3-16 ノースアクアリムからの旅立ち

 「そうですか・・・。いつかは来ると思ってはいましたが。」


 カトレアが残念そうに言う。


 「それで、これからどうする予定ですか?追っ手の心配もしないといけないでしょう?」


 「一応考えがあります。あと許可を頂きたいことも。」


 「許可?」


 「【職業情報】で見つけたがあります。それを【職業体験】で使うことで追っ手を考える必要もなくなり、さらにここに帰ってくることも容易になります。」


 カイトはこれまで4次職についてカトレアに報告してこなかった。報告した所で証明が出来ないからだ。

 カイトだけ【職業体験】できても意味はない。


 「貴方って子は・・・。今まで言わなかったのは理由があるんでしょうけど。」


 「それについては俺が準備している間にフェリアから聞いてください。今は必要なことだけ・・・。それでその見つけたジョブが【召喚士】と言うもので。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【召喚士】

基本4次職

転職条件

 【攻撃魔法士】をマスターする

 【交渉人】をマスターする

成長条件

 モンスターを討伐する

 【召喚士】関連のスキルを使用する

レベル上限:70

習得スキル

 【セットポイント】(1)

 【リターンポイント】(20)

 【コールパーティ】(40)


○【セットポイント】:任意の地点に【リターンポイント】で使用するポイントを設定する。

○【リターンポイント】:自身と任意のパーティメンバーを設定したポイントに召喚する。

○【コールパーティ】:自らの任意のパーティメンバーを自身の元に召喚する。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 カイトは【召喚士】とそのスキルについて説明した。

 ちなみに【召喚士】は【吟遊詩人】と同じ時期に発見していたが、【セットポイント】【コールパーティ】ともに魔力消費量が多く、発動させることができなかった。

 【スキルスロット】を習得したことにより使用出来る様になったのだ。


 「それで俺が【気配隠蔽】しながら街から出て、外にポイントを作ったらここに戻ってきます。それで許可の話なんですが、ここにポイントを置かせて欲しいということです。あ、ちなみに実験を兼ねてすでに裏庭に設定はしてあるんで、そのまま使わせて欲しいってことですけど。」


 「とんでもない話が多すぎて理解が追いつきませんが、それは許可しましょう。ここで合流したら再び【リターンポイント】で移動するということですね?」


 「はい。そうすれば比較的安全に抜け出せるかと。」


 「ここでそれくらいの時間なら匿えますからね。とりあえずカイトは準備を進めてください。フェリアさん、その間にお話を聞かせてもらえるかしら?ルナとレナは部屋を片付けて出発の準備を。」


 「分かりました。」


 「ん。行ってくる。」

 「フェリアとカイトのも任せて。」


 「よろしくね。俺も行ってくるよ。」


ー▼ー▼ー▼ー


 そうしてカイトは【気配隠蔽】を使用してノースアクアリムダンジョンへと向かった。

 【カモフラージュ】の方が隠れるには都合がいいが、激しく動くとすぐに効果が切れてしまうので、こういう場合には向かないのだ。

 そこから【ダンジョンワープ】でスライムダンジョンへと移動。

 ダンジョン内に【セットポイント】することは出来ないので、スライムダンジョンの外に出る。


 カイトが【召喚士】を見つけた時は歓喜した。【職業情報】を使ってからは非常に残念な思いをしたが。

 カイトにとって【召喚士】と言えば、強力な召喚獣を呼び出して攻撃する派手なジョブだからだ。


 確かに仲間を呼び出すのも召喚である。

 それでも自分を呼び出すのは違うんじゃないかと思った。

 これを知ったのは【スキルマニア】の【スキル情報】を得てからだが。

 とは言え、今の状況において非常に頼れるスキルなのは間違い無い。


 【召喚士】で設定できるポイントには恐らく制限はない。

 「恐らく」と付くのは、その根拠が【職業体験】で【召喚士】に就いた時に得られるスキルの感覚だけだからだ。

 

 作ったポイントは任意で消去できる。恐らく【召喚士】であれば誰のものでも。

 今は【召喚士】はいないため心配することもなく、ほぼ無制限と言えるが、【召喚士】がそれなりに溢れる世界であれば、設置する場所には気を使う必要があるだろう。


 そうしてカイトはダンジョンの外に【セットポイント】を終えた。

 余りに早すぎても問題があるし、カトレアにも徒歩で街を出たと思われていた方がいい。カトレアを信じていないわけではないが、真実を知る者は少ない方が漏れないのだ。ダンジョンからたまに得られるランク4とか5のアイテムには嘘を判別することのできる道具も存在する。

 万が一、まず無いだろうが、そういう道具を使ってフェリアの生存を確信されたとしても、その追っ手がかかるのはだいぶ先になるだろう。追っ手がかかるかも定かでは無いが。


 「しかしまぁ厄介なことに・・・なったか?」


 カイトは自問自答しようとしてふと考えた。


 元々ランク2ダンジョンを攻略したら移動するつもりだった。それが早くなっただけだ。

 イグルードの件は面倒ではあったが特に問題はない。フェリアの名前も出していないし、強さを見せつけたことで希少職だとも思われないだろう。見せすぎた面は否めないが。

 厄介と言えることは急遽旅立つことになったことで、旅の準備がほとんど出来なかったことだろう。とは言え、ダンジョンに潜る上で携帯食料はそれなりに持つし、水は生活魔法で賄える。そもそもノースビーストリムまでは徒歩で1日、30km程度離れているだけである。


 「うん?思った以上に問題はないな?」


 そうなると次に考えるべきはノースビーストリムに着いてからの行動方針である。

 攻略するダンジョンはノースビーストリムダンジョン。ただ、【ダンジョンワープ】を考えるとまだ途中である洞窟ダンジョンも候補に挙がる。女子3人は恐らく嫌がるだろう。カイトも出来れば避けたい。


 拠点についても考える必要がある。しばらくは宿でいいだろうが、孤児院ほど自由は利かないだろう。住居を構えるのもいいかも知れない。


 それに重要な要素としては管理局への登録をどうするかということがある。安定的にドロップを売却するには登録する必要があるが、表立って登録できるのは【職業体験】でパーソナルカードを誤魔化せるカイトだけだ。


 なぜ【職業体験】でパーソナルカードの表示まで変わるのか疑問ではあるが、そういう仕様なんだろうし、都合がいいので気にしないことにする。

 管理局に登録するのはいいが、売却するドロップの量を考えないと目立ってしまう。ガルドの反応を見るに明らかだ。宿代くらいはモンスターからのマナゴールドで賄えるし、どこまでメリットがあるか疑問である。この辺りはみんなで相談するべきかとカイトは考える。


 そんなことを考えているとそれなりの時間が経過した。

 カイトは【リターンポイント】を発動して孤児院へと戻った。


ー▼ー▼ー▼ー


 「おかえり。」


 戻ったカイトを出迎えたのはフェリアだった。杖を持っている様子から少し体を動かしていたのだろう。


 院長室へと移動し、別れの挨拶をする。


 院長のカトレア、【軽戦士】のフレッド、【料理人】のリード、【育成士】のサリナ、【回復魔法士】のシンシア。


 お世話になった人たちに感謝の言葉を述べるとともに、慌ただしい出立を謝罪する。


 幸いポイントを置かせてもらったことでいつでも帰ることは出来る。


 再会を誓い、4人はその場を後にするのだった。

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