1-5 【ものまね】というスキル

 あれからさらに2日。

 【遊び人】のレベルが10に上がった時にそれは起きた。


 『【遊び人】のレベルが上がりました。』

 『【ものまね】を取得しました。』


 「え・・・。」


 カイトは絶句してしまった。

 レベル10でスキルを取得できるジョブなど前代未聞だからだ。

 まぁ希少職のレベルを上げている時点で前代未聞ではあるのだが。


 「落ち着け、落ち着け・・・。」


 カイトは混乱の極地にあった。


 「まずは使ってみるしかない・・・よな?」


 スキルの使い方は簡単である。そのスキル名を念じるか、声に出すかだけだ。

 パッシブスキルであれば何も起こらないし、アクティブスキルであれば何かしらの効果を発揮する。


 「やってみるか・・・。すぅ・・・はぁ・・・。」


 緊張からか深呼吸。


 「ものまね!!」


 叫ぶ必要はないのだが、周りに誰もいないことは分かっているし、どうしても気合が入ってしまうのだから仕方がない。


 カイトがスキル名を叫ぶと自動的にパーソナルカードが出現した。

 そこにはいつもと違う表示が。


『対象とするジョブとスキルを選択してください』


 「えーと、候補は?」


 候補はなく、ただそれだけ。

 どんなジョブが選択できるかも分からない。

 スキルなんてさらに分からない。


 「とりあえず・・・【回復魔法士】の【ヒール】」


 マザーカトレアが、子供達が怪我をした時に使ってくれるスキルを選択してみる。

 そうするとパーソナルカードの表示に変化が生じた。


 『ものまね:回復魔法士:ヒール:0:59:59』


 そしてパーソナルカードの自分だけが見られるスキル欄は【ものまね】がなく【ヒール】になっている。


 「これでいいんだろうか。1時間だけ使えるってこと?」


 最後の数字は減って行っている。


 「えーっと・・・【ヒール】。うわっ!」


 対象も何も考えずに使う【ヒール】は自動的に自分自身にかかるようだ。

 体の中から魔力が抜けていく感覚とともに、カトレアにかけてもらった【ヒール】と同質の魔力に包まれる。


 「使えちゃったよ。上級職のスキルなのに。」


 とんでもないことである。

 ただし、消費も実際のスキルと同じであるので、1次職であろうカイトが何度も使えるものでもなかった。


 「この感覚だとあと1〜2回使ったら魔力がなくなるだろうなぁ。」


 そんなにおいしい話はないと言うことだろうか。強力なスキルは使えないか、使えても数回だけで、継戦能力は著しく劣る。


 「パッシブスキルは真似られるんだろうか。と言ってもパッシブスキルは数が少ないけど。あと効果自体も差があるかどうか。元々の補正が違いすぎるから当然効果も小さいとは思うけど」


 とりあえず検証を進めようと再度【ものまね】を使用する。


 「ものまね、【戦士】の【戦闘体勢】」


 しかし何も起きない。

 パーソナルカードを確認しても表示に変更はない。残り時間が変化しているだけだった。


 「つまりこの時間表示はクールタイムか、それともパッシブスキルはものまねできないのか」


 再度ものまね。


 「ものまね、【魔法士】の【マジックボール】」


 やはり変化は起きなかった。


 「やっぱりクールタイムか。時間が来たら真似ているものが自動解除されるかどうかも大事だなぁ。」


 カイトは残り時間が許す限り検証を続けるのだった。


ー▼ー▼ー▼ー


 検証の結果、現状わかる範囲では、時間表記はクールタイム、見たことのないスキルは【ものまね】できない、自動解除はされない、パッシブスキルは見ることができないため【ものまね】不可、であった。


 【1次職】で得られるスキルのため、さすがに強力とまでは言えないものではあるが、【遊び人】の可能性を感じるものであったし、今後ダンジョンの攻略を続けていく上で手札が増えることはとても喜ばしいことだった。


