3-10 カイトの目標

 「宵闇の森、その中にあるダンジョンを攻略して土地を得る。」


 そうカイトが言い放った。

 突拍子もない提案だ。


 「・・・可能か不可能かで言えば可能かも知れない。でも、土地を得てどうするの?」


 「んー、最初に考えたのは逃げ込める場所としてってことだったんだが・・・。」


 「が?」

 「今は?」


 「俺たちみたいな希少職、劣悪な環境に置かれている人たち、そんな人たちを守れるそんな場所を作るのもいいかも知れないと思ったんだ・・・。」


 「ほう?」

 「隠れ里?」


 「隠れ里ってのはいいかもな。そもそもこの考えが出たのはルナとレナのおかげなんだぞ?」


 「ん?」

 「私たち?」


 「ああ、【万能士】なんて希少職を見つけたんだ。色々できる人間が集まれば何でも出来そうだろ?」


 「出来ることはやる。」

 「無理のない範囲で?」


 「そりゃ無理してやれなんて言わないさ。でもこれを思いついたら挑戦してみるのもありかもなってな。」


 「カイト・・・。相変わらず考えることがとんでもないわね。それは・・・この国に喧嘩を売る行為だって分かってるの?」


 「もちろん分かってるさ。だから『隠れ里』なんだ。」


 当然、国の主権が及ばない土地を得ようとすることは、立派な敵対行為である。


 「正直に言うと、その話を聞いて・・・、心が踊ってるわ。ランク5ダンジョンよりも優先してもいいかも知れないくらい。でも・・・やっぱり危険なのよ。」


 「ああ、だから順番は分からないけど、ランク5ダンジョン攻略も捨てないよ。まずは強くならないとだからな。それに宵闇の森にあるダンジョンだってランク5かも知れないし。」


 「まぁ探せばランク4やランク3もあるでしょうけど。森を進むにも力は必要ね。」


 攻略されたダンジョンの影響の外では、ダンジョンから生み出されたモンスターが外に出され魔物となって徘徊しているはずだ。


 「それよりもカイト、やるならもっと徹底的にやって、力を見せつけないとこの国も納得しないわよ?」


 「徹底的にってなんだよ?」


 「隠れ里なんて言ってたら見つかった時点で潰されるってことよ。そうね・・・それこそランク5ダンジョンを攻略して解放。大々的に宣言して国を建てるくらいやるべきじゃないかしら?」


 「そんなこと言っても人が集まらないだろう?」


 国に必要なのは国土とそこに住む民だ。

 カイトも建国みたいだなと、この案を思いついた時には考えたが、人を集める方策はさっぱり思いつかなかったのだ。


 「その発想が出る孤児ってのが不思議よね・・・。」


 「だって国には民が必要だろう?」


 「それ以外にも必要なものはあるわ。」


 「・・・他国の承認か?」


 そう。建国には他国の承認が必要である。

 周りに国が無いのであれば必要はないが。


 「なんで分かるのかしら?帝王学よ?」


 「カイトは不思議。」

 「とっても物知り。」


 「まぁいいから・・・。でも承認って言ったって、話を出した時点で潰されるだろ?」


 実はランク5ダンジョンを攻略したのなら潰されることはないのだが。この国、いやこの世界にランク5ダンジョンを攻略できるものは現在いないのだから。

 そうは言ってもダンジョンを無視して物量で攻められてしまえば為す術はない。


 「ランク5ダンジョンを攻略できる人間に簡単に手を出す人はいないわ。大規模な軍でその周囲を占領するために押しつぶす方法はあるけどね。」


 「まぁそうなるだろうな。それで?」


 「何も他国の承認はこの国でなくてもいいのよ?」


 「・・・タイラント帝国・・・か?」


 シルファリア王国の東にはタイラント帝国という国家が存在する。

 シルファリア王国と同じく帝都のダンジョンはランク6だ。

 シルファリア王国とタイラント帝国は、その接するランク4ダンジョンの所有を巡って争いを続けている。

 ダンジョンの数、それはすなわち国家の力だからだ。


 カイトはまだ知らないが、ダンジョンを奪うには、ダンジョンの所有者か、その代理人が直接ダンジョンを攻略し、最奥に到達する必要がある。シルファリア王国であれば国王か、その国王から土地を任されている貴族だ。


