2-2 基本職の転職条件

 「そんなジョブが存在するなんて・・・お金は問題ですが、有用性は計り知れないですね。」


 マザーカトレアはカイトの言葉を聞いてそう言った。


 「それでどうします?ここに至っては誰かに情報を開示して協力してもらうという考えもありますが。」


 「うーん、レベル20の【職業体験】が気になります。【ものまね】タイプのスキルだろうと予測してるんですが、パーソナルカードまで変化するのであれば普通の暮らしも出来そうですし。」


 実際【ものまね】中は自分のパーソナルカードのスキル欄まで【ものまね】から変化していた。


 ちなみにスキル欄は他人に提示しても見られることはない。

 その辺り、いかにもファンタジーらしい仕様だ。


 「そうですね。孤児院の期限までもまだありますし、それから考えても遅くないかも知れません。」


 現在カイトが15歳になってから7ヶ月が経過したところだ。あと5ヶ月はいられる。

 大抵の場合は基本職を得たら師事する人間のところでお世話になるのが通常ではあるが。


 「俺としては迷惑かけたくないので早く独り立ちしたいところなんですが・・・。貯めてたお金もなくなったのでもう少し居させてもらえるとありがたいです。」


 「特別扱いは出来ませんが、ルール上16歳まではいられますから気にしなくて大丈夫ですよ。それにしてもお金ですか・・・。転職もしたようですし、ある程度成長したら、お金が稼ぎやすいダンジョンに行くのもいいかも知れませんね。」


 「稼ぎやすいダンジョンの心当たりってありますか?あとある程度の成長って目安とかあればありがたいです。」


 「そうですね・・・。この都市のダンジョンは環境ダンジョンの『草原』なので、そこで得られるドロップはあまり高くないです。なので、スライムダンジョンの下層や、ランク2の洞窟ダンジョンですかね。目安としては大体中級職のレベル10が基本職のレベル20に相当すると言われてますよ。」


 スライムダンジョンから離れられないようだ。

 スライムダンジョンは10階層から出来ていて、最下層の10層のボスはランク2のモンスターが出現する。スライム種だが。


 洞窟ダンジョンは【環境ダンジョン】で多様なモンスターが出現する。こちらは20階層から出来ていて、1〜9階層はランク1モンスター、10〜19階層はランク2モンスター、20階層はランク3モンスターが出現する。10層と20層はそれぞれ階層主としてボスと呼ばれ、やや強力なことが多い。


 ちなみにカイトが住んでいる都市は『ノースアクアリム』という街で、その中心にはランク3の草原ダンジョン、『ノースアクアリムダンジョン』が存在している。

 

 この国の都市名は規則的で、ランク6の『風属性ダンジョン』がある『王都シルファリア』。ダンジョン名も同様に『シルファリアダンジョン』と呼ばれる。

 ランク5ダンジョンは国内に3つあり、ランク4ダンジョンは8つある。それぞれダンジョンはその特徴に合わせた名前が付けられている。

 そしてそのダンジョン名が都市名となる。


 ランク3ダンジョンを持つ都市は、直近のランク4ダンジョン都市に方角をつけて名付けられる。

 ノースアクアリムは『アクアリム』の北方に存在する都市ということだ。


 「ありがとうございます。その辺りを目標に頑張ってみたいと思います。」


 「カイト、今の貴方は貴方が思っている以上に順調なのだから、無理はしないで慎重にやりなさいね?」


 「そうですかね・・・?分かりました。気をつけます。」


 「ええ、そうしてください。ところでお願いがあるのだけど聞いてくれるかしら?」


 「え?できることならしますけど、なんですか?」


 「【職業情報】スキルで基本職のことを調べて教えて欲しいの。【見習い戦士】【見習い職人】【平民】の3つですね。お金は3回分とプラスして合計で2000マナ支払うわ。どうですか?」


 「是非やらせてください!」


 カイトには全くデメリットはなかった。当然受ける。

 二人はパーソナルカードを介してお金のやり取りを行った。


 「ではまず【見習い戦士】から行きますね。」


 カイトは【職業情報】に【見習い戦士】を指定して使用する。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【見習い戦士】

基本1次職

転職条件

 魔力操作:魔力循環を会得する

成長条件

 特になし

レベル上限:20

習得スキル

 【身体強化】(1)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『【フリーター】のレベルがあがりました。」