 「見てもよくわからないバフ系はものまねできるのに、パッシブはできないのはちょっと納得いかない・・・。」


 【料理人】の一時的に嗅覚を強化する【嗅覚強化】はものまねできたのである。


 「まぁ最大の問題は・・・公に出来なさすぎて、ぼっち確定ってところか・・・。」


 【遊び人】であることを隠さないといけない現状、とりあえずマザーカトレアに相談しようと心に決めるのであった。


 「そう言えば・・・【ものまね】に驚きすぎて初魔法の感動がなかったわ・・・。」


 そんな事実を非常に残念に思うカイトであった。


ー▼ー▼ー▼ー


 「マザー、少し時間いいですか?」


 カイトは帰宅するとすぐにマザーカトレアに会いに行った。


 「あら、カイト。どうしたのですか?」


 「報告することができまして・・・。今日【遊び人】のレベルが10になったんです。」


 「まぁ!それはすごいですね!かなり早いですよ。」


 実際新たに15歳になった者は管理局に登録し、師事を受ける人を紹介してもらうのが習わしだ。

 つまり『パーティ』と呼ばれるグループを組んで訓練を行う。

 パーティで戦闘を行うと討伐経験値が按分されることが分かっているため、単独、つまり『ソロ』で戦っているカイトよりもかなり効率が悪くなる。

 とは言ってもソロで一日に何匹も倒すカイトは異常とも言えるのだが。前世の記憶からかなり効率よく戦っているのは間違いない。


 「ええ、ソロですし。それよりもスキルを獲得したんですよ。」


 「・・・レベル10でスキル・・・ですか。それはまた前代未聞ですね。」


 他の基本職はレベル20で転職するまで新しいスキルは覚えない。


 「はい、それにその効果も今までにないものじゃないかと思うんですけど。」


 「一体どんなスキルなんです?」


 「【ものまね】と言うスキルで、効果としてはまだ確定ではないんですが、『見たことのあるスキルを使用することができるようになる』ものではないかと。」


 「・・・なんと言っていいかわかりませんが・・・、使い様によっては世界がひっくり返りますね。」


 「いえ、制限も色々あってそこまで便利なものでもなさそうなんですけどね。」


 「制限ですか・・・。どんなことが分かってるんです?」


 「自分の見たことのあるスキルしか真似ることはできません。パッシブスキルは真似られません。一度使うと1時間使用不可になります。この3つくらいですかね。ただ、見たことあるはかなり曖昧で、【嗅覚強化】は真似られました。」


 「なるほど。今のところ発動を見れば条件を満たすと考えればよさそうですね。」


 「そうだと思います。」


 「分かりました。複数のスキルを使っているところを見られるとまずいでしょうし、貴方はまだ15歳になったばかりです。同い年の子たちはそろそろ中級職に上がってる子もいるでしょうし、よほどのことがない限り真似るのは基本職か中級職の1つだけにしておくといいでしょう。」


 15歳になって基本職を得た子どもは、大体半年で中級職に上がる。カイトを見ていると非常に非効率に思えるが、強いモンスターを相手にするわけにもいかず、戦闘訓練も行いつつとなると、それくらいはかかる、らしい。

 カイトはすでに15歳になってから半年経っているので、希少職でなければ中級職になっていても不思議ではない。


 「出来ることはそれくらいですよね・・・。分かりました。気をつけて使います。」


 「ええ、そうしてちょうだい。今後どのような発展をしていくか分からないジョブなので注意してしすぎることはありませんからね。」


 「もちろんです。ところで、そろそろベビースライム以外を倒してみたいと思うんですけど、まだ早いですかね?」


 一日1レベル。順調すぎるほど順調である。

 ベビースライム相手であればこのまま成長できるはずだ。


 「ベビースライムで十分成長できているのに危険を冒す必要があるとは思えませんが・・・。」


 「そうなんですけど、成長の条件を色々と検証したいなと思いまして。」


 「なるほど。現状はどう考えているんですか?」


 「『ある条件』を満たした上でモンスターを討伐することだと考えています。」


 「『ある条件』・・・ですか。それは見当がついているのです?」


 「今までは分からなかったんですけど、【ものまね】を得て思いついたことがあります。他のジョブのスキルを真似て戦うことです。」


 「ということは今までも真似をしながら戦っていたんですね?」


 「はい。【軽戦士】の【フルスイング】をイメージして戦っていました。」


 【フルスイング】は上級職の【軽戦士】レベル40で覚えるスキルで、孤児院の職員リードが遊びで使ってくれたのを見たことがあった。

 とは言ってもカイトが想起していたのは野球のバットスイングではあるが。

 【フルスイング】はフォームに関係なく、使用しながら強く振ることで攻撃力が上がるスキルである。

 【ものまね】を得たカイトは、【ものまね】に【フルスイング】を指定すれば、実際に効果のある【フルスイング】を使うことが出来るようにはなっている。

 消費が多すぎて常用することは出来ないのではあるが。


 「なるほど。そう言った事情であれば、先へ進んでも構わないと言えますが・・・。とりあえず上がらなくなるまでベビースライムで戦ってはどうです?レベル20になっても転職できないのであれば、そこから新しく検証してみるのがいいと思います。」


 「なるほど。レベル20ですか。確かに転職できればまた状況も変わりそうですしね・・・。分かりました。もうしばらくベビースライム討伐を続けてみることにします。」


 「そうですね。やはりそれがいいと思います。」


 そうしてカイトは更なるベビースライムマラソンに繰り出すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る