3-8 ガルドの依頼-バット討伐
ルナとレナの装備を整えた一行は、かなりの金欠に陥った。
これまでに稼いだほぼ全てを放出したのだ。
精霊石も痛かったが仕方ない。
ただ、驚くことに力が込められた精霊石は、魔石よりもかなり上等の素材となるらしく、1個100,000マナゴールドで買うとガルドに言われた。
まぁ力を込めるには精霊が一定期間住居にしないといけないらしいが。これは精霊からの情報だ。
そんなわけで一行は、金策に走ることになった。
幸いにもガルドから直接依頼を受けることができたので、こうして洞窟ダンジョンに来ている。
依頼されたのは『蝙蝠の牙☆☆20本』『蝙蝠の羽☆☆2個』『鉄鉱石☆☆』。鉄鉱石は出来るだけ多くと言われた。
蝙蝠の牙を落とすバットは8階層と9階層。
蝙蝠の羽を落とすジャイアントバットは10階層のボス。
鉄鉱石は洞窟ダンジョンの採掘でも手に入るが、素人には判断が難しい。その代わり13階層以降にいるゴブリンアーチャーと16階層以降にいるゴブリンファイターがドロップするようだ。
ちなみに☆はそのアイテムの品質を示している。鉱石だと成分含有量が違うのだろう。
ゴールドスライムから『金鉱石☆☆』、シルバースライムから『銀鉱石☆☆』をレアドロップとして入手している。ノーマルドロップは『魔石』だ。
魔石にはなぜか分からないが品質はない。
ドロップで今のところ、武器の素材として使えるものはないため、誰にも話さずパーソナルカード内の肥やしとなっている。
装飾品・希少品としての価値はあるがそれだけだからだ。入手経路などを聞かれても困る。
今回の依頼で得られるマナゴールドは蝙蝠の牙は1つ30マナゴールド、羽は200マナゴールド、鉄鉱石は1つで100マナゴールドとなっている。これは管理局に売却した時の倍額だ。
「よし、とりあえずバットについてのおさらいだ。」
バットが出るのは8階層と9階層である。前回の探索で大ナメクジが出る4階層と5階層は踏破している。6階層と7階層に出るスライムはスルーした。
バットの攻撃方法は噛みつきと体当たりのみ。
ただし特筆すべきはその回避力である。
基本的な武器攻撃は当たらない。【エコーロケーション】と言う超音波で物体の位置を把握しているからだ。
とは言えこの世界では超音波は認識されておらず、ただ単に回避力が高いと認識されているだけだが。
そして当たらないのは武器攻撃だけである。魔法攻撃は感知できないようで普通に当たる。【魔法士】さえいればそこまで苦戦はしないと言えるだろう。
「てなわけで基本的に全員魔法攻撃な。フェリアは【精霊弾】で。」
結論から言えば、バットは敵ではなかった。暗闇からの奇襲は多少厄介だが、索敵に関してはカイトの【ものまね:気配探知】、暗さに関しては双子が交互に【ライト】を使っているため問題はない。
カイトは【職業体験:冒険者】で、【ドロップ率アップ】と【ドロップ数アップ】を発動させている。
おかげで通常1割程度のドロップ率が倍の2割程度まで引き上げられている。数は倍だ。
そうして辿り着いたのは10階層。蝙蝠の牙は8階層と9階層を移動する間に十分集まっている。
レベルはカイトの【スキルマニア】のみ6になっている。
10階層のモンスターはボスである『ジャイアントバット』。バットをただ大きくしただけのモンスターだが、その攻撃力と耐久力はその比ではない。
「攻撃と回避の切り替えをうまくやろう。幸い暗くはないみたいだから【ライト】はいらない。自分が狙われていると感じたら回避に徹すること。いいか?」
「ええ。」
「ん。」
「承知。」
そして始まるジャイアントバットとの初戦闘。
フェリアの【精霊弾】と双子の【マジックボール】がジャイアントバットに襲い掛かる。ほぼ奇襲なだけあって全て命中したが、当然それだけでは倒せない。
バットであれば倒せたのだが。
ジャイアントバットは不規則な飛行で狙いを定める。狙いは攻撃力の一番高いフェリアだった。
「フェリア!」
「大丈夫!」
フェリアは万が一に備えて杖の【精霊撃】を準備したまま、回避体勢を取る。
