3-9 ガルドの依頼-ゴブリン討伐

 そして翌日、洞窟ダンジョン11階層。

 いつも通り【ダンジョンワープ】と【ダンジョンウォーク】で移動してきた4人。


 ゴブリン初挑戦。

 カイトにとって、数がいるということは稼げるということだった。

 危険度と総合して判断はしているが。


 そういう意味ではワクワクしている。

 すぐに後悔することになるのだが。


 その理由は・・・。


 「ちょっとこれは・・・臭すぎない?」


 「なかなかきついわね。」


 「臭い!」

 「臭い!」


 双子はステレオで不満を言う。相当のようだ。


 「不人気な理由がよく分かるぜ・・・。」


 特に洞窟ダンジョンのゴブリンは臭いらしい。

 通路に臭いがこもってしまうからだそうだ。


 ゴブリンは強くない。

 カイトがすれ違いざま斬りつけ、双子が槍で突き刺し、フェリアが【精霊弾】を撃つ。それだけで倒せる。

 数が多いと言っても散発的に襲いかかってくるので、慌てず対処すれば危険はなかった。

 それでも3〜4匹が同時に出現するので、臭いは相当だった。12階層では5〜6匹になるらしい。


 カイトの【スキルマニア】はレベル7に上がったが、他は変化がない。まぁ大量の経験値を持っているシルバースライムも1匹では上がらなくなってきているので当然だが。


 「まぁ依頼を受けている以上やるしかないんだがな。」


 「残念。」

 「我慢。」


 「ねぇ、カイト。【ウィンドバースト】で臭いごと吹き飛ばすとかはどう?」


 「あー。やってみてもいいけど、【ウィンドバースト】では実際に風が起きるわけじゃないだろ?ドロップ率も下がるし。」


 【ウィンドバースト】を使うには【職業体験】を攻撃魔法士にしなければならない。


 「精霊のアドバイスなの。きっと効果あるわ。」


 「『弱点属性』かぁ。すぐ倒せば確かに臭いもマシになるかもな。問題は消費かなぁ。」


 モンスターにはしばしばある特定の属性を苦手とするものがいると言う。逆に特定の属性の攻撃の効果が低いこともある。前者を弱点属性、後者を防御属性と呼んでいる。

 ゴブリンに弱点属性があることは知られていない。2次職では【属性変換】は使えないし、3次職ではゴブリンなぞ狙わないからだ。


 そして【ウィンドバースト】は【マジックバースト】に【属性変換】して使うスキルで、【マジックバースト】は【マジックボール】の消費と比較にならないほど多い。

 3次職と2次職を持っているとは言え、魔力はまだ豊富とは言えない。

 【マジックボール】の消費を1とするならば【マジックバースト】の消費は10ほどある。

 【属性変換】はしても消費は増えない。


 「とりあえず【バースト】ほどじゃなくて、【ウィンドボール】を使って全員で遠距離から攻撃するのはどうかしら?」


 「やってみる価値はあるかな?近接戦を避けすぎるのも良くはなさそうだけど。特に俺以外は慣れてないだろ?」


 「練習するにしても臭すぎるわよ。」


 「いや。」

 「むり。」


 「分かった。とりあえずそれで試してみよう。」


ー▼ー▼ー▼ー


 結果は劇的であった。

 見敵必殺。鎧袖一触。

 接敵する前に倒してしまうので臭いも気にならない。

 そうして約2時間。およそ20組のゴブリン達を屠ったカイト達は【ジョブホッパー】レベル22、【精霊使い】レベル22、【スキルマニア】レベル10となった。


 「とりあえず12階層も進んでしまおうか。それで次から13階層で鉄鉱石を集めよう。」


 「ほとんど作業だし、集中力が途切れたら危ないからそれがいいと思うわ。」


 「さくさく。」

 「びしばし。」


 そうして12階層に進んでいく。

 出てくるモンスターはゴブリンで変化はしない。

 その数だけが増える。


 「と言っても数が増えたところでなぁ。」


 「消耗なしなんだからいいじゃない。」


 「まぁそうなんだけどな。」


 レベルのある世界では本来安全なレベル上げを優先すべきである。

 『レベルを上げて物理で殴る』という言葉を思い出すカイト。

 無理に強敵と戦うのはレベルが上がらなくなってからで十分である。


 ただし、突発的な出来事に対応できなくなるデメリットは存在する。

 カイトとしては安全マージンを確保した上で、様々な技術を習得するべきだと考えているのだ。

 

