2-5 フェリアの処遇

 カイトとフェリアは孤児院の院長室でカトレアと話していた。


 「なるほど、そんなことが・・・。」


 「はい、孤児院に世話になってる身で申し訳ないですが、放っておけなかったので・・・。」


 「当然です。森に置き去りにするなんて到底許されることではありません。フェリアさん、もし良ければしばらくこの孤児院を拠点にして、カイトと行動を共にしてみては?」


 カトレアが驚くべき提案をするのだった。


 「マザー?!いいんですか?」


 「えっと・・・、よろしいのですか?」


 「カイトが孤児院を出なければいけない期限まではあと数ヶ月あります。この子も事情があってソロで活動してますし。最近はそれなりに稼げているようですが、少なくともコミュニケーションが取れる同世代が側に居てくれるのは私としても安心なんです。フェリアさんがその間に出来ること、やりたいことを見つけてくれれば幸いですし、カイトならその手助けが出来るはず。ですね?カイト?」


 カトレアは【職業情報】のことを言っているのだろう。

 カイトは現状唯一希少職を成長させた存在だ。

 フェリアを手助けできるのはカイトだけと言っても過言ではないだろう。


 「えーっと、分かりました。けどいいんですか?」


 「貴方もずっと一人でってわけには行かないでしょう?フェリアさんなら問題ないわ。」


 カトレアは【交渉人】のジョブに就いている。【鑑定士】ほどではないが、物事の本質を見抜く力はあるのだ。特に人に対しては。


 「マザーが言うなら・・・分かりました。」


 「とりあえずフェリアさんの部屋をカイトの部屋の近くに用意します。幸い今は空き部屋に余裕があるので問題ないでしょう。色々出来るようになったら、手伝ってくださいね?」


 「はい!ありがとうございます!捨てられた私を義務もないのに助けてくれるなんて・・・何が出来るかも分からないのに・・・感謝してもしきれません。」


 「確かに義務はありませんが、少なくとも使命感はあります。16歳までは保護されるべきですから。フェリアさんは細かいことは気にせず、自分に出来ることを探して行ってくださいね。」


 この孤児院は大きく、今は孤児もそこまで多くないため、余裕があるのは事実である。ノースアクアリムからの援助もあるし、働いている大人たちは自らもある程度稼ぐことが出来るからだ。


 「本当にありがとうございます。」


 「俺からも、ありがとうございます。お世話になってる身なのにわがまま言ってばかりで・・・。」


 「あら、カイトにわがままを言われた覚えはありませんよ?いつも一生懸命で、大人びてて、今の状況になっても腐らず頑張ってますから。」


 「マ、マザー、そういうのはいいですから!」


 大人びているのは転生者であるから当然である。まぁある程度はうまく隠せていると言えるが。

 とは言え、褒められるのは照れるのである。


 「あら、私としてはカイトがフェリアさんに手を差し伸べたことを本当に誇りに思ってるんですよ?さて、それではフェリアさんの部屋を準備してきますね。」


 「あ、俺も手伝います。フェリアはここで待っててくれる?」


 「ここで・・・?大丈夫ですか?」


 「ええ、ゆっくりしていて下さいね。」


 そうしてカイトとカトレアは院長室を離れた。


ー▼ー▼ー▼ー


 「マザー、俺の事情全部話しちゃっていいんですよね?」


 「ええ、少しでも救われる子が増えるのは望ましいことですから。見たところ信用できる子ですし。」


 「分かりました。ちょっといきなり全部説明する自信はないし、心の準備もしたいので、ここで【職業情報】使ってもいいですか?」


 「もちろんです。」


 許可が出たので【職業情報】に【感応士】を指定してみる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【感応士】

特殊【感応士】系統1次職

転職条件

 素質を有する

成長条件

 精霊と協力してモンスターを討伐する

レベル上限:20

習得スキル

 【感応】(1)

 【エレメンタルリンク】(10)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「精霊・・・。マザー、精霊ってなんだか分かりますか?」


