2-6 試行錯誤

 フェリアは絶賛不機嫌であった。

 精霊の力を借りることが全くと言っていいほど出来ないのだ。


 「もう!!本当に出来るの?!」


 「出来なきゃ条件にならないと思うよ。」


 「だってうんともすんとも言わないじゃない!!」


 「うーん、何かやり方はあるはずなんだけどなぁ。俺の【フルスイング】擬きも悲惨なものだったはずだし。判定は緩いはず。」


 「だーかーらー、そのやり方ってのは何なのよ!」


 塞ぎ込まれるよりはよっぽどマシではあるが、ここまで不機嫌なのも困るカイトであった。


 「そうだなぁ。一度落ち着いて考え直してみよう。フェリア、精霊の声を聞いた時の状況を詳しく思い出してくれる?」


 「はぁっ・・・。そうね・・・。置き去りにされて怖くて・・・、泣いていたわ。なんで、どうしてって。希少職だからってこんなことまでされなきゃならないのって。」


 突然馬車に押し込まれ、森に置き去りにされたのだ。受け入れられなくても当然だろう。


 「基本職を得られなければそうなるって分かってたけど・・・。やっぱり現実になると怖くて。」


 聞き捨てならないセリフまで飛び出した。


 「ちょっと待って。基本職を得られなければそうなるって分かってたってどういうこと?」


 「あーそうね。私の家系は度々【感応士】っていう希少職が出現するの。昔はちゃんと16歳まで保護していたみたいだけど、【感応士】は時々問題を起こすらしくて・・・。私みたいな鮮やかな緑色の髪をした人間が【感応士】になることが多いみたい。だから小さい頃から脅されて・・・。基本職になるための訓練は他の子よりも熱心にさせられたわ。」


