3-11 ゴブリンアーチャーと【スキルスロット】

 超巨大な目標が出来てもやることは変わらない。

 まずは強くならなければならない。

 4次職、『失われた最上級職』に至る方法を発見しなければランク5ダンジョンどころかランク4ダンジョンへの挑戦すらままならないからだ。


 4人は、とりあえず直近の目標である鉄鉱石調達の依頼を達成すべく、洞窟ダンジョンの13階層を攻略する。


 登場するのは目的の鉄鉱石をドロップする『ゴブリンアーチャー』。ゴブリン5〜6匹の集団の中に1匹だけ存在する。ドロップ率は5%程度。

 ちなみにゴブリンは魔石をドロップする。


 そしてゴブリンアーチャーの強さだが・・・。

 相手にもならなかった。


 カイト達も遠距離主体。

 ゴブリンがいくら弓を持とうと優位とはならない。

 

 ドロップ目当てであれば【職業体験】は【冒険者】にしたいところではあるが、殲滅優先、試行回数優先で【攻撃魔法士】を指定して【ウィンドボール】を使用している。


 どちらにせよ14階層に行けばゴブリンアーチャーの数は増える。

 そういう考えの元、13階層は早々と突破した。


 所要時間は3時間。倒した数は35組程度。獲得した鉄鉱石は2個。

 【ジョブホッパー】と【精霊使い】はレベル24に、【スキルマニア】はレベル19となった。

 【スキルマニア】は次のレベルで【スキルスロット】という新しいスキルを習得する。


○【スキルスロット】:【スキル情報】で確認したスキルを設定して使用できる【スキルスロット】を追加する。使用すると設定は解除される。パッシブスキルは指定不可。


 何とも強力そうなスキルである。


 「【スキル情報】も【職業情報】も最低限って感じで痒い所に手が届かないイメージね。」


 「まぁそうだなぁ。魔力消費量とか能力上昇量とかそういう情報もほしいな。」


 「レベルが上がると能力が上がるのもスキルが増えるのも不思議よね。」


 「え?」


 カイトならまだしもフェリアがこういう疑問を抱くのは珍しい。


 「カイトが色んなことを考えてるから、私も改めて考えてみたのよ。不思議なこといっぱいだなって。今までは粛々と受け入れてきたけど、なんで疑問に思わなかったのかって不思議な気分だわ。」


 「あー・・・。」


 「フェリアもカイトに毒された。」

 「カイトは昔から。」


 「ルナ、レナ?変なことは言うなよ?」


 「え?何々?面白いエピソードがあるなら聞かせてほしいわ!」


 「ないない。」


 「食事とか。」

 「魔法とか。」


 「食事?そういえば孤児院で出る食事って変わってるの多いわよね?おいしいけど。」


 「あれはカイト。」

 「変わってるけどおいしい。」


 「カイト?どういうこと?」


 「あー、俺が思いついた調理法を、【料理人】のリードさんにお願いして作ってもらったりしたんだよ。」


 「あれは毒。」

 「外が辛い。」


 双子はカイトの考えた料理を忘れられなかったようだ。


 「魔法って言うのは?」


 「魔法が気になって仕方なかったから、シンシアさんに強請りすぎて怒られた・・・。」


 「どっちもカイトらしいわね・・・。」


 「だからカイトは毒。」

 「みんなやられる。」


 「お前らほんっと調子に乗ると失礼だよな!」


 「仕方ない。」

 「カイトだし。」


 「あはは。最近ルナとレナの表情が分かるようになってきた気がするわ!」


 実際今はちょっとドヤ顔に見える。


 「まぁいいけどさ・・・。」


 三人寄らば姦しいとはこのことか。


ー▼ー▼ー▼ー


 そんな雑談をしてから狩りを再開する。

 14階層では、ゴブリンの集団の中に2匹ゴブリンアーチャーが存在している。

 そんな中を4時間ほど狩り進めると15階層への階段へ辿り着いた。

 倒したのは40組ほど。


 かなり余裕があったので【職業体験】は【冒険者】に切り替えてドロップの効率化を図った。

 そのおかげか、手に入れた鉄鉱石は合計でちょうど40個となった。

 様々な条件はあるかも知れないが、【ドロップ率アップ】【ドロップ数アップ】はなかなか強力なスキルのようだ。


 【ジョブホッパー】と【精霊使い】はレベル25に。【万能士】はレベル24に上がり、【スキルマニア】は【スキルスロット】を覚えレベル23まで上がった。


 レベルが上がり【スキルスロット】を習得したあと、カイトは狩りを中断しないまま【スキルスロット】の検証を進めた。


ー▼ー▼ー▼ー


 帰宅して食事後、フェリア、ルナ、レナの3人に検証結果を報告する。


 「【スキルスロット】はとんでもないスキルだった。」


 カイトはそう切り出す。


 「まず、制限に関してだけど、『条件を満たしていないスキルは発動しない』、『パッシブスキルは指定できない』、これは【スキル説明】にあったことだな。そして、『再使用時間、クールタイムが30秒ほど存在する』。これでアクションスキルを連発するようなことは出来ないことが分かった。」


