃねぇ!それとも何か?お前がに使ってんのか?」


 「妄想も甚だしいな。とりあえずルナとレナも断ってるんだ。大人しく帰るんだな。管理局に通報されたいのか?」


 強制的なクランやパーティへの勧誘は管理局としてはご法度である。

 訴えがあれば調査が入る。


 「あん?管理局がなんだって言うんだ。俺様はクランマスターだぞ?・・・てゆーか、カイト。お前15歳になったはずだよな?管理局で見たことも、噂を聞いたこともないんだがどういうことだ?」


 「別に管理局に登録してないだけだ。それは自由のはずだろ?」


 「まさかお前・・・。お前も希少職なんじゃねーの?」


 「何をバカなことを。そんなに希少職がぽんぽんいてたまるか。孤児院の手伝いを優先してるだけさ。」


 希少だから希少職なのだ。まぁここにぽんぽんいるのではあるが。


 「そっちの女も見たことねーな。まぁいい。カイトはいらないからそっちの女も含めて俺のクランに来い。これからどでかくなるからおいしい思いできるぜ?」


 フェリアにも目を付けられてしまったようだ。


 「あんたなんかのクランなんてお断りよ。ルナとレナも嫌だって言ってるんだから大人しく帰りなさい!」


 「お前、いい加減にしろ。営業妨害で訴えるぞ?カイトたちが管理局に訴えるなら証人にもなってやる。」


 ガルドも痺れを切らし始めているようだ。


 「てめぇら・・・。このクラン『黄金の風』のマスター、【剣術士】イグルード様を舐めてんのか!!ここの領主からも期待された有望なクランだぞ?!」


 【剣術士】は基本職ではなく、基本1次職からの派生2次職である【剣使い】の上位職だ。一般に能力が高く優秀な者がなれる職業であると言われている。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【剣使い】

派生2次職

転職条件

 ①基本2次職の転職条件を満たさず、剣で100回モンスターに止めを刺す。

 ②剣で1000回モンスターに止めを刺す。

 ③剣の極意を得る。

成長条件

 特になし

レベル上限:30

習得スキル

 【リーンフォース】(1)

 【スラッシュ】(20)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【剣術士】

派生3次職

転職条件

 【剣使い】をマスターする

成長条件

 特になし

レベル上限:50

習得スキル

 【剣術】(1)

 【パワースラッシュ】(20)

 【一刀両断】(40)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 転職条件からすると基本1次職のスキルを使わず、ただひたすら剣で戦うことでなれるジョブのようだ。


 「【剣術士】・・・か。」


 カイトはどこまでやるべきか悩みながらそう呟く。

 ここでイグルードと白黒つけるのは容易い。

 ある想定もあって弱いだろうと思っているし、実際カイトは3次職と2次職を持っていて通常よりも能力は高いからだ。


 ただそれをすると目立つ。

 下手をすると領主にも目を付けられかねない。


 派生3次職【剣術士】のイグルードに、ついこの間15歳になったばかりの、よく成長していても2次職であるカイトが通常であれば勝てるはずがないからだ。


 「イグルードさん、こんな生意気なやつらシメちまいましょうぜ!」

 「そうですよ!『黄金の風』をナメきってやがる!」


 取り巻き達が囃し立てる。


 「おい、カイトぉ。どうすんだ?女達を渡すなら見逃してやるぜ?」


 「見逃してやる?そもそもどうするつもりなんだ?」


 「てめぇは昔から生意気なんだよ!!何でも分かってるって面しやがって!いい機会だからぶっ潰してやるよ。それが嫌なら女を置いていくんだな!!」


 打開策がない。

 フェリア達を置いていくのは端から選択肢にはない。

 

 逃げるのも得策とは言えない。孤児院の場所は当然知られている。


 「何でも分かってる・・・ねぇ。例えばお前がパワーレベリングでレベルを上げたら運良く【剣使い】になれたこととかか?」


 「てめっ・・・なんで・・・。いや、出鱈目言うんじゃねぇよ!これは俺様の才能だ!!」


 この反応であれば、転職条件②や③はないだろう。

 【剣使い】の転職条件①は運が良ければ満たせる。

 経験値按分から漏れないように止めだけ刺せばいいのだ。


 カイトは打開策を考えながら言葉の応酬を続ける。


 「その反応は図星か?その剣、ガルドさんの作品だろ?そんなに綺麗なのに努力したとは思えないんだよ。」


 「カイト、よく分かったな。あの剣は2年前に売った俺の剣だな。確かに使い込まれてる様子はねぇな・・・。」


 「見たことあるし、自慢していたってのを聞いたことがあるからな。」


 「うるせぇよ!俺様が【剣術士】なのは変わらねぇだろうが!!いいからさっさと女置いていくか、俺らにぶっ潰されるか選べや!」


 だんだんとヒートアップしていくイグルード。

 図星を刺されたことを誤魔化すのもあるのだろうが。


 「ガルドさん、お願いがあるんですが。」


 ガルドはそれだけでカイトの意図を察したようだ。


 「あーそうだな。お前らここで騒がれるのは迷惑だ。うちの庭を貸してやるから続きはそこでやれ。これでいいだろ?カイト?」


 「助かります。」


 「ちっ。衛兵呼ばれても面倒だ。そうしてやるよ。カイト逃げるんじゃねーぞ?」


 「おう、イグルードとかいう坊主!1つだけ忠告してやる。いくら【剣術士】とは言え低レベルじゃ、【戦士】のカイトには勝てねーぞ?」


 ガルドが、カイトが勝っても不思議じゃない理屈を周りに伝えるように、イグルードに忠告する。

 カイトに【戦士】として戦えということでもある。


 「うるせーよ、ジジイ。この俺様が【戦士】なんかに負けるわけねーだろ!おら、野次馬ども!さっさと散りやがれ!!」


 イグルードは反論したあと、周りに当たり散らし、そのままガルドについて奥へと移動していった。


 そうしてカイト達はガルドの店の裏庭へと騒動の場を移すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る