2章 【フリーター】

2-1 【フリーター】と【職業情報】

 『【フリーター】に転職しました。』


 このアナウンスを聞いた時、カイトはそれを飲み込み切れなかった。

 そしてアナウンスが続いた。


 『【職業情報】を取得しました。』


 「フ・・・【フリーター】?!それに職業情報って・・・就職しろって言いたいのかよ!!出来るならしたいわ!」


 そのあんまりな名称に困惑するカイト。


 「落ち着け、落ち着け。・・・この下りは【遊び人】のレベルが初めて上がった時にもやった気がする。」


 現実逃避気味にそんなことを考えるカイトであった。


 「まずは・・・、ジョブ名はどうしようもない。となると、スキルの検証をしないとだな。」


 希少職なのは変わらずのようだ。つまり、パーソナルカードの提示が必要なところを避けるべきなのは変わらない。


 「【職業情報】!」


 相変わらず口に出すカイトであった。

 周りに人がいなければ問題はないのだが。


 すると、【ものまね】同様パーソナルカードが出現する。そこに表示されているのは・・・。


 『対象とするジョブを選択してください。』

 

 「だから『対象』ってなんだよ!!」


 思わず叫ぶカイト。

 【ものまね】の時と同様に候補もない。


 「折角ファンタジーなカードなんだからタッチ操作とか思念操作とかさせて欲しいなぁ。思念操作は出来なくもないけど・・・。」


 念じるだけで具現化されるカードなど前世には存在しない。

 ステータス表示のような機能はないにしても十分ファンタジーではある。ただ、不親切なだけだ。

 電子マネーカードのように使えるのは便利ではあるのだが。


 「うーん、とりあえず『情報』ってくらいだし、まずは【フリーター】からだよなぁ。」


 そうして対象に【フリーター】を指定するように念じる。

 するとパーソナルカードに情報が表示された。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【フリーター】

特殊【遊び人】系統2次職

転職条件

 【遊び人】をマスターする

成長条件

 特になし

レベル上限:30

習得スキル

 【職業情報】(1)

 【職業体験】(20)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『【フリーター】のレベルがあがりました。』


 「レベル上がったし・・・。関連する行動をすれば上がるとは聞いたことがあるけど、いくらなんでも早すぎない?それに職業情報はカードに表示されるんだな・・・。って、転職条件と習得スキルが分かるのはとんでもないことじゃないか?」


 転職条件が分かれば基本職の転職先も専門職への転職方法も分かる。

 スキルは未知のジョブであれば有用だろう。


 「それでレベル20の習得スキルと成長条件に【職業体験】か・・・。結局は覚えて使ってみないと分からないな。」


 成長条件が『特になし』ということは、【遊び人】のような条件はないのだろう。【職業情報】を使用して上がったのだから、通常のジョブと同じように経験値を得られるはずだ。

 

 【職業体験】はその名前から、その効果も想像できなくはない。が、仕様としてどうなっているかは使ってみないと分からないと言うのは間違いがなかった。


 「とりあえず次だ。【遊び人】を調べてみよう。」


 成長条件があれば、カイトの予想は正しいことになる。

 そうして【職業情報】を使用して【遊び人】を指定する。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【遊び人】

特殊【遊び人】系統1次職

転職条件

 転職を50回以上経験する

成長条件

 他職のスキルを真似てモンスターを討伐する

レベル上限:20

習得スキル

 【モラトリアム】(1)

 【ものまね】(10)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「は・・・?」


 カイトは絶句する。


 「いやいやいやいや、待って待って。こんな転職条件満たせるわけないじゃん!!」


 そもそも転職したのは今回が初めてである。


 「今の人生での転職はこれが初めてだから、関係するとしたら前世だけど・・・。」


 カイトは転生者である自覚はあるが、前世の自分についてのエピソードは全く覚えていない。


 「バイトを含めたって50回職を変えるのは無理じゃないか?一体どういうことなんだ?」


 そんなに職を転々としていたのだろうかとカイトは不安になるが、そもそもいくつで死んだかすら覚えていない。


 「うーん、社会人になったかどうかすら分からないしなぁ。少なくとも大学生相当らしき知識はあるのは分かってるが。」


 思わぬところで前世について考察する羽目になったものである。


 「あー、もしかして・・・。」

 

