3-6 【雑用士】の3次職

 無事、というほどの苦労もなくルナとレナは【雑用士】をマスターし転職準備状態を迎えた。

 とりあえず転職は帰宅してからということにして、帰途に着く。

 道中は二人が習得した【アイテムボックス】のおかげで身軽である。


 「カイトはすごい。」

 「なんで?」


 歩きながら二人がそんなことを言う。

 なんで、というのはなんでこんなことが出来るのかということだろう。


 「んー、俺も希少職になって必死だっただけだからなぁ。」


 「カイトは私の時もこんな感じだったのよ。」


 「ん。」

 「分かってない?」


 「そうなの。自分がどれだけのことをしてくれたのか理解してくれないのよ。『俺にはたまたま出来ただけだ』って。」


 「いや、実際そうだしな。」


 いつの間にかフェリアも二人の言いたいことが分かるようになってきたようだ。


 「今まで誰も成功したことのない希少職のレベル上げに成功してるのよ?しかも4人も。ルナ、レナ、二人はどういうことか分かる?」


 「危険。」

 「危ない。」


 「ええ、今はこの4人だけだから大丈夫だけど、広まってしまえば、私たちは殺されるか、攫われるか。」


 「なんでだ?協力して成長条件とか教えれば大丈夫じゃないか?」


 「マザーに言われて気付いてたじゃない。社会構造の変化って。」


 「あー・・・でも殺されるとか攫われるは想像してなかった。そこまでやるか?」


 「やるわよ。私もそれを聞いて考えたんだけど、今まで虐げられていた人たちが実は力を持つどころか、優秀だったなんて知ったら・・・。」


 「現在の支配者層には穏やかじゃない・・・か。」


 「ええ。私もカイトも、希少職って優秀だと思うのよね。万能性があるというか。そうなるとルナとレナも転職したら・・・。」


 「まぁそれは転職してみないと・・だけど、そうだな。ルナ、レナ、昨日は目標を聞いておいてなんだけど、二人には俺たちについて来てもらわないと行けないかもだ。」


 「二人が全てを隠して生きていくってならこのまま転職せずに過ごすのもいいかも知れないわね。」


 「んー。」

 「んー。」


 二人は顔を見合わせている。


 「大丈夫。」

 「一緒。」


 「それはどういう大丈夫だ?二人一緒なら転職しなくてもいいってことか?」


 「んーん。」

 「違う。」


 そう言うと二人は立ち止まり、振り返って頭を下げながら言った。


 「レナと一緒に連れて行ってください。」

 「二人には感謝しています。私達で力になれるなら連れて行って下さい。」


 いつもとは違う雰囲気だ。

 カイトと、特にフェリアは驚いた。


 「あ・・あぁ。二人がいいなら歓迎するよ。」


 「ええ。それにしてもびっくりしたわ。いつもと余りにも違うから。」


 「一応普通にもできる。」

 「でもこうしないと周りが。」


 何やら理由があるようだ。


 「私達はこうしないと生きていけなかった。」

 「周りがバラバラにしようとするから。」


 「あー、なるほど。それでクランでもそうしてたんだな?」


 双子はお互いに依存しているのだろう。

 そうしないと耐えられなかったから。

 二人で一人前と言われようと、そのせいで二人で怒られようと、お互いを助けるのはお互いだけだったから。


 「これからは大丈夫よ。二人を離れさせたりはしないから。」


 「ああ。二人で一人前じゃなく、二人なら百人力と言われるようになってやろうぜ。」


 連携の取れる仲間は強いはずだ。

 双子ならそこに苦労はないだろう。


 「とりあえず今は【雑用士】の3次職に期待するとしますか!」


ー▼ー▼ー▼ー


 その願いが通じたのか【雑用士】の3次職はとんでもないものだった。

 名前は【万能士】。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【万能士】

特殊【雑用士】系統3次職

転職条件

 【雑用士】をマスターする

成長条件

 特になし

レベル上限:50

習得スキル

 【器用貧乏】(1)

 【バリエーション】(20)

 【ルーチンワーク】(40)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 レベル1のスキル【器用貧乏】は名前はひどいものだったが、その効果は凄まじかった。