 ちなみにダンジョンの所有者または代理人を権利者と言う。

 権利者が他者の支配するダンジョン圏内に入ると、それはすぐさまそのダンジョンの権利者に通知される。

 そのためこっそりダンジョンだけを攻略するわけには行かず、軍を用いてその周辺に存在する街を支配下に置かなければならない。


 「ええ、タイラント帝国を味方に付ければ簡単に軍は動かせなくなるわ。」


 「でもそんな伝手も何もないぞ?ただの孤児だし。」


 「ただの、ってのには異論があるけど、そんなのは簡単よ。ランク5ダンジョンを攻略したら赴けばいいだけよ。」


 「いやいや、そんなの普通信じないだろ?」


 「あら、流石にそれは知らなかったのね。ダンジョンの権利者が、他者のダンジョン圏内に入るとすぐに権利者に通知されるのよ。」


 「は?・・・まぁそういうのがないとこっそり侵入されて土地を奪われるとかもありえるか。」


 「ええ。だから権利者はすぐに分かるの。」


 「そうなると、最初にクリアするのはフォレストリアじゃないとだめってことだな。」


 「まぁそうなるけど、この後に及んではそこはあんまり気にしなくてもいいわ。」

 

 「え?でもフェリアの目標だろ?」


 「私の目標は見返すことよ。カイトの目的を達成したって同じことだわ。」


 「んーまぁそうなのかも知れないけど・・・。」


 「建国。」

 「領主?」


 カイトが建国したらフェリアは領主になれるんじゃない?という二人の会話。


 「ん。達成。」

 「達成だね。」


 「ええ、それなら十分すぎるくらいよ。」


 「いやいや、まずは隠れ里くらいのものだよ?そんな一気には出来ないだろ。」


 「んー、まぁ早い時期にダンジョンを持ってしまうと動きにくくなるから、当面はフォレストリアダンジョンが目標でもいいと思うわ。それまでにもっと具体策を考えましょう。宵闇の森の調査も必要でしょうし。」


 思った以上に乗り気なフェリア。

 貴族の血か?と考えるカイトであった。


 「ルナとレナは何かないのか?」


 「んー。」

 「んー。」


 二人して首を傾げ考える。


 「家が欲しい。」

 「帰るところ。」


 「まぁそうだな。孤児院を出たら拠点も必要になるか。」


 「身分証明はカイトの【職業体験】があるからいいとしても。拠点を持つなら管理してくれる人も必要になるかしら?」


 「その辺りは追々考えよう。まずは洞窟ダンジョンなのは変わらないし。その次はノースビーストリムでいいのか?」


 「それは私は問題ないわよ。」


 「ん。」

 「問題ない。」


 「ノースビーストリムに行くにしてもお金が必要だから、最低限は洞窟ダンジョン行かないとかもな。もしくはゴールドスライムを狙うか。」


 「ノースビーストリムで管理局に登録しないの?」


 「そういうのもありか。目立たないようにしないとだけどな。」


 「確かに目立つのはよくないわね。難しいものだわ。」


 「そう思うと・・・国くらい大きなものを作って、大々的に希少職の価値を広げてやるってのも面白いかもな。自分の身も守れるだろうし。」


 「転職方法さえ見つかれば希少職じゃなくなるかもだしね。」


 「そうだな。」


 「希少職ってある程度基本職、ここで言うのはカイトの【職業情報】で出る基本1次職とかのやつね、その基本職を複数こなしてからやるようなものが多いのかも。カイトの【遊び人】と【技能士】なんてその典型でしょ?」


 「フェリアの【感応士】は血筋が大きそうだけどな。精霊の契約って【感応士】系統以外どうするのかも分からないし。」


 「【雑用士】は狙えば成れそうではあるわね。」


 「どう見ても不遇じゃないよなぁ。」


 「基本職をある程度やったあとの方が有用ではありそうだけどね。」


 「それは言える。」


 「むぅ。」

 「確かに。」


 ルナとレナは現状では正しく器用貧乏である。


 「まぁ大雑把だけど、目標と言えるものが出来たんだ。これからも頑張るとしますか!」


 妄想で終わってしまうかも知れないが、少なくとも道筋はある。

 そう思って心を新たにする4人だった。

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