 そんなことを考えながらも約3時間後、12階層の最奥まで辿り着いた。出てくるゴブリンは1組5〜6匹。出てきたのはおよそ35組。

 【ジョブホッパー】と【精霊使い】は1つ上がってレベル23に、【万能士】は2つ上がってレベル22に、【スキルマニア】はなんと7つも上がってレベル17になった。


 「キリがいいし、今日はこれくらいにしとこうか。」


 次の13階層はいよいよ目的の鉄鉱石をドロップするゴブリンアーチャーである。

 洞窟ダンジョンの1階層から9階層は出てくるモンスターそのものが変化していたのだが、11階層から19階層は15階層を除いて、新たに出現するモンスターがそれ以前に出ていたモンスターに追加する形で出現する。

 13階層であれば1組5〜6匹だったゴブリンのうち1匹がゴブリンアーチャーに変化する。

 14階層では2匹になるようだ。

 15階層では同じゴブリンの組み合わせの他に『レッサーマイコニド』というキノコ型のモンスターがレアモンスターとして単独で出現する。というか鎮座しているらしい。

 

 「時間もちょうどいいし、それがいいわね。」


 「帰って一息ついたら今後の予定なんかのミーティングしたいけど大丈夫か?」


 「何か思いついたの?私は大丈夫だけど。」


 「ん。」

 「大丈夫。」


ー▼ー▼ー▼ー


 そうして食事を摂り、各々が少し休んだ後。


 「洞窟ダンジョンを攻略した後のことを考えたんだ。」


 「ノースアクアリムダンジョンではまずいって話よね?」


 「ん。」

 「ごめんなさい。」


 「いや、二人が気にすることはない。追い出した方が悪いんだし。」


 「そうよ。私だって置き去りにされたから復讐を考えてるんだし。」


 「復讐?」

 「見返す?」


 「そう。それが復讐。捨てるんじゃなかったって思わせたいの。」


 「そのためにランク5ダンジョンのフォレストリアダンジョンを攻略するのが今の所の最大の目標だ。」


 「そのためにはこのまま4次職になれるかの確認。それとなれなかった時のために転職方法を探すのが必要ね。」


 「ああ、それでレベル上げって点では、安全面では洞窟ダンジョンも悪くないのは分かったけど、時間がかかる。ランク3ダンジョンが目標ならいいんだろうけどな。」


 「それに臭いから余り長居したくないわ。」


 「ゴブリンは嫌。」

 「臭いのは嫌。」


 ゴブリンの臭さはある意味攻撃の一種だろう。


 「まぁそれには同意だ。依頼があるし、経験のためにもランク2の洞窟ダンジョンは攻略しきるけど、長居してレベル上げをする気はない。」


 「そうすると次の目標はランク3ダンジョンってことよね?どこか思いついたところはあるの?」


 「ああ、ノースアクアリムから東に向かった所にあるノースビーストリムだ。」


 ノースビーストリムはビーストリムの北にあって、ノースアクアリムと同じランク3ダンジョンを中心に作られた街である。

 アクアリムはフォレストリアの北西にあり、ビーストリムは北東に存在する。ちょうどその3都市で二等辺三角形を形作る位置関係だ。

 ノースビーストリムも宵闇の森の辺縁に近い位置にあり、環境としてはノースアクアリムに似ている。


 ノースビーストリムダンジョンは風属性のダンジョンで、出現するモンスターも草原ダンジョンであるノースアクアリムと似通った部分もある。


 「フォレストリアに無駄に近づかなくて済むし、俺が思いついたのもう一つの目的からも遠くなることはない。」


 カイトはここで、ここ数日で考えていたカトレアからの課題に対する答えの一つを仄めかす。


 「もう一つの目的?それは何?そんなのいつ出来たの?」


 「ん?」

 「ランク5のあと?」


 「後になるか先になるかはちょっと分からないけどな。思いついたのは最近だ。」


 「それで?どんな目的なの?」


 「まだ具体的な話は何も考えてないし、とりあえずの案でしかないがいいか?」


 「もちろんよ。可能か不可能かなんて聞かないと判断できないし。」


 「わくわく。」

 「どきどき。」


 「あー、マザーからの課題への答えのひとつなんだけどな。今後どうしていくか、ランク5ダンジョン踏破を成し遂げたらどうするのか、それが達成された後、もしくは達成される前に俺達の存在が明るみに出た場合どうやって身を守るのか。それの一つの答えだ。」


 「それで、その方法は?」


 「宵闇の森、その中にあるダンジョンを攻略して土地を得る。」

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