 それは『基本2次職以下のスキルを全て使用できる』というものだったからだ。

 まさしく万能。


 【バリエーション】と【ルーチンワーク】はまだ分からないが、手数が増えたのはありがたいことだ。

 特に普段から生活魔法が使えるのは非常に大きい。


 デメリットとしては、恐らく【器用貧乏】の名前の通り、やや効果が落ちるようだ。

 【ライト】の光がカイトよりも弱かったり、【ウォーター】で出せる水の量が少なかったりしたからだ。2割減と言ったところか。

 そしてその2割減は【雑用士】の【アイテムボックス】を使用した際確定した。

 通常100枠のところが80枠となっていたからだ。


 「なんというか、とんでもないな。」


 「ちょっと予想を通り越したわね。」


 「楽しい。」

 「嬉しい。」


 双子は様々なスキルを使ってみて楽しんでいる。


 「あんまり調子に乗ると魔力切れになるぞ。」


 「ちょっと遅い。」

 「疲れた。」


 言うのが遅かったようだ。

 さすがにレベル1であるし、魔力は多くないようだ。


 「しかしこうなると・・・、フェリアの言ったことも現実味が帯びてくるなぁ。」


 フェリアの言ったこととは、権力者に狙われるということだ。


 「帯びてくるどころの話じゃないわよ。」


 「・・・やっぱり?」


 「ええ、ランク5ダンジョン攻略の前に色々準備しないと不味そうね。」


 「でもランク4すら攻略できてないんなら、そこまで強くなれれば大丈夫なんじゃ?」


 「まぁそれはそうかも知れないけど。孤児院の人たちを人質にされたりとかしたら見捨てられるの?」


 「あーそういうこともありえるのか。」


 「権力者を甘く見たらだめよ。私だって殺されるところだったんだし。」


 「よしよし。」

 「なでなで。」


 よく考えたらこの中で一番年上なのはルナだったりする。

 ほんのわずかではあるが。


 「ルナ、レナありがとう。もう大丈夫よ。カイトに助けられてから気にしてないから。」


 「んー、どちらにせよ今出来ることは強くなることだけじゃないか?もちろん実力を隠しながらになるけど。」


 「・・・まぁ、そうね。本格的に考えるのはランク3ダンジョンを攻略して、この街を出ることになる時かしら。」


 「そうだな・・・。マザーからも課題として出されてたけど、改めてしっかり考えないとな。ルナとレナも考えおいてくれよ?」


 「ん。」

 「分かった。」


ー▼ー▼ー▼ー


 そして次の日、4人の姿は再びスライムダンジョン最奥にあった。


 やるべきことはレベル上げ。なのだが、その合間に連携やら、周りに人がいたときにどう誤魔化すか、ルナとレナの主武装をどうするかの確認が必要だったのだ。


 ルナとレナは【見習い戦士】だったことを管理局に知られているし、【雑用士】であることも知られている。そうなると、【身体強化】以外を使えるのはあまりいいことではない。


 「というか、この状況なら洞窟ダンジョンを攻略したら別の街に行った方がいいんじゃないか?」


 ランク3ダンジョンのノースアクアリムダンジョンは街の中心にあるだけあって人が多い。

 中も相応に広いが、誰にも会わないというのは難しい。


 「そうね・・・。まぁいつまでも孤児院のお世話になるわけにも行かないし、それも選択肢に入れるべきかも。」


 「だよなぁ。そうなるとルナレナのスキルを隠す必要はないから2次職のどれかに見せかければいいか。」


 「それが無難でしょうね。」


 年齢的にも3次職というのは隠したいところである。


 「全員2次職を装おうとしたら、俺が【戦士】、他の3人が【魔法士】か?」


 「バランス悪いし、ルナが【斥候】、レナが【魔法士】で、たまに入れ替えて貰えばいいんじゃない?」


 確かにルナとレナを同じ役割に固定する必要はなかった。


 「ルナとレナはそれでいいか?」


 「問題ない。」

 「大丈夫。」


 双子の二人としては一緒に居られるのであれば役割が違うことに問題はない。

 同じことが出来るのであればより良いのだが。

 そんなわけで、お互いが別の道で特化するわけではないのに、幅を広げられるフェリアの提案は渡りに船だった。


 「よし、じゃあもう少しだけここでレベルを上げて、洞窟ダンジョンに向かおう!」

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