2-7 精霊の協力、そして【エレメンタルリンク】

 「お願い!」


 フェリアの側から小さな魔法の玉が飛び出す。

 それは見事に『ファイアベビースライム』を打ち抜いた。


 『倒す』ことが条件であるため、カイトがある程度ダメージを与えて、止めをフェリア、というかその側にいる精霊に任せている。


 そのおかげでフェリアのレベルは順調に上がっている。

 カイトにも僅かではあるが経験値が分配されているようだ。


 「それにしても止めだけ刺せばいいなんて、カイトの発想は凄いわね。」


 「そうか?【職業情報】にそう書いてあるじゃん。」


 「普通、『倒す』ってなったら最初から最後までだと思うわよ。」


 「うーん、そんなもんかなぁ。」


 サボると経験値が分配されないのだから、止めだけを刺すのは楽をしているように感じるのだろう。

 カイトにとっては効率よく経験値を稼ぐための手段なので、躊躇う必要はない。

 おそらくこの世界のシステムも認めているだろう。

 

 「なんか申し訳なくなってくるわ。」


 「気にしなくていいよ。パーティなんだし役割分担だろ?」


 「だってカイトなら一人でも楽勝じゃない。」


 「これから一緒に戦っていく予定なんだから、俺のためでもあるんだよ。だから気にしちゃダメ。」


 「むー、そう言われると・・・。分かったわ。早く強くなってカイトを助けるんだから!」


 フェリアの初討伐から4日目。

 パーティを組んでいる分、カイトの【遊び人】のレベル上げよりも戦闘回数は多いが、ダメージコントロールを上手くこなしているため、現在は9階層でフェリアのレベル上げを行っている。

 まもなくレベル10に到達する予定だ。


 【感応士】レベル10になれば【エレメンタルリンク】というスキルを習得する。

 どんなスキルかは分からないが、【遊び人】の【ものまね】と同様に、成長条件を満たしやすくなるようなものではないかと考えている。

 名称からすれば、精霊と繋がって何かをする、もしくは出来るようになることだと思うが。


 ちなみにカイトにとってフェリアとのパーティはすでに実りあるものとなっている。

 フェリアが討伐したモンスターは恐らく経験値5倍化されてから分配されているようなのだ。

 そのおかげか、カイトのレベルは16になっていた。

 レベル15から16はフェリアの手伝いをしながらにしては非常に早かった。ソロで黙々と狩るのと同じか、もしくは早いまである。


 そうこうしているとフェリアの喜びの声が聞こえてきた。


 「やったわ!」


 「おー、【エレメンタルリンク】覚えた?」


 「ええ、どんなスキルか楽しみだわ!」


 本当に嬉しそうである。

 この数日、レベルが上がるようになったフィリアは、会った当初の悲しい顔を見せることは無くなった。

 未来に期待が持てているのだろう。

 【エレメンタルリンク】がさらにそれを手助けしてくれればいいのだが、とカイトは思う。


 「とりあえず【エレメンタルリンク】を使おうと意識してみるといいよ。難しいようなら言葉に出すと確実かな。」


 「じゃあ行くわね・・・。」


 フィリアは【エレメンタルリンク】を使うために集中し始めたようだ。


ー▼ー▼ー▼ー


 「【エレメンタルリンク】は特定の精霊と意識を繋いで意思疎通をしやすくするスキルみたい。」


 「今まで以上に戦えそう?」


 「リンクを繋ぎたい精霊がいっぱいいすぎて・・・ちょっと待ってね。」


 複数の精霊とリンクを繋ぐことは出来ないようだ。

 成長すれば出来るようになるかも知れないが。


 「順番に繋いでいきましょう・・・。ええ、えーっと、・・・え?一緒?・・・ちょ、ちょっと。」


 何やら予想外のことが起きているようだ。

 というかそもそもどんな会話をしているんだろうか。


 「フィリア?」


 「だ、大丈夫よ。ちょっと予想外なだけ。」


 「というかそもそもどんな会話してるんだ?」


 「会話というか・・・単語をイメージとしてぶつけられているだけというか。こちらの言葉は大体分かるみたいだけど、話すことは自由奔放で、さらに単語だけだからちょっと大変なの。」


