1-4 【遊び人】レベル上げの日々

 カイトが初めて【遊び人】のレベルを上げた日から7日ほどの時間が流れた。

 その間も【遊び人】のレベルは順調にあがっていき、現在ではレベル8まで来ている。

 

 ただ順調とは言っても、その条件はやはり謎に包まれていた。

 現在のカイトは、一日に50匹のベビースライムを狩ることか、1レベル上げることを目標にし、それを達成しているのだが、その上がり方には疑問が残る。わずか十数匹で上がることもあれば30匹程度倒さないと上がらないこともあるのだ。


 それに一週間とは言え飽きてきた。毎日片道3時間移動してベビースライムをただ機械的に打ち返しているだけなのだから。それでも上がっているのだから、「楽しんで戦う」ことは条件ではないかも知れない。

 また、今までレベルが上がったのはモンスターが消滅した時だけであるから、モンスターの討伐がレベルアップに影響しているのは間違いなかった。つまり、【遊び人】の成長条件は「ある条件を満たした状態でモンスターを討伐する」ということなのだろう。

 つまり、カイトの討伐中、常に条件を満たしているわけではないと考えられる。


 「『ある条件』が分からなきゃ非効率だよなぁ・・・。」


 ただ打ち返しているだけとは言っても、試行錯誤は行っている。右打ちしたり、左打ちしたり、振り下ろしたりなど。それでも明確な違いは出ていない。


 「このままレベル20まで順調に行けるといいんだけどなぁ。まぁ転職できるとも限らないけど。」


 レベル20というのは基本職が中級職へと転職できるレベルである。転職は全ての人間にとって憧れである。新しいスキルを得るチャンスなのだ。

 スキルというものはジョブ固有の能力で、【見習い戦士】は転職時に【身体強化】スキルを、【見習い職人】は【目利き】を得る。中級職になればそのジョブに応じて新しいスキルを獲得できる。

 もちろん上位職の場合、下位職のスキルはそのまま使うことが出来る。


 どちらのスキルも使えば使うほど、成長に繋がり、基本職はおおよそ半年で中級職に転職する。

 【身体強化】は能動的に使用する『アクティブスキル』であり、【目利き】は自動的に発動する『パッシブスキル』であるのだが、【遊び人】のレベル1で取得する【モラトリアム】は使用することが出来ないため、パッシブスキルなのだろうと想像は付く。


 ちなみに【身体強化】は『使用者の身体能力を一時的に上昇させる』効果があり、何度も使うとひどい疲労感に襲われるようだ。

 【目利き】は『ものの良し悪しがなんとなく分かる』程度のもので、実際に強い効果があるものではない。

 そのため、スキルがないことが大きく不利であるとは言えないのだが、カイトにとって【モラトリアム】の効果が分からないのは、非常にもやもやするものであった。


 「まぁなんとなく想像はつくんだけどな・・・。」


 実際カイトの前世の記憶からすれば、「成長に条件が付くマイナススキル」というものだろうと想像できる。


 「説明書あると助かるんだけどなぁ。【遊び人】は【賢者】になれないのかなぁ。」


 などと益体もないことを考えてしまうのは仕方のないことだろう。


 「レベルが上がる毎にベビースライムを攻撃する回数は減ってるし、ステータスが存在するのは間違いないと思うんだけど、確認する方法もないしなぁ。」


 レベルによって身体能力に補正がかかるのは間違いない。もちろん通常の筋力トレーニングなどによっても身体能力は上がるが、そこにジョブの恩恵が加わっている感じだろう。


 「パーソナルカードには名前と年齢、ジョブしか表示されないしなー。」


 パーソナルカードはカイトが思うステータス表示に似ているのだが、実際にステータスが表示されることはない。

 他人が見えるのは名前、年齢、ジョブの3種類のみで、ジョブレベルすら見ることは不可能だ。

 本人は望めば、スキル、マナゴールドの数、ドロップアイテムのリストを見ることが出来るが、ステータスやスキルの詳細は見られない。


 ちなみにパーソナルカードは、満5歳になった時に自動的に付与される。本人が出てほしいと思えば現れるし、消えてほしいと思えば消える。特に操作方法などはない。


 カイトは前世で恐らくゲーム好きだっただけあって、こういう考察をすることが好きだった。

 他にも転生者がいるかも知れないが、少なくともこういう発想に関しては世界でトップクラスだろう。


 ちなみにカイトは現状調べられる限りのジョブの知識は全て網羅している。


 『基本職』と呼ばれる『1次職』はレベル20で『2次職』の『中級職』に転職可能。中級職はレベル30で『3次職』の『上級職』に転職可能。上級職のレベルは50で打ち止め。

