3-12 フェルムの進化とレッサーマイコニド

 それはある意味当然の帰結だったのだろう。


 フェルム、リルム、アルムの3体の精霊たちは自らと相性のいい精霊を説得して、フェリアに頼んで同化を進めていた。

 精霊には好みがあって、それは【精霊撃】の対象となる武器にも表れている。


 「んー、なんか・・・。フェルムが進化したんだって。見た目は・・・少し大きくなったけど変わってない?それで、少し言葉が流暢になって。・・・命属性の精霊になったみたい。」


 洞窟ダンジョンの15階層入り口に到着して準備をしていると、フェリアがそんなことを言った。


 「命属性?回復魔法の属性のこと・・・なのか?」


 フェルムは以前から、軽い持続型回復魔法のようなものを使えていて、4人としては非常に助かっていた。


 「ん?フェルム?」

 「すごい。」


 「うーん、そんな感じみたい。生命力を回復する【リジェネレーション】と、疲労回復の【リカバリー】みたいなのが使えるようになったみたい。【リカバリー】と違って持続型で疲れにくくなるようなやつみたいだけど。」


 「それはありがたいな。消耗はどうなんだ?」


 「進化して強くなったから基本的には大丈夫だって。効果はまだ弱いからって残念そうに言ってる。」


 「十分だよ。【スキルスロット】で【リカバリー】も選択肢に入れてたくらいだし、そっちを気にする必要が少なくなるだけでも助かるさ。」


 「頑張るって気合い入れてるね。フェルム、よろしくね!」


 「フェルムすごい!」

 「フェルムありがとう!」


 「そうなるとリルムとアルムの進化も近いのかな?」


 「んー、『多分近いけどまだ』、だってさ。」


 「そっか。まぁ焦ることはないから満足いく成長してくれるといいな。」


 「うんうん。二人ともありがとうだってさ。」


 「どういたしまして。さぁ始めようか。」


ー▼ー▼ー▼ー


 フェルムの進化の結果、成長したのはバフだけではなかった。

 【精霊弾】の威力は打ち止めのようだが、【精霊撃】の威力が上がった。フェリアはゴブリンに、鞭の距離だとしても近づくのを嫌がったがフェルムに強請られて渋々戦った。結果わずか数発でゴブリンは煙となったのだった。


 そして狩りとしては効率がかなり上がった。3〜4時間狩っているとやはり消耗する。

 度々周りを警戒しながら5分程度の小休止を入れていたのだが、それが必要なくなった。

 もちろん【スキルスロット】の【リカバリー】を併用してだが。


 洞窟ダンジョンの15階層にはレアモンスターとして『レッサーマイコニド』が出現する。それ以外は14階層と同じだ。

 レッサーマイコニドは通常ドロップとして50%で『生命茸☆☆』を落とし、レアドロップとして5%程度で『魔力茸☆☆』を落とす。前者は『バイタルポーション』という生命力を回復する飲み薬の材料に、後者は『マジックポーション』という魔力を回復する飲み薬の材料になる。

 もちろん両者とも洞窟ダンジョン以外で直接採取できたり、レッサーマイコニドがレアでなく出現したりするため、レッサーマイコニドが出現するだけでこの15階層が人気になったりすることはないのだが。


