閑話1-2 ヘルムトの日常
カイトがスライムダンジョンに挑戦を始めた頃。
カイトのちょうど2つほど年上の男子、ヘルムトはクラン【草原の風】が管理というか、独占しているランク2ダンジョン『ウサギダンジョン』にいた。
クランというのは攻略者の集団で、パーティとは違い会社組織のようなものである。
【草原の風】には『攻略部』『生産部』『育成部』の3部署があり、【戦士】であるヘルムトは『攻略部』の『食材調達班』にいた。
食材調達班というのはダンジョンから得られるドロップのうち、食材となり得るアイテムを集める班だ。
「おーい!ヘルムトー!」
「はい!なんでしょうか、クルト先輩!」
クルトは、ヘルムトの所属する食材調達班の班長でパーティリーダーだ。ジョブは【狩人】。
「お前そろそろ上級職だろ?希望は【重戦士】だったか?」
「はい!タンク役として前衛を務めたいと思ってます!」
「そうか。まぁ普段のお前からすれば恐らく大丈夫だろう。」
「ありがとうございます!頑張ります!」
「それで、お前の言っていた期待の新人ってのはいつ来るんだ?」
「カイトのことですか?何度か孤児院に訪ねているんでけど、本人には会えていないですし、院長が言うには孤児院を手伝ってもらってるって話なんですよね。」
「ふぅむ。孤児院の子は優秀だから何とか確保したいんだがな・・・。」
「カイトは優秀というか、優秀すぎると言うべきか。だから逆に何考えてるか分からない時もありますからね。」
「どんな風に優秀なんだ?」
「基本的に何でも卒なくこなしますね。だから基本職もどっちになるか分からないです。でも、算術なんかは特にすごくて、2つ違うのにあっという間に追い抜かれました。【算術】スキルもないのにとんでもない速度と正確性でしたねぇ。」
「なるほど・・・。それは確かに期待の新人だなぁ。」
「でも確か誕生日は俺と近かったんで、そろそろ基本職を得て半年くらいなんですよねぇ。管理局に登録した話も聞かないし・・・。」
「孤児院の子としては珍しいが、それもなくはないがな。一人が好きとかならありえるかも知れない。」
「あー、一人が好きってほどじゃないですけど、大人びてて一人でも大丈夫なやつでしたね。」
「そうか。それならクランじゃなくてもいいかも知れないな。【草原の風】としては残念だが。」
「俺としてもカイトが来てくれると嬉しいんですけどね。他の孤児院の連中もそうじゃないかな?」
カイトは知らないが、カイトの評価は存外高い。
この世界ではあるまじき教養の高さだからだ。
「さて、じゃあ仕事を始めるか!」
クルトの掛け声でヘルムトの仕事が始まった。
ー▼ー▼ー▼ー
ウサギダンジョンはランク2ダンジョンにも関わらず階層数はたったの2。
それぞれの最奥にボスは存在するが、他のダンジョンと違い、部屋が分かれたりはしていない。
このようなダンジョンは『フィールド型ダンジョン』と呼ばれている。
そしてその1階層ごとはかなり広大で、出現するモンスターも広く分布している。
ウサギダンジョンの1階層には唯一のランク1である『ワイルドラビット』の他に各色1つずつ魔法を使う『カラーラビット』、ツノを持ち体当たりを仕掛けてくる『ホーンラビット』、そしてボスである『ビッグラビット』がいる。
ドロップはビッグラビットのみ『うさぎの毛皮☆☆』、他は『うさぎの肉☆』である。☆の数は同じ性質で、品質が違うものが存在するときに使われるもので、ランクを示している。
2階層には高速で動き回る『ラピッドラビット』、カラーラビットにツノがついた『カラーホーンラビット』、やや数が少なくすぐに逃げる『エスケープラビット』、そしてボスであるランク3のホーンラビットからツノが増えた『デュアルホーンラビット』がいる。
ドロップはデュアルホーンラビットが『うさぎのツノ☆☆☆』、エスケープラビットが『うさぎの肉☆☆☆』、それ以外が『うさぎの肉☆☆』である。
食料調達班が狙うのはもちろんうさぎの肉☆☆で、狩場は2階層である。
倒すのは難しいがさらに高品質な肉を落とすエスケープラビットも出現するためだ。
というか☆はおいしくない。
「よーし、今日も安全に狩るぞ!俺が索敵を担当するけど、各自警戒を怠らないように!」
クルトがそんな風に号令をかける。
ヘルムトが所属するパーティは、リーダーに【狩人】のクルト、前衛タンクとして【戦士】ヘルムト、前衛アタッカーとして【軽戦士】ウルド、後衛アタッカーとして【魔法士】アルデア、もう一人後衛アタッカーとして【弓術士】クード、ヒーラーとして【回復魔法士】セイナで構成されている。
【弓術士】は基本職の時点で非常に弓に長けている場合、中級職に転職する際に自動的になる可能性がある【弓使い】の上位職である。
クードはまだ転職したてであるため食料調達班にいるが、レベルが上がればエースとして攻略部の中でもトップクラスの班に配属されるだろう。
こうして前衛と後衛に一人ずつ中級戦闘職を配置したパーティが2次育成班を兼ねて食料調達を任されるのである。
「前方右手にマジックホーンラビット!色は青!数は3!各自戦闘準備!」
クルトの発見報告から事が動き出す。
『ブルーホーンラビット』は敵を発見すると水魔法【ウォーターボール】を使用してくる。
魔法タイミングが重ならないように、アルデアとセイナが【マジックボール】を使い、右と左のブルーホーンラビットを牽制する。
中央を受け持つのはヘルムトだ。
相手の攻撃に対して盾を構え、後ろに攻撃を通さないようにする。
一度魔法を受けたあとは素早く突進し、中央のブルーホーンラビットに肉薄する。その後は左右の警戒である。
そのヘルムトの後ろから素早く飛び出すのが【軽戦士】のウルドだ。
中央をヘルムトに任せ、牽制されて体勢の整っていない右のブルーホーンラビットに飛びかかり【フルスイング】を使用する。
もちろん一撃で倒せるわけではないので、右のホーンラビットはそのままウルドが【パリィ】と【カウンター】で対応を続け、ヘルムトとウルドを除いた他のメンバーは左のブルーホーンラビットに当たる。
クードの【ダブルショット】とアルデアの【マジックボール】、そしてクルトの【ペネトレイト】が左のブルーホーンラビットを襲う。その後は通常攻撃を加え、左を倒したあとは流れ作業。右をそのまま通常攻撃で倒し、中央を倒す。
無事に3体のブルーホーンラビットを倒し、1つのドロップを入手した。
ドロップ率は100%ではない。このダンジョンは比較的落としやすいが、20匹倒しても何も出ないということはよくある。
「よーしお疲れ!この調子で続けるぞ!」
そんな感じで狩りを続ける。
ヘルムトがまだ【戦士】である以上、3匹までの集団しか対応できない。【重戦士】であればレベル20で覚える【挑発】を利用して、モンスターの攻撃を一身に集める事が出来るのだが、【戦士】では難しいからだ。
そうしてこの日は5個のドロップを獲得して終了した。
これがこの世界の普通のパーティの風景である。
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