2-3 上がらないレベル
カイトはただひたすらダンジョンに潜っていた。
ベビースライムは卒業したが、『色付きベビースライム』というランク1のモンスターをひたすら狩っている。
『色』というのは『レッド』『ブルー』『グリーン』『イエロー』の4種で、基本4属性と言われる属性のうち、それぞれ火属性・水属性・風属性・土属性のようだ。
だからと言って特に何かあるわけでもない。所詮はベビースライムである。
それでもノーマルなベビースライムが1匹につき1マナゴールドであるのに対して、色付きは1匹につき2マナゴールド取得することができる。効率2倍である。
まぁ焼け石に水であるのだが。
カイトの現在のレベルは6。
【遊び人】の時にあった経験値5倍は失われたようだ。
実際にパーソナルカードのスキル欄にある【モラトリアム】はグレーアウトしている。
【モラトリアム】に経験値5倍効果があったのは間違いないだろう。
おかげでレベルがさっぱり上がらない。
【職業情報】を使用して上げた分がほとんどだった。
レベルが上がらないと強いモンスターを倒して稼ぐことも出来ない。
悪循環である。
「パーティでも組めればもうちょっと効率良く稼げるはずなのにー!!」
カイトはイライラしながら色付きベビースライムを狩っていく。
【身体強化】を【ものまね】し、転職前より能力は落ちているものの、効率よく戦う術は健在だ。
色付きベビースライムもドロップはスライムゼリーで、その量も変わらない。
スライムダンジョンの3階層であるため、モンスターの数も多く、ベビースライムよりも経験値もマナゴールドも多いため、危険なく戦えるこの階層を選んでいる。
ちなみに2階層はベビースライムのままで、1部屋にいる数が変わるだけのようだった。
【遊び人】の時もこれば良かったと後悔したものの、一日1レベル上がっていた状態ではあまり変わらなかっただろうとその考えを振り払った。
3階層と4階層に出現する色付きベビースライムは一部屋に3〜4匹いるし、相変わらずノンアクティブなため、そこそこ効率良く戦うことが出来る。
それでも5倍補正のあった【遊び人】とは比べるべくもないのだが。
「こんなんじゃダレるよなぁ。危険はないけどレベルは上がらない、お金はたまらない・・・。」
現状1日で200マナゴールド程度稼ぐことはできている。新人ソロとしては破格である。
パーティであればランク2ダンジョンの10〜19層で戦うのが基本である。大体1匹で10〜20マナゴールド獲得できるのだ。何よりドロップにも期待できる。
洞窟ダンジョンの15階層から出現する『レッサーマイコニド』からは『生命茸』や『魔力茸』が獲得できる。それぞれ生命力を回復するバイタルポーションや魔力を回復するマジックポーションの材料になる。魔力茸はレアドロップであるので、生命茸は300マナゴールド、魔力茸は1000マナゴールドで売ることが出来る。
「と言っても管理局に登録できない俺は、ドロップを売って稼ぐことも出来ないんだよなぁ・・・。」
直接販売するにもカイトにはその伝手はない。
孤児院の大人たちにしてもそうだろう。
【料理人】のフレッドであれば利用できなくはないが、料理に使うにはそもそも値が張りすぎる。【料理人】であればポーション類も作れなくはないのだが。
「あれ、ちょっと待てよ?」
カイトが何か思い付いたようだ。
「【ものまね】で色んなスキルを真似れば、ポーション作ったり出来るんじゃないか?」
出来なくはないだろう。1時間に1回の制限を気にしなければ。
それに仮に作れたとしても売るところはない。
「だめか・・・。自分で使う分を作って節約するのはありだけど、そもそも今は使うところもないし。」
だめだめな考えは投げ捨てておいて、現実的に考える。
実際一日200マナゴールド稼げるのであれば、1日100マナゴールド程度の最低限より一歩上の生活は維持できる。残りの100マナゴールドを5日間貯めれば、5日ごとに【職業情報】を使えるはずだ。
存在しない、もしくは開示されないジョブの情報でも500マナゴールド使用するのは痛いが経験値にはなる。
それに多用するのは今だけだろう。ある程度の情報を得たらあとは気になるジョブが出てきた時に使うくらいのはずだ。
「まずは外れてもいいから5日1回、思いつく限りのジョブを指定してみよう。中級職とか上級職は【基本系統】だろうし、後回しでいいや。」
【見習い戦士】や【見習い職人】には『基本1次職』という表示があった。特殊【遊び人】系統であるカイトには関係ないはずだ。