 何か心当たりがある様子。


 「ゲームでの転職やクラスチェンジを含めているのか?」


 なるほど、それであれば50回や100回は軽いものである。しかし、そう考えなければ50回の転職など不可能だろう。


 「もしそうならガバガバやん!確かに偽フルスイングはバットスイングだったのに判定されてたけど!!」


 前世のゲームの経験まで今世に引き継がれているのであれば、これからも謎の仕様に行き当たる可能性はある。


 「ま、まぁ・・・考えても仕方ない。こればっかりだけど。俺が生きてるのはこの世界だし、前世のゲームの経験でも活きるのであれば、今後に期待も持てるだろ!【賢者】にだってなれるかも知れない!!」


 【遊び人】が【賢者】になれるのはカイトにとって当然のことなのだ。


 「【職業情報】は有用だけど、どんなジョブの情報を取れるのかわからないな。次は何を指定してみようか・・・。」


 検証のためにも【職業情報】スキルを使っていく必要がある。


 「やっぱりここは【賢者】だよな。あるかどうか、あっても情報が得られるかどうかの検証になる。」


 そう言って【職業情報】に【賢者】を指定する。


 『情報を得ることができませんでした。』


 『【フリーター】のレベルがあがりました。』


 「また上がったよ・・・。いくらなんでも効率良すぎない?」


 わすが3回の使用で2レベルもあがるのは想像の埒外である。


 「うーん、【賢者】はあるのかないのかもわからない。次にありそうなものは・・・【勇者】?」


 再度【職業情報】に【勇者】を指定して使用する。


 『マナゴールドが不足しています。』


 スキルにはマナゴールドを使用するものが多数ある。【職業情報】もその一つだったようだ。


 「なんだってぇぇぇ!」


 孤児院を出るためにマナゴールドを貯めていたカイトにとっては青天の霹靂だった。


 「1500マナも減ってる・・・1回500マナも使うのかよ・・・。そりゃレベルも上がるよ・・・。」


 マナというのはマナゴールドの略で、魔力とは別扱いされている。

 

 カイトはダンジョン攻略を始めてから一日40〜50マナずつ稼いでいる。一ヶ月で稼いだマナゴールドはおよそ1500。カイトはそのほとんどを失ったのだった。


 「スキルに消費があるのを失念してたのは俺だけど・・・せめて警告くらい出してくれ!!」


 最低限の生活であれば1日30マナゴールドで生きていける。普通の暮らしであれば1日100マナゴールドは欲しい。

 1500マナゴールドと言うのはそんな普通の暮らしで半月分と言う大金であった。


 「そろそろ孤児院に迷惑かけなくて済むと思ってたのに・・・しかも情報が得られなくても消費するって鬼畜すぎない?レベルが上がるのはいいけど、警告ないのも相変わらず不親切だし。」


 突然の散財に途方に暮れるカイト。


 ちなみにスキル使用による成長は他のジョブにも存在する。特に生産職はそちらの成長に頼ることも多い。


 「うーん、使ってしまったものは仕方がない。とりあえず転職できたんだし、金策しやすいところで戦えるようにまた鍛えるしかないよな・・・。」


 転職してレベルが下がってしまったため、ある程度のレベルまではベビースライムなどで上げる必要がある。

 【パーティ】であれば多少の無茶は効くためもう少し効率がいいはずであるが。


 「転職したところで、まだ希少職なのには変わりはない。孤児院に迷惑をかけるけどまた頑張っていくしかないよなぁ。」


 それでも孤児院を卒業してやっていける可能性があるだけ、マザーカトレアたちにとっては安心なのだが、カイトにとっては心苦しいものだった。


 「『失われた最上級職』の条件が分かるかも知れないだけでも有用なスキルだよな・・・。」


 消費するマナゴールドは多いが、使い方によっては非常に有用な【職業情報】スキル。

 『失われた最上級職』というのは、今は確認されていない上級職の上にあると言われているジョブである。

 現在の世の中では、ランク5以上のダンジョンは攻略する術がない。

 ランク4ダンジョンは戦えなくもないが、非常に厳しい。

 しかし、王都には過去に攻略されたはずのランク6ダンジョンが存在する。ランク6ダンジョンを攻略するには少なくとも【5次職】が存在しなければならないのだを


 「やっぱりこれをマザーとの相談案件だな。」


 最上級職だけでなく、中級職や上級職だけでも有用だろう。

 基本職の2つですら希望のジョブにつけず、そこからそれぞれ3つに枝分かれする中級職と上級職は言うまでもない。


 ただそれを調べようにも深刻なマナゴールド不足だ。ある程度【フリーター】について開示して金銭的な協力を得る道もあるだろう。


 「驚きすぎて疲れたし、今日はもう帰って相談しよう・・・。」


 そうしてカイトは帰途に着いたのであった。

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