1-2 激闘!vsスライム
カイトの住む街から徒歩で3時間のところにあるスライムダンジョンはランク1のダンジョンだ。
スライムダンジョンは種族ダンジョンで、出現するモンスターは『スライム種』だけである。
さらにランク1ダンジョンであるので、出現するモンスターの強さも、10階層のボスを除けば全てランク1だ。
もちろん同じランクでも、モンスターによって当然その強さは様々である。
このスライムダンジョンの1階層に出現するモンスターはベビースライムで、モンスターの中でも最弱中の最弱である。
ちなみに、モンスターのランクが2つ以上上に離れると、どのような手段を用いてもダンジョン内のモンスターにダメージを与えることはできない。
「ダンジョン内の」とつけたのは、ダンジョン外にもモンスターは存在するからだ。
攻略されていないダンジョンの周辺には、そのダンジョンに出現するモンスターが生まれる。そうやって生まれたモンスターは、ダンジョンの軛(くびき)から解放され、通常の動物のような行動をするようになる。通常の動物のような行動とはすなわち摂食、生殖、睡眠である。ダンジョン内のモンスターはこのようなことはしない。ただひたすら侵入者を攻撃するだけである。
ダンジョンの外に出たモンスターは魔物と呼称が変わる。モンスターが倒された時はドロップと呼ばれるものを残す代わりに、その体が煙のように消えるのに対し、魔物はその体全てがそのまま残る代わりにドロップはしない。
そして本来であれば攻略された土地はダンジョンの加護により魔物が近づきにくくなっているのだが、何らかの事情で人里に近づく魔物が出てくることがある。そのような場合では、ランクが2つ以上離れていてもダメージを与えられることが確認されている。
ベビースライムは某有名ファンタジーゲームのように流線型で、直径20cmくらいの半球体のフォルムをしている。アメーバ型じゃなかったのは幸いだった。そして、ただそこにいるだけのモンスターでしかなく、積極的に攻撃してくることもなく、近づいたとしても逃げる事はない。攻撃された場合に体当たりで反撃するだけである。
それでも【無職】や【平民】にとっては非常に脅威である。
ダンジョン内にはモンスターだけでなく、様々な『素材】も存在し、それらを採取することによって得ることもできる。
【無職】や【平民】の訓練の一環として、そういった採取も行われている。
そんな訓練生が口を酸っぱくして言われていることが、「ベビースライムには手を出すな」だった。
ベビースライムはスライムダンジョンの他に、訓練で使われるランク2の『洞窟ダンジョン』の1階層でも出現するのだ。
その見た目や行動に反して、ランク0と言われている者たちにとっては非常に驚異的だからだ。興味本位で手を出した訓練生がそのまま帰らぬ人になるという話は枚挙に暇がない。
カイトもそんな訓練生たちとほぼ似たような状態ではあるのだが、曲りなりにも希少職と言われるジョブを得たカイトは、一応ランク1と判断されている。実際、【無職】や【平民】よりは若干ではあるが身体能力は高い。
不遇職がモンスターを倒すことで成長を試みるということは過去にも行われているが、それが効果を発揮したという実績はない。
それでもカイトが出来ることは、それしかなかった。
「緊張はするけど、よく見て戦えば倒せないことはないはず・・・。」
普段は装着しないやや古びた丈夫な服と、木の盾、そして木剣を装備したカイトは緊張した面持ちで、ベビースライムと相対する。
これらの装備は孤児院から借りてきたものだ。
「ダメージは受けられないけど、体当たりしかないなら何とかなる!」
そうやって自分を奮い立たせて、カイトはベビースライムに切りかかった。
「えいっ!」
ベビースライムはその攻撃を受けると、かすかに身体を振るわせ、カイトにとびかかる。
カイトはそれを間一髪避けることに成功した。
「はやっ!こんなに速いのかよ!!」
ベビースライムの思わぬ速度に驚きながらも、体当たりをかわしつつ、剣戟を叩きこみ続ける。
攻撃する。躱す。攻撃する。躱す。躱す。攻撃する。
「どれだけ叩けば終わるんだ・・・。」