 カイトはレベルが上がったことに驚きつつもそれを隠し、パーソナルカードをカトレアに見せる。しかし、どうやら見れないようだ。

 なので、口頭で説明する。


 「魔力循環ですか・・・。スキルではないようですね。なるほど・・・。とりあえず他の2つもいいですか?」


 「はい、少し待ってください。」


 そうして次に【見習い職人】の情報を表示させる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【見習い職人】

基本1次職

転職条件

 魔力操作:魔力放出を会得する

成長条件

 特になし

レベル上限:20

習得スキル

 【目利き】(1)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 【見習い職人】について口頭で伝えたあと、【平民】についても表示する。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【平民】

特殊【平民】系統1次職

転職条件

 ①初回転職:基本1次職の条件を満たさない

 ②初回転職:基本1次職を全く望まない

 ③???

成長条件

 特になし

レベル上限:20

習得スキル

 【自己実現】(1)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 注目すべきは『特殊【平民】系統1次職』と転職条件の3つ目だろう。

 

 1次職というのは【遊び人】と同様に先があることを示しているのか。

 それともモンスターやダンジョンと同じでランク1であることを示すのか。


 転職条件3つ目の『???』というのも初めての表示である。

 デフォルトで不明なのか、現在のカイトでは表示する方法がないのか、権利がないということだろうか。


 そして【自己実現】もどういうスキルなのかは分からない。


 そんなことも交えながらカトレアに説明する。


 「なるほど。大体分かりました。カイト、ありがとう。」


 「いえ、こちらにも利があるので・・・。ところで魔力循環と魔力放出って『魔力を練る』と『魔力を出す』ですかね??」


 「そうでしょうね。訓練の課題でやったことですよ。ただ、これが分かったことでより効率的に行えるようになるので本当に助かります。」


 『魔力循環』はその名の通り、体内の魔力を身体中に巡らせ循環する方法である。これは魔法やスキルを使う際に重要な技術で、それらを使用するための第一歩と言ったところである。

 『魔力放出』は体内の魔力を体外に滲出させる技術だ。魔法を使うにも必要な技術だが、その真価を発揮するのは生産行動だろう。魔力で素材を保護しながら生産することでより高品質なものを生み出せるらしい。放出と言っても、出すのと同時に取り入れるようで、魔力が減るようなことはない。

 魔力循環も魔力放出も大事な技術であるが、練ってから出す、という手順が必要がないのが分かる。


 「特に【平民】で、魔力循環か魔力放出のどちらかが出来るようになれば転職できるのが分かったのは大きいですね。初回転職時に基本1次職を望まずに【平民】になった方は分かりませんが。」


 「【平民】の上位職が確認されてないってことは、途中で基本職に転職したんじゃないんでしょうか?【自己実現】にそういう効果があるかもしれません。成長条件もないので普通に成長するでしょうし。【遊び人】の【モラトリアム】も名前からはさっぱり効果が分からないスキルですし、【自己実現】も似たようなものなんじゃないかと。」


 流石はゲーム脳のカイトである。

 実際に【平民】となった者は、最初は基本1次職を否定していたとしても、その風当たりの強さ、レベルの上げにくさから、基本職になりたいと望み、【平民】を失っている。

 そのため現在において【平民】の上位職は確認されていない。


 「そうですね。【平民】の上級職があるかどうかは分かりませんが。生きていく上では何とか【見習い戦士】か【見習い職人】を選択させた方がいいのかも知れませんね。」


 「優秀なのに【平民】になった人にはいい方法かも知れませんね。」


 【平民】の転職条件の特性上、優秀な人間が【平民】になる話は枚挙に暇がない。自分は他の人よりも特別なんだという意識が、基本1次職の選択を避けさせるのだろう。

 ダンジョンの管理を王から任されている貴族の子息が【平民】になる場合もある。その場合、その子息は貴族籍を剥奪され、身分上の平民に落とされる。落とされかけた段階で努力し、基本職を得て、追放を免れるというのはよくある話のようだ。


 「とにかくカイトにはこれからも頑張ってもらいましょう。中級職の条件も分かるといいですしね。孤児院ではそこまで関係はないですが。」


 「まぁお金に余裕が出来たら調べてみますよ。」


 「頼みましたよ。」


 そうしてカイトはレベル上げとともに金策にひた走ることになったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る