フェリアは無事に回避し、体当たり後の方向転換をしようとしたジャイアントバットにカイトの【マジックボール】が迫る。だが、見事に避けられてしまった。
「速すぎて当てられない!フェリアは回避に専念!ルナとレナは待機して!俺がまずヘイトを稼いで【体当たり】を盾で防ぐ!」
そうしてカイトは【マジックボール】を連発し、ジャイアントバットの気を引く。
流石に煩わしくなったのか、その敵意をカイトに向けた。
「盾で弾き飛ばすからその隙を狙って攻撃!」
40cmほどの体長があるジャイアントバットを弾き飛ばすのは、なかなか骨が折れる作業ではある。
それでも何とか成功させた。
弾き飛ばされて体勢を崩れたジャイアントバットに魔法弾が殺到する。無事ダメージを与えられたようだ。
カイトはそこに肉薄し、さらに追撃を重ねる。
また高速で飛ばれても厄介だからだ。
それから何度か飛ばれたりはしたものの、カイトが防いで他が攻撃するというパターンが完成したため、そこからは特に危険なく討伐を完了した。
ドロップしたのは蝙蝠の羽☆☆4つ。通常であれば2つなのだろう。
「お疲れ様ー。」
「カイト、お疲れ。大丈夫?」
「ドカンってなってた。」
「大丈夫?」
3人はジャイアントバットを体当たりを防いだカイトを心配しているようだ。
「ちゃんと防いでたから問題ないよ。多分セカンドジョブで多少能力も上がってるし。」
「それは・・・反則じゃない?」
「ずるい。」
「卑怯。」
「フェリアの精霊の力も、ルナレナの2次職全スキル利用可能も十分反則だと思うけど?俺の場合はスキル変更に制限あるのに。」
今も【重戦士】の【挑発】に切り替えられたらもう少し楽だったはずだ。
「あー。」
「ん。」
「しーん。」
自分達のことを棚に上げていたと気づいた3人は誤魔化すように目を背けた。
「まぁいいか。無事ドロップしたし、次からは『ゴブリン』だな。」
「噂のゴブリンかぁ。」
「臭い。」
「汚い。」
「二人はゴブリンと戦ったことがあるのか?」
「んーん。」
「ない。けどみんな言ってた。」
「ああ、クランで聞いたのか。」
ゴブリンはランク2モンスターの代表格だ。
そこまで強くはないが、人を見ると殺意丸出しで向かってくる。
ただのゴブリンは武器を持たず、ただ飛び掛かって噛みついてくるのが基本行動らしい。
少し上位になると殴りかかってきたり、武器を使ってきたりすることもあるようだ。
ターゲットのゴブリンアーチャーは弓を使うからアーチャーなわけである。
何より大変なのはゴブリン特有の匂いらしい。そして数。
これまでバットを除いてノンアクティブしか相手にしてこなかったカイト達に取っては今までとは違ったものになるのは間違いない。バットは基本的に単独だったため特に問題はなかったが。
「匂いはまぁ慣れるしかない。アンデッドとかも臭いらしいし、攻略を続ける上では慣れるのは必須だろう。数に関しては、常に退路を確保して囲まれないように戦うくらいか?」
「ん。」
「槍。」
ルナとレナは槍を使うことを主張する。
「なるほど。俺が最前線でタンクを兼ねて回避しつつ攻撃、ルナとレナは少し開いてやや後方から槍。フェリアは中央から【精霊弾】ってのがいいか。」
「それでいいと思うわ。耐久力にもよるけど。」
「まぁそれはやってみないとな。俺のスキル構成はどうしようか。」
「やっぱり【挑発】は欲しいわよね。」
「ルナとレナがどれだけ受け持てるかにもよるけど、3匹超えたら欲しいところではあるな。【気配探知】もなくなるし。」
「ん。」
「少しなら分かる。」
ルナとレナはスキルに依らない気配探知を多少できるらしい。
これも【万能士】の力なのだろうか。【斥候】もそうだとは聞いているが。
「ゴブリンは騒々しいらしいし、アーチャーでもそこまで精度があるわけじゃないから姿を隠してるとかはないって言うしな。二人の練習も兼ねて索敵を任せるのもいいか。」
「まぁ今日は慣れない洞窟で疲労もしてるし、11階層入って終わりにしましょ?」
「それもそうだな。」
「ん。」
「お腹空いた。」
そうして4人での洞窟ダンジョン初探索を終了した。
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