「それに【遊び人】の転職条件に『転職50回以上』とあったからには転職する方法もあるはずだし、【フリーター】のスキルもそれを裏付けてる。どうやって転職するかはさておいて、レベル20で覚える【職業体験】のためにも、知られざるジョブ、『失われた最上級職』を探すのは必要なはず。」
カイトは、まだまだ続くであろうスライムマラソンには辟易とするが、楽しい異世界生活のためには必要なことだと考え、その歩みを止めずにひたすらスライムを屠り続けるのだった。
ー▼ー▼ー▼ー
それから12日後、カイトのレベルは15まで上がっていた。恐らく同世代の中でも圧倒的に早い成長だろう。
ソロで黙々とモンスターを屠っているのだ。
基本職や中級職ではほとんどが修行のため、モンスターとの戦闘以外の訓練も頻繁に行われている。
そういうことをする必要のないカイトは、ただお金と経験値を求めてスライムを狩る。
現在は9階層にて属性ベビースライムを狩っている。色付きベビースライムと同様、赤・青・緑・黄の4色で、色付きよりもやや濃い。とは言っても相変わらずベビースライムではあるのだが。
ファイア・ウォーター・ウィンド・アースという冠詞はついているのだが、実態はほとんど変わらない。にも関わらず1匹当たり3マナゴールドと増えている。
深くまで潜る分時間がかかるため一日で討伐で稼げる量は増えていないが、この4種類は今までと違いレアドロップを持っているのだ。
『スライムストーン』という石で、落とすモンスターによって色が違う。これは【魔法士】と【農家】がレベル1で使えるようになる【生活魔法】という、非常に簡単で生活に便利な魔法を、道具の形に落とし込んだものの動力源として使える。他にも活用方法はあるが、そう言った理由もあって1個5マナゴールドで売却できるのだ。
もちろん他にも動力にできるドロップや素材は存在しているため、そこまで高いものではないが、このダンジョンで落ちるスライムゼリーと比べたら数百倍の価値を持つ。
もちろん管理局に登録していないカイトは売却できないのだが。
それでもそれなりの価値があるものを手に入れられるのは大きい。
まだ打診していないが孤児院でも買い取ってくれるかも知れない。
まぁ孤児院には【生活魔法】を使える【回復魔法士】のシンシアと、【育成士】のサリナがいるため、必要ない可能性が高いのだが。
ちなみに、スライムダンジョンで出現するモンスターとその階層は次のようになっている。
ベビースライムが1,2階層で、色付きベビースライムが3,4,5階層で、属性ベビースライムが6~9階層で出現、そしてボスとして10階層でマジックスライムが出現する。
ベビーでないスライムであり、そのランクは2。ランク2のスライムの代表として、その種族の名前である『スライム』がいるが、それよりは当然強い。
『マジック』とついているのは【無属性】のことが多く、マジックスライムも無属性の魔法を使用してくるらしい。
すでに9階層はカイトにとって敵ではないが、ランク2と戦うにはまだ準備不足である。
強敵とは言ってもスライムで、これを倒せなければ他のランク2ダンジョンを攻略するには力不足と言えるだろう。
「レベル20までここで頑張るか、それともそろそろマジックスライムに挑むか悩むとこだなぁ。」
レベル20は今の取得経験値では遠いと言えるだろう。具体的な取得経験値は分からないが。
かと言って他のダンジョンでより効率よく稼げるとも限らない。
スライムダンジョンに出現するモンスターは10階層を除いて、全てノンアクティブなのである。ソロであるカイトにとってこれほど都合のいいことはない。
さらに言えば、何よりこのスライムダンジョンにはほとんど他の攻略者がいないのである。
色々と隠さなければならないカイトにとってありがたい場所であるのは間違いなかった。
「まぁ攻略しちゃってから狩場を移すのでも問題はないか。時間はかかるけど上がらなくなったわけでもないし。」
ちなみに上級職になるとランク1モンスターではレベルが上がらなくなるらしい。これがランク1ダンジョンが不人気な理由である。
「基本職がランク1、中級職がランク2、上級職がランク3と考えれば楽なのに、なんで『ランク1ジョブ』とか『1次職』とか言わないんだろうか・・・。」
そんな益体もないことを考えるのであった。
ちなみにそれは『ランク3』というよりも上級職の方が威厳を保てると考え、根付いてきた考え方だったりする。
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