 それでも4人は、有用なドロップということもあって、レッサーマイコニドを探すのに躍起になった。

 カイトの【リカバリー】とフェルムの【エレメンタルレスト】によって疲れ知らずになった結果、6時間ぶっ通しで狩り続けることとなった。

 ちなみにフェルムによる生命力持続回復バフを【エレメンタルリジェネ】、気力持続回復バフを【エレメンタルレスト】と呼ぶことにした。

 6時間の狩りで得られた結果は、レッサーマイコニド5体から生命茸3本のみ。割合としては負けていないが、出現率の低さには驚く。

 ゴブリン集団は60ほど壊滅させ、【ジョブホッパー】【精霊使い】【万能士】が横並びでレベル26に、【スキルマニア】がレベル24になった。

 やはりレベルの上がり方は減速している。


 レッサーマイコニドはキノコ型のモンスターで、レッサーという接頭辞がつく通り、移動すると言ってもほとんど動かず、何もしないまま倒されている。


 情報によると胞子を撒き散らし、催涙状態にするというものがあったのだが、使われることはなかった。


 「なんか張り切りすぎた割には残念な結果ね。」


 「残念。」

 「無念。」


 「まぁここが不人気なのを改めて実感する結果になったな。」


 「それでも鉄鉱石は結構集まったわね!」


 これまで集めた鉄鉱石は100個になっている。


 「思ったより多いのか少ないのか・・・。」


 「まぁ多すぎてもガルドさん困るかもだし。」


 「それもそうだな。昨日は攻略してからって言ってたけど中間報告兼ねて明日渡しに行ってみようか。」


 「カイト、お願いがある。」

 「私たち生産がしてみたい。」


 ルナとレナから思いも寄らぬことを提案された。


 「生産?やりたいってならいいんだけど、なんでまた?」


 「【万能士】だから。」

 「【器用貧乏】だから?」


 【万能士】の【器用貧乏】を調べたところ次のような効果が確認された。


○【器用貧乏】:【雑用士】系統限定。全ての基本2次職のスキルが使用可能になる。スキル効果減少。成功確率減少。パッシブスキルは対象外。


 成功確率減少。逆に言えば成功させられる可能性があるということだ。そしてレベル40スキルの【ルーチンワーク】。

 ちなみに【雑用士】から【万能士】への転職後、ルナとレナの【アイテムボックス】のスロット数は100個から80個に減少した。【器用貧乏】による減少率は20%ということだろう。


○【ルーチンワーク】:スキルの使用を繰り返すことで効果上昇。生産を繰り返すことで生産成功率上昇。パッシブスキルは対象外。


 つまり【器用貧乏】でも繰り返せば少なくともデメリットは消えていくのだ。

 まだ【ルーチンワーク】は覚えていないが、生産方法を覚えておくのも悪くはないだろう。


 「なるほどな。ガルドさんに教わりたいってことか?」


 「そう。」

 「二人のために。」


 「二人のためって?私とカイトのこと?」


 「ん。」

 「出来ること多い方がいい。」


 「あー、この前の目標の話か?まだそんなに気にしないでもいいんだが。でも出来ることが増えるのはいいかもな。」


 「そうね。ガルドさんが許してくれるならいいかも。」


 「そうなると二人はパーティから抜けるのか?」


 「んーん。」

 「ノースアクアリムから離れたら出来なくなるから。」


 「事情を知ってるガルドさんと話せるうちにってことね。・・・いいんじゃない?」


 「基本だけでも教われれば違うかな?明日頼んでみようか。」


 「うん。」

 「お願い。」


 実はガルドは【工芸士】だけあって、武器以外の生産にも精通している。専門は武器だが。


 「これで全部?」

 「ん、一応?」


 二人が何か確認し合った。


 「ん?他にも何かあるのか?」


 「カトレアとリードとサリナに。」

 「もう教わってる。」


 カトレアは【商人】系統、リードは【職人】系統、サリナは【農家】系統だ。


 「それならガルドさんも【職人】だろ?」


 「リードは料理だけ。」

 「薬はいいけど武器はダメ。」


 「なるほど。」


 確かに【料理人】に武器の作り方は教われないだろう。薬は何とかなるようだが。


 「それなら生命茸は使ってみるか?」


 「いいの?」

 「お金は?」


 「二人が作れるようになった方が結果的に安くなるだろ?フェリアもいいよな?」


 「もちろんよ!というか私たちも勉強した方がいいんじゃない?」


 「俺はそういうセンス全くなかったんだよ。だから料理もリードさんに頼んだし。」


 「あーなるほどね。」


 「フェリアはいい。」

 「私たちの仕事。」


 「じゃあお願いしようかな。よろしくね?」


 「任せて!」

 「頑張る!」


 実際パーティ内で生産が出来るものがいれば、色々と節約になるだろう。

 大手のクランではクラン内に生産部門を設けているところも多い。

 そういう所は素材確保も自力で出来るため、コストは大幅に下がっていると言える。


 そういう意味では成功率が下がるとは言え、基本2次職を全て内包する【万能士】は本当の意味で万能であると言える。

 人数が減れば維持するコストは減るものであるし、育成する手間も減るからだ。


 「まぁ無理はしないようにな。」


 それでもカイトは無理してまでやってほしくはないので、そんなことを言うのだった。

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