 情報量が多い。

 【感応士】の転職条件にあった『素質を持つこと』というのは、鮮やかな緑色の髪なのだろう。

 素質があるからこそ希少職になる。

 そしてそれはフェリアの家系で遺伝している。


 それに今の様子を見るに、フェリアに精霊と契約している様子はない。

 つまりフェリアは『精霊と契約する』を満たしているわけではない。

 転職条件にあった『①、②』というのは条件2つのうちどちらかということでいいだろう。


 あとは、フェリアの言葉の中にあった『【感応士】が時々問題を起こす』。これは精霊が関係しているのではないだろうか。


 カイトはそう考えたものの、とりあえずフェリアに尋ねる。


 「それで森の中では、なんで、どうしてって泣いていただけ?」


 「あ、そうね。あとは『誰か助けて』とか『ここはどこ』とか・・・。」


 「んー、『助けて』ってのを精霊が聴いてくれたから道を教えてくれた・・・とか?」


 「あ・・・。そう・・・なのかも。私の言葉を聴いてくれた?」


 「うん、そう考える方が自然じゃないかな。条件も『精霊と協力して』だから。」


 「私が精霊の力を引き出すんじゃなくて、お願いして助けてもらうってこと?」


 「フェリアは精霊じゃないんだし、自分にない力は引き出せないんじゃない?なら外から持ってくるってことじゃないかと。」


 「なっ!分かってたなら早く言ってよ!!」


 「いやいや、フェリアが精霊の力を自分の中から引き出そうとしてたなんて知るわけないじゃん!!」


 嘘である。

 フェリアが「我が身に宿る精霊よ、その力を顕し給え」とか、「精霊の力をもって魔を払え!」とか言っていたのをばっちりと聞いている。

 聞こえないフリはしていたが。


 「そ、それは・・・。でももっと早くにアドバイスしてくれても良かったじゃない!」


 「だって俺は精霊の声は聞こえないし。それにそもそも『協力して』なんだから何か考えがあってやってるかと。」


 「むー、分かったわよ!それでカイト、他に思いついたこととかないの?」


 「んーそうだなぁ。あとは・・・精霊は属性を司っているって話だから、何属性の精霊に協力してもらうかとかも大事なんじゃないかな?」


 「なるほど・・・。それでなんてお願いすれば良いの?」


 「そんなの俺に分かるわけないじゃん!・・・でも、まずは精霊とお話しすることからじゃないかな。知らない人に協力したいとは思わないでしょ。」


 「お話・・・。そうね。確かに仲良くない人に協力しようなんて思わないわよね。」


 「そう思うよ。森では、泣いていたフェリアが可哀想だと思って協力してくれたかも知れないけど。」


 「なっ!カイトってデリカシーってものがないのね!」


 「あーごめん。ほら、俺ってずっとソロだったからさ・・・。」


 「あ、ご、ごめんなさい。と、とりあえず精霊さんを探してお話ししてみることから始めることにするわ!」


 実はカイトはフェリアを揶揄っていたりする。

 デリカシーがないわけでなく、敢えてそういう発言をしたり、自虐的な発言で慌てさせたりしているのだ。

 コロコロ変わる表情が面白いのもあるが、森に置き去りにされたショックを引き摺らないようにしているのである。


 「精霊ってどこにいるか分かるの?」


 「いえ、今は分からないわ。まずは探すところからなんだけど・・・。何かいい方法はないかしら・・・。」


 「うーん、分かんないけど、『精霊さん、遊びましょ♪遊びたい子はこの指止まれ♪』とかやってみたら?」


 そんなことを言いながらカイトは指を立てる。

 カイトがこんなことを言うのは前世の知識で、精霊や妖精は悪戯好きの子供の姿をしていることが多いからだ。

 カイトの前世のイメージと共通したことが数多くあるこの世界では、こういうことも効果があるのではと考えたのだった。


 「カイトっ!巫山戯てるの?!そんなことしたっ・・・て・・・。あの、カイト?その指先に何か集まってきてるんだけど?」


 「え?まじ?俺には何も分からないんだけど。」


 「何か楽しそうな雰囲気が伝わってくるわ。精霊さんなのかしら?」


 まさかの大成功である。

 もしかしてと思ってはいたし、フェリアがやったら可愛いだろうなと思って提案したのだが、カイトの掛け声でも集まってくるとは思ってもいなかった。


 「フェリアには精霊が見えてるの?」


 「見えてはいないわ。ただなんとなくそこにいるのが分かると言うか、雰囲気があると言うか・・・。」


 「まぁ集まってきてくれたなら会話を楽しむといい。俺は分からないからフェリアに任せるけど。」


 「わ、分かったわ。・・・精霊さん、私とお話してくれない?」


 フェリアは恥ずかしそうにそう言って、精霊との会話を試みるようだった。


ー▼ー▼ー▼ー


 フェリアが精霊と会話を始めてから30分ほど。

 フェリアの独り言が、実際は会話しているのだろうが、ぼそぼそと聞こえてくる。

 極力聞かないようにしながら、時々隣の部屋に行ってベビースライムを狩っている。

 カイトにとっては焼け石に水だし、フェリアは精霊と協力しないと経験値を取得できない。ただの暇つぶしである。


 ちなみに現在カイトとフェリアはパーティを組んでいる。

 パーティを組むにはお互いのパーソナルカードを重ね合わせて、『パーティを組む』と念じるだけだ。

 パーティを組めば、戦闘においてはその貢献度に応じて経験値が分配されるし、マナゴールドは等分される。

 1マナゴールドしか得られないベビースライムのマナゴールドは割れないため止めを刺したものに与えられるが。

 そんな事情があるため、パーティの人数に応じて人気の狩場が決まっている。

 経験値に関してはどれくらい貰えるか分からないが、マナゴールドははっきりしているからだ。

 人数で割り切れるマナゴールドを落とすモンスターが好まれている。

 経験値の『貢献度に応じて』と言うのはかなり厳密に判断されているらしく、後方支援はちゃんと評価されるし、サボっていると明らかに成長が遅れるらしい。


 そうこうしているうちにフェリアと精霊の会話は終わったようだ。


 「しっかり話せた?」


 「ええ、要領を得ない発言が多くて大変だったけど何とかなったわ。」


 「協力はしてくれそう?」


 「ばっちりよ。ここにいる子達は無属性の精霊なんですって。それに小さい子達ばかりだから、強力な攻撃はできないみたいよ。」


 「まぁランク1ダンジョンだしそんなもんじゃないかな。」


 「それでもさっき遊びで魔法の玉を飛ばしてくれたわ!」


 嬉しそうにフェリアが言う。


 「それならベビースライムも倒せそうだね。準備ができたらやってみる?」


 「もちろんよ!やっと成長が出来るんだから楽しみだわ!」


 そうして試行錯誤の末、フェリアは精霊の協力を取り付けたのだった。

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