1-6 【遊び人】の先
あれから15回目の探索。現在のレベルは20になっている。レベル17までは一日1レベル上がっていたが、レベル18からは2日かかるようになっている。レベル20になってから2日目なので今日レベル21、つまり転職準備状態になるはずだ。レベル21になったのならば【遊び人】の上限は30あるいはもっと上なのだろう。
転職準備状態とはレベルがそのジョブの上限を迎えた際になるもので、そういうアナウンスがあるらしい。その状態で転職を望めば上位のジョブへと変更される。
転職するとレベルが1になり、それまであった補正も消えてしまう。そのため急に転職することがないようにそうなっているようだ。
「それにしても一日50匹ってのはぎりぎりの設定だったんだなぁ。」
今はレベルが上がって攻撃力も増えているので3回攻撃すればベビースライムを倒すことが出来ている。幸い50匹倒すまでにレベルが上がっていたからタイムアップになることはなかった。
そもそも探す時間があるのだ。
倒すのに時間がかかっている時はすぐに次が見つかっていたのだが、スムーズに倒せるようになってからはかなり探す時間が増えている。
人を避けながらというのももちろんあるのだが。
「やっぱりリスポーン時間があるんだなぁ。」
リスポーンというのは前世のゲーム用語で、倒したモンスターが再び出現することを言う。
「5分で倒して1分で探す、これを50匹で5時間。そんな想定だったけど、今は倒すのに1分、探すのに5分であんまり変わってないんだよなぁ。」
5分でリスポーンなら、倒した後にその場で待てばいいのだが、人の目もあるかも知れないのでそういうわけにも行かなかった。
カイトは知らなかったが、管理局ではリスポーン待ちはマナー違反行為として扱われている。
人がいるとリスポーンすることはないため、討伐したら速やかにその場を離れることが推奨されているのだ。
とは言ってもこのスライムダンジョンでベビースライムを狩る者はカイトの他にいないため、もしやっていても咎める者はいなかっただろうが。
ちなみにスライムダンジョンは『フロア型』のダンジョンで、いくつかの部屋とそれを繋ぐ通路で構成されている。1部屋に最大1匹のみの出現で、元々ノンアクティブなこともあるし、巻き込んでアクティブにすることもないため非常に安全である。
ノンアクティブと言うのは、こちらが攻撃を仕掛けるまで積極的には攻撃してこないモンスターのことで、攻撃を仕掛けてから戦闘状態に移行することをアクティブと言っている。
カイトが今【ものまね】しているのは【見習い戦士】の【身体強化】である。
魔力、ゲーム的に言えばマジックポイント、所謂MPを使用して、身体能力を一時的に上げるバフスキルである。
効果時間は10分。効果は・・・微増というところか。
魔力の消費に関しては分からない。効果が切れてから再使用しても使えなくなることはないため、消費と回復が釣り合っているか、回復が上回っているのだろう。
カイトはレベル20に到達するまでに様々な検証を行なっていた。
レベル上昇に伴う攻撃力の増加に物を言わせた何も考えない攻撃。
【身体強化】を利用した上で、何も考えずに攻撃。
どちらもあと少しで上がるだろうというところから行った。
結果として前者では経験値は入らず、後者ではすんなりとレベルが上がった。
つまり【遊び人】の成長条件は『他の職業のスキルを【ものまね】の有無に関わらず、真似た状態でモンスターを討伐する』ことだろうと言えた。
そうなると魔力消費がほぼないと言える【身体強化】を【ものまね】し、使用した上で何も考えずにひたすらベビースライムを倒していくというのがもっとも効率的だろうということで、それを実行している。
ちなみに【魔法士】の【マジックボール】は数発使うことで倒すことが出来るが、木剣で叩いた方が早く、魔力の消費も【身体強化】に比べると多いため、継続的に戦うには向いていなかった。
【攻撃魔法士】の【マジックアロー】はさらに魔力消費が多く、10回も使うことが出来ず、候補にすることも出来なかった。
ちなみに【遊び人】には【取得経験値増加】と言えるものがあるようだ。モンスターの討伐経験値が得られることが前提だが、基本職の5倍ほどの量が得られている。
ある資料でベビースライムのソロでの討伐経験値を1とした時に、どれくらいでレベルが上がるかを調べた結果を示したものがあったのだ。
「身体能力を示すステータスもないし、自由な転職も出来ないし、ジョブやスキルの詳細も分からないとかなんて不便なんだろう。」
【モラトリアム】なんて訳の分からないスキルのせいでどれだけ苦労したのか・・・。
カイトはそんなことを思いながら討伐を続ける。
【モラトリアム】の効果は恐らく『通常の取得経験なし。他職のスキルを真似て討伐した際経験値取得可。その際の経験値5倍化』と言ったところだろう。
「俺は偶然条件満たせたけど、普通は無理だよなぁ。まぁそもそもなんで【遊び人】になったのかも分からないんだけど。」
希少職というだけあって本当に何も分かっていない。過去の文献にも残っていないくらいだ。
「希少職はみんな隠したがるんだろうな。それとも生きていけなくなるか・・・。とりあえず少しでも狩れて、生きていくだけなら出来るようになって良かったけど・・・。出来ればせっかくの異世界だし、もうちょっと楽しみたいよなー。」
普通ならパーティで挑むダンジョンも希少職のせいでソロしかできない。【遊び人】の先がどうなっているかで今後も変わってくる。
【平民】のように他の基本職に変化するなら管理局にも登録できるかも知れない。
「【賢者】になれるといいんだけどなー。この世界のシステムは不親切すぎて期待できないけど。」
攻略サイトは当然ないにしても、文献なんかも【3次職】までの情報しかないし、ジョブがあるのにステータスもない。さらには転職もないと言う。
「ジョブが決まっていて人生が決まってしまうストーリーも少なくはないけど・・・自分の身に降り掛かると笑い話にならないよなー。そういう物語だと大抵抜け道はあるけど。希少職のレベルを上げられている俺も大概だけど。」
そもそも転生者の話も聞かない。
日本の高度な教育のおかげで【商人】の【算術】がなくてもそれなりに計算は出来るし、【鑑定士】の【速読】がなくても、それなりのスピードで本を読むことも出来る。
「まぁ魔王がいるわけでもないし、主人公とか勇者とかは興味ないし必要もないけど、楽しく生きられるだけの根拠は欲しいとこだね!」
ソロで独り言が増えているカイト。
実際ダンジョンでは一人だし、孤児院に帰っても話すことがあるのはマザーカトレアを始めとした職員だけ。
「あと少しで【遊び人】も上限だろうし、ラストスパートと行きますか!」
そうしてベビースライムを狩ること数匹目。いよいよその時が来た。
『【遊び人】が上限に達しました。転職準備状態に入ります。』
無事転職できるようだ。
カイトとしては転職なのかクラスアップなのかはっきりして欲しいところなのだが。
「そのまま上位にスライドするなら転職じゃなくクラスアップじゃないんだろうか・・・。まぁ転職には違いはないんだけど。」
ジョブと言う名の職業を変えるから転職。間違ってはいない。
「まぁ考えても仕方ないことは置いといて、どうせベビースライムしかいないし、ここで転職しても大丈夫だよな?」
安全が確保できるのであれば転職しても実際に問題はない。
問題はどう念じれば転職が行われるかだった。
「うーん、とりあえず・・・転職させてください!」
独り言の多いカイトは念じるのが苦手だった。
そう発言した時カイトの中で何かの変化が生じる。
『【フリーター】に転職しました。』
カイトに聞こえたのはそんな絶望的な言葉だった。
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