 「やはり精霊ですか・・・。そうですね、この世の属性を司っている常世のものではない存在、と言われています。」


 やはり、と言う言葉が気になるが、精霊はもっと気になる。

 とは言え、カイトの想像する精霊とほぼ同一で良さそうではあるが。


 「【感応士】の成長条件が『精霊と協力してモンスターを討伐する』なんですが、これは可能なんですか?」


 「そうですね・・・私は精霊を見たことがありませんし何とも言えませんが、カイトと同じく色々とやってみるしかないのではありませんか?」


 確かにそうである。

 少なくとも【遊び人】が成長出来たのだ。【感応士】も出来ないことはないだろう。


 「そう・・・ですね。分かりました。」


 「では、準備もできましたし、フェリアさんを呼んで来ましょうか。」


 「あ、はい。行ってきます!」


ー▼ー▼ー▼ー


 フェリアを連れて部屋に戻ってきたカイト。

 ここはカイトの部屋の近くどころか、隣であった。


 「本当にこんな部屋をお借りしてもいいんですか?」


 「もちろんですよ。宿では不安ですしね。ここなら安全ですし、お金もかかりません。」


 「突然転がり込んだ身としては恐縮しきりなんですが・・・。」


 「貴女には今は心身ともに休む時間が必要です。そんなことは気にせず、まずはゆっくり休んでくださいね。」


 「そうですね・・・。分かりました。お言葉に甘えさせていただきます。」


 「食事が済んだら今日はお休みなさい。カイトもね。」


 「はい、そうします。」

 「分かりました。ありがとうございます。」


 「フェリアさん、ここを貴女の家だと思って寛いでね。」


 「はい、何から何までありがとうございます・・・。」


 フェリアは今にも泣きそうだった。

 安心して良いと実感したのだろう。


 「あー、フェリア?休めとは言われたけど、少しだけ今後の話がしたいんだ。食事が終わったら俺の部屋に来てもらっていいかな?いいですよね?マザー?」


 「あんまり遅くならないようにね。フェリアさんも環境の変化に戸惑っているでしょうから。」


 「もちろんです。いいよね?フェリア?」


 「うん、分かったわ。」


 「それじゃ食堂に移動してご飯にしましょうか。」


 そうして3人は連れ立って食堂に向かった。


ー▼ー▼ー▼ー


 食事後、カイトとフェリアはカイトの部屋にいた。

 

 (改めて考えるとこんな美少女と二人きりになるなんて緊張するな・・・。)


 「カイト、改めてありがとう。こんな私に手を差し伸べてくれて。」


 「あーいや、気にしないで。俺も思うことがあったし。これからする話と関係があるんだけどさ。」


 「そうなの?どんな話?」


 「あーうん、実は・・・。」


 「実は?何?」


 「俺もその・・・、希少職なんだよ。だから放っておけなかったというか。」


 「えっ?カイトが希少職?!」


 「うん、そうなんだ。だから今はソロだし、15歳になっても孤児院に残ってるんだよ。」


 「そうだったの・・・。え?でも貴方ダンジョンから出てきたのよね?ソロって一人で活動する人のことよね?」


 「あー、順番に話していくよ・・・。」


 そうしてカイトはこの半年余りでしてきたことを一つ一つ説明していくのだった。


ー▼ー▼ー▼ー


 「特殊【遊び人】系統2次職【フリーター】・・・【職業情報】・・・精霊・・・だからあの時・・・。」


 フェリアは衝撃的な内容を飲み込むのに時間がかかっているようだった。

 その中でカイトにとって気になる発言が。


 「あの時?」


 「ええ、実はね、森で置き去りにされて・・・。その場でへたり込んで泣いていたら何か声が聞こえたような気がしたの。優しい声が。それでその声についていったら森を抜けられて・・・辿り着いたのがあのダンジョンだったの。」


 「なるほど。その声が精霊のものだったかも知れない・・・?」


 「優しい声だったし、そうなのかもって。はっきりとした言葉じゃなかったけど。」


 「もしそうなら【感応士】の成長条件を満たせるかも知れないな。今は精霊の声は聞こえるのか?」


 「今は聞こえないわ。森を出てしばらくしたら聞こえなくなったの。それで途方に暮れて・・・あそこにいたってわけ。」


 「なるほど・・・。フェリアはまず精霊の声を安定して聴くところから始めないとかな?とりあえず話すことは話したし、明日はダンジョンに行って色々試してみよう。」


 「カイトはいいの?貴方の邪魔になるんじゃない?」


 「気にしなくて良いよ。フェリアを一人で戦わせるわけには行かないし、俺もいつまでもソロってわけには行かないからな。だからフェリア、戦えるようになったら一緒にダンジョン攻略してくれよ?」


 「もちろんよ!ダンジョンの前にいたときは絶望しかなかったのに、今は希望が見えるんだもの。それを齎してくれたカイトに協力しない理由はないわ!」


 「そっか。あそこで声かけて良かったよ。じゃあフェリア、明日からよろしくな。」


 「ええ、しばらく迷惑をかけるけど、力になれるように頑張るわ!」


 「無理はしないようにな。」


 「ええ、もちろん。それじゃあ休むわね。おやすみなさい。」


 フェリアはそう言って部屋を出て行った。


 「まさかこんな展開になるとはなぁ。」


 カイトは困惑しながらも、明日からの日々に思いを馳せて眠りについた。

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