 転職は不可能なため、ほとんどの人は30歳までには上級職レベル50まで育ちきっており、現状ではランク3ダンジョンを攻略するので精一杯である。

 ランク3ダンジョンのボスはランク4モンスターなので、ほとんど攻略者はいないが。


 シルファリア王国王都のダンジョンはランク6であり、今の人類には攻略不可能である。


 「そう思うと『4次職』とか『5次職』とかありそうだし、3次職からの転職が無理ってなら転職制度がないと難しいはずなんだよなぁ」


 実際古い文献には今現在確認されていないジョブらしき名称が出てくることもある。

 また、最近の文献にも『失われた最上級職』と言う、可能性を示唆する言葉も登場する。


 ちなみに才能のある者の中には中級職に転職する際、やや方向性の違うジョブに転職できることがあることも確認されている。

 【剣使い】や【斧使い】など、特定の武器に特化した『専門職』と言われるジョブだ。

 これら専門職は中級職よりも身体能力補正が高く、エリートとして扱われている。それぞれの専門職もレベル30で『専門上級職』に転職できることが分かっている。


 ここらで一通りのジョブについて説明しておこう。

 基本職には【見習い戦士】と【見習い職人】があり、それぞれ3種のジョブへと枝分かれする。

 【見習い戦士】からは【戦士】【魔法士】【斥候】。

 【見習い職人】からは【職人】【農家】【商人】。

 そして中級職もそれぞれ3種に枝分かれし、上級職にはなんと18種類ものジョブが存在している。

 【戦士】からは【重戦士】【軽戦士】【格闘士】。

 【魔法士】からは【攻撃魔法士】【回復魔法士】【補助魔法士】。

 【斥候】からは【狩人】【道具士】【罠士】

 【職人】からは【工芸士】【料理人】【建築士】。

 【農家】からは【栽培士】【採取士】【育成士】。

 【商人】からは【行商人】【鑑定士】【交渉人】。

 

 自身が希望する中級職や上級職への転職の仕方は分かっておらず、経験の積み方で変化するのではないかと言われている。


 ちなみに中級職にも基本職でいう希少職に相当するジョブが存在している。【雑用士】というジョブだ。1次職の希少職同様、レベルのあがらないジョブであり、【遊び人】と同様に不遇職として扱われている。


 「【遊び人】に有用な2次職があればいいんだけどなぁ。せっかく異世界にいるのなら魔法はぜひ使ってみたい。本当に【賢者】になれないんだろうか。」


 カイトは【賢者】にこだわりがあるようだ。


 「御伽噺にも【賢者】はなかったからなぁ。【魔法士】ツリーにしても、魔法の種類は少ない感じだし。」


 ランク6ダンジョンをクリアし、現在の王都の土地を所有することになった建国の祖は【剣聖】であったと言われている。ランク6をクリアできたのであれば、最低でも【剣聖】は【5次職】だろうと想定はできるのだが。


 「現状3次職までしか存在してないのは一体どういうことなんだろうか。それに・・・ランク6ダンジョンをほぼ全く攻略できないって大丈夫なのかな?」


 カイトの知っている話では、ダンジョンを放置するとダンジョンからモンスターが溢れ出すスタンピードが起きるというものがほとんどである。


 たとえランク6ダンジョンでも低階層ではランクの低いモンスターも出てくるため完全な放置ではないだろうが、深層は全くの手付かずのはずだ。

 

 「まぁ今の俺が考えても仕方ないことか。もうちょっと集中してバッティングゲームをやるとしますか!」


 そうしてカイトは再びベビースライムの討伐に精を出すのであった。

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