 確かに精霊というとそんなイメージもなくはない。


 「それで、予想外のことって?」


 「えーと、一緒、いっぱい、一つ、集まる、同時、って感じで順番に繋ぐというより同時に繋いで欲しいみたいなの。」


 複数同時のリンクも可能だったようだ。


 「んー、同化でもするんかな?」


 「同化?え・・・あ、そうみたい。カイトはなんで分かるの?」


 カイトにしてみれば精霊が集まって大きくなるのは分からなくもない。

 どんな物語がこの考えの元になっているかは分からないが。


 「それはなんとなくとしか・・・。同化出来るなら、同化すれば強くなるだろうし、精霊たちが望んでるならいいんじゃない?」


 「いいのかしら・・・。あ、そうなの?それじゃあやってみるわね。」


 フェリアが再度集中し始める。


 「すごい・・・大きくなってる。私の魔力じゃ今はこれでいっぱい?そう。それじゃあ他の子達は別の集まりになる?うん、分かったわ。」


 フェリアの魔力に応じて同化できる数が決まっているようだった。


 最終的にそこに集まっていた精霊たちはいくつかのグループに分かれ、それぞれが同化して大きくなったようだった。


 自我とかはどうなっているんだろうか。


 「カイト、お待たせ。」


 「いや大丈夫だよ。どうなったの?」


 「まずここには30人?くらいの精霊が集まってたんだけど、私の魔力じゃ10人を同化させるのが精一杯みたい。だから3人になってもらったわ。」


 「その3人?とはリンクが繋げられるの?それに10人繋いで魔力使ったのにすぐ使えたの?」


 「3人同時のリンクは難しいから、リンクが繋がってる子が優先して手伝ってくれることになったわ。力を使うと疲れるみたいだから、交代しながらの方が都合がいいみたい。魔力に関しては、魔力を使うというよりも魔力の器が大事なんだって。」


 つまり最大魔力量が同時接続数であるということか。

 さらに言えば精霊の力や大きさによって必要最大魔力量も違うということだろう。


 「すごく気になるんだけど、同化したって、同化された方の自我ってどうなるの?」


 「要領を得なくて分かりにくかったんだけど、そもそも自我ってものが薄いみたい。強くなると嬉しいってのがあるみたいで、同化はしたいものだそうよ。」


 「なるほど。【感応士】だと同化させられるから協力する、協力すると【感応士】が強くなる。精霊と共に強くなるのが【感応士】系統ってことかな。」


 「そうだと嬉しいかな。もっともっと精霊たちと仲良くなって、もっともっと強くなりたいわ。」


 「じゃあ、今日はあまり時間ないけど、フェリアと精霊たちの試運転と行きますか!」


 「もちろん!この子達もわくわくしてるし、張り切ってくれると思うわ!」


ー▼ー▼ー▼ー


 そこからのフェリアは圧巻だった。

 攻撃力も上昇し、何回かに一度狙いを外していた攻撃も、外すことはなくなった。

 【エレメンタルリンク】によって、意思伝達が上手くいくようになった成果らしい。


 それにフェリアの【エレメンタルリンク】は最大魔力量が必要なものの消費魔力はない。つまり攻撃し続けられるのだ。

 もちろん精霊たちは疲れるようで、交代しながら戦っていたが。

 疲れるのも楽しいらしく不満はないようだ。


 さすがに9階層のモンスターを一撃で倒すほどの威力はないが、カイトが攻撃する必要回数は5回から2回に減った。

 当然殲滅力が上がり、そこから僅か30分でフェリアのレベルは16と急上昇するのだった。


ー▼ー▼ー▼ー

 

 さぁ帰ろうかという時に1つ問題が発生する。

 フェリアに協力していた精霊たちがこのダンジョンから離れられないというのだ。


 「カイト、どうしたらいいと思う?」


 「いや俺に聞かれても・・・。精霊たちにどうしたらいいか聞いてみるのは?」


 「もちろん聞いてるんだけどよく分からないの。『フェリア』『名前』『契約』『強く』

『もっと』『カイト』『今はだめ』『もっと』『強くなる』『楽しい』。こんなイメージばっかり。」


 『もっと』が2回あるが、それだけ多く言われているのだろう。


 「うーん、ダンジョンの外に出るのは『今はだめ』で、出るために『契約』が必要。で、『契約』するためには『フェリア』か『カイト』が『もっと』『強くなる』必要がある?」


 「っ!精霊たちが『そう』『でも』『もっと』『名前』『まだだめ』『成長』、だって。大雑把には合ってるみたい。喜んでるのが伝わってくるわ。」


 「『契約』には『名前』が必要だけど『まだだめ』ってことかな。フェリアの【感応士】の2次職にあるかも知れないな。とりあえず、また来た時に会えるか確認だけして、問題ないようなら帰ろうか。」


 「それは大丈夫みたい。『また遊ぼう』『呼んで』『呼んで』だって。カイトの声は聞こえてるからね。」


 「ああ、そうだったか。じゃあ精霊たちまたな。フェリアが強くなるのを楽しみにしてろ。」


 「また明日来るわね!待っててね!」


 無事問題を解決?したカイトたちは孤児院へと帰っていった。

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