 「条件を満たしていないスキルっていうのは?」


 「【精霊弾】とか【精霊撃】だな。精霊と契約していないと使えないんだろう。まぁ使えないというより発動しないという感じで、使用扱いにはなったから【スキルスロット】からは外れたけどな。」


 「なるほど。そういうのであれば他にもありそうね。」


 「かも知れないなぁ。」


 「それで他には?」


 「【スキルスロット】で使うスキルに消費はない。」


 「何それ・・・。反則じゃない?あ、だからクールタイムが設定されてるのね。」


 「ああ、それとマナゴールドの消費は多分そのまま減らないと思う。それに、使用したスキルのクールタイムを無視は出来ない。【不意打ち】を30秒ごとに連発したりとかは無理。」


 「なるほど。30秒に1回でも強そうなものはありそうだけど。」


 「その辺りはこれから探す感じかな。あと制限ではないけど、がっつり戦闘中に【スキルスロット】を弄るのは難しいかな。あらかじめ設定しておいたのを使う分には問題ないけど、新しく設定するにはそれなりに集中が必要そう。」


 「ふむ・・・。それじゃあ使い方としては?」


 「主にバフに使って消費を節約するのと、回復魔法なんかを設定しておいて緊急時に使う感じかな?」


 「じゃあ、大きく戦い方が変わるようなことはないのね?」


 「そうなるね。3次職のスキル次第ではまだ化けるかも知れないけど。」


 スキル効果の印象ほどは強くはない。

 強力なバフスキルなどがあれば変わってくるかも知れないが。

 元々のクールタイムなどを無視できるわけではないので、使い方次第と言ったところだろう。


 「【ダンジョンワープ】とか【ダンジョンウォーク】を【スキルスロット】に設定して使えるのは正直助かるかな。」


 今は出発の1時間前までに【ものまね】に【ダンジョンワープ】を、【職業体験】に【冒険者】を設定しておかなければならない。そうして移動した後に【ものまね】を【マジックボール】に、【職業体験】を【攻撃魔法士】に切り替えている。


 【スキルスロット】によって、そこまで大きな変化はないものの、それでも使えるスキルの幅は広がったと言える。


 「まぁうまく使えば今までより楽になるのは間違いないな。」


 バフだけでも【重戦士】の【ウォークライ】、【補助魔法士】の【ガードアップ】【パワーアップ】【スピードアップ】、【パラディン】の【パラディンガード】、【魔法戦士】の【マジックウェポン】、【吟遊詩人】の【エールソング】、それにバフではないが、【重戦士】の【挑発】は便利と言えるだろう。


○【ウォークライ】:一定時間自分の攻撃力・防御力を増加する。

○【ガードアップ】:一定時間対象の防御力・魔法防御力を上昇させる。

○【パワーアップ】:一定時間対象の攻撃力・魔法攻撃力を上昇させる。

○【スピードアップ】:一定時間対象の敏捷性を向上させる。

○【パラディンガード】:一定時間自身の防御力・魔法防御力を上昇する。体勢が崩れにくくなる。

○【マジックウェポン】:一定時間武器に魔法を付与して攻撃力を増加させるとともに属性も付与する。【属性変換】の対象となる。

○【エールソング】:一定時間パーティ全体の攻撃力・魔法攻撃力を上昇させる。

○【挑発】:範囲内にいる敵性存在の敵意を自分に向けることができる。


 「これだけのスキルがあるだけでも違うわね。」


 「ん。」

 「ずるい。」


 カイトが一通りのスキルを説明するとそんな声が上がった。

 【重戦士】や【補助魔法士】は3次職であるため、スキルを知っている者は多いが、残りは知られていない。


 「今まで消費がきつくて使えなかったアクションスキルなんかもスポットであれば使えるのは助かるな。」


 「まぁ【スキル情報】にもお金はかかるし、それは火力不足になってきたらでいいんじゃない?」


 「それもそうだけどな。とりあえずお金は貯めないとだし、節約しつつ有用そうなのを探すのは続けないとだけどな。」


 【吟遊詩人】もそうやって見つけたジョブである。

 他にも色々と新たに見つけている。


 「とりあえず明日は・・・ガルドさんに納品しに行こうかと思ったけど、このペースで進めるなら先に攻略しちゃうのもありかな?」


 「16階層からのゴブリンファイターも鉄鉱石落とすんだし、とりあえず進んじゃえばいいんじゃない?」


 「それがいい。」

 「お金大事。」


 「それじゃあそうするか。」


 そうして次の日の予定も決まるのだった。

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