何度も何度も繰り返し、それが30回を超えたあたりで、とうとうベビースライムが倒れた。
「やっと終わった・・・めっちゃしんどいんだけど・・・。」
少なくとも1体倒しただけでは成果は得られなかった。
「何もなし・・・か。まぁ当然っちゃ当然だけどな。慣れれば大きなモンスターを狩るゲームみたいに楽しめそうだし、飽きる前に何とかなればいいんだけど。」
こうしてスライム、その中でも最弱のベビースライムとカイトの激闘は幕を開けた。
ー▼ー▼ー▼ー
「はぁ・・はぁ・・・いってぇ・・・。」
8匹目と戦闘中にとうとう体当たりを食らってしまう。
幸い一撃で死んでしまうことはなかったし、まだ数度程度なら受けても大丈夫な感じはするが、その痛みはこれが現実なのだと厭が応にも感じさせるものだった。
「多分訓練生でも一撃で死ぬことはない気がするけど、この痛みで動けなくなったりするんだろうなぁ。」
実際カイトもその衝撃の強さに驚いて動きを止めてしまうところだった。
幸いにも、ベビースライムはこちらから攻撃しなければ、攻撃してくることはない。すなわち、相対しているベビースライムさえ倒してしまえば、落ち着く時間は与えられる。
「慣れてきたことで油断しちゃったなぁ。これからは気を付けよう。幸い、攻略法は完成してきたんだし」
カイトはここまでの戦闘で、ベビースライムを効率よく倒す方法を模索してきた。
ベビースライムの体当たりに合わせて木剣を降り下ろし、打ち返すのが効率よくダメージを与えられる方法だと気づいたのだ。
実際、攻撃する、躱すを繰り返している間は30回ほど攻撃しないと倒せなかったベビースライムが、カウンターを併用するようになったら20回ほどの攻撃で済むようになった。
「時間もあんまりないことだし、いっちょペースアップしてやってみますか!」
カイトは気合を入れ直し、ベビースライム叩きを再開した。
ー▼ー▼ー▼ー
「おりゃっ!」
カウンターを習得。と言ってもジョブに付随するスキルではないが。
ジョブを獲得したり、ジョブが成長すると、『スキル』という恩恵が得られる。
スキルを得ることで、そのジョブに関することが上手くなったり、強力な攻撃を放てるようになる。
【遊び人】のレベル1スキルは【モラトリアム】だった。
効果は不明。
前世の知識では、直訳すれば「猶予期間」。何を猶予しているのだろうと疑問に思ったものだ。
しっかりと意味を考えるのであれば、「成長するための準備期間」とも言える。つまり準備さえすれば成長すると考えられるのだ。
さらに言えば「モラトリアム人間」などのように「もっと遊びたいがために就職などから猶予を得て逃げている」という意味もある。猶予さえ終われば就職することになるのかも知れない。
そんな感じのことを考えながらベビースライムを倒していくカイト。
最初はカウンターをしても、その衝撃で手に痺れが出たりしていたが、習熟していくうちにかなりスムーズにこなせるようになってきていた。
リズムゲームのようにタイミングを測り、バッティングセンターでバットを振るうように、木剣を振り抜いて打ち返す。
「こんな戦い方ならバットの方が良かった・・・と言ってもこの世界にバットなんてないけど。」
実際には棍棒なんてものはあったりはするのだが。丁度いい重さや長さの棍棒を用意するのは難しいだろう。
「まぁ慣れてきたし、このままでいいか。そろそろ時間も無くなってきたし。」
すでに激闘とは言えなくなりつつある戦闘をこなしながら、そろそろ帰ることを考えないといけない時間になってきたことを残念に思った。
そんな中発見したベビースライム。
出来上がったルーティン通りに戦闘を開始する。
反撃しようと思うくらいに小突く。
震えながら体当たり準備をするベビースライムに相対する。
顔に向かって飛びかかってきたベビースライムを回避しながらバットスイングのように木剣を振り抜き弾き飛ばす。
あとは繰り返し。
15回ほど繰り返したところでベビースライムが煙になった。
『【遊び人】のレベルがあがりました。』
そんな声がカイトの頭の中に響くのであった。
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