転職方法が失われた世界で【遊び人】になった俺は【賢者】にはなれないのだろうか
rasen
1章 【遊び人】
1-1 プロローグ
カイトは転生者である。
と言っても、どこの誰であるかは分かっていない。
ただ違う世界の、ゲーム好きの日本人として生きてきたという強い実感があるだけだ。
カイトは孤児である。
物心ついた時にはすでに孤児院にいたし、もちろん両親のことなぞ微塵もわからない。孤児院の院長も知らないようだ。
その容貌は、特別興味を引くようなものでもなく、至極一般的である。強いて言うならば髪の色がやや珍しい黒だと言うことと、身長がやや高めの170cm程度だと言うことくらいか。
この世界では、5歳になると祝福を受け、『パーソナルカード』というものを得る。このカードには名前と年齢、そして『ジョブ』が表示される。ジョブは『職業』とも言われる。
祝福を受けた時点では【無職】となり、15歳になれば1次職と呼ばれるジョブに就くことが出来る。
5歳から15歳までどのように過ごすかで、就けるジョブが変わることはよく知られていて、そのほとんどは【見習い戦士】か【見習い職人】であり、『基本職』と呼ばれている。
そして例外として【平民】というものがあり、これは訓練を真面目にしなかった場合になることが殆どだ。
とは言っても、【平民】になってからでも訓練をこなせば基本職に自動的に転職することがほとんどだということが分かっているので、忌避はされるものの絶望するほどでもない。
本当に絶望的なのは『希少職』と呼ばれる『不遇職』だ。
そう言ったジョブは、なぜか成長が止まり、どれだけ訓練しても変化することがない。
事例も少ないため、研究も進んでおらず、希少職に就いたほとんどの人間は、単純労働に従事するかスラムに堕ちることになる。
カイトは【遊び人】である。
希少職にはやや憧れがあったものの、実際になってみると絶望しかなかった。
「【遊び人】が【賢者】になれるのはテンプレなのに、成長しなきゃそれも無理じゃん!」
例に漏れず成長条件が不明な【遊び人】。
さらに、この世界には『転職』が存在していない。 転職できるのは、【平民】が変化する場合と、『上位職』に上がる場合だけである。
「この半年でやれることはやったし、アプローチを変える必要があるな・・・。」
孤児院は15歳のうちに出なければならないので、残り半年のうちに生活基盤を整える必要がある。
このままではスラムに直行だ。
「他のジョブは訓練すればあがるのに、【遊び人】はうんともすんとも言わないんだよなぁ。」
ジョブには『レベル』があり、レベルがあがれば『アナウンス』が脳内に響く。
カイトが聞いたアナウンスは【遊び人】になった時のものだけだった。
「【遊び人】と言えば、遊ぶことだろうし、そっち関係で考えてみるしかないかな。孤児院の本も読み終わったし。」
一般的に遊び人と言えば、女性関係に熱心な人のことを言うが、ゲームシステムに近いジョブが存在するこの世界では、そうとは限らないだろう。
と言うか、そうであったならお手上げである。
「こうなったらまずはやりたいことからやっていくか!」
【無職】や【平民】、基本職の訓練では何も変化が起きなかったのだから、違うことをやるべきであろうと、カイトはそう考えて実行に移すことにした。
「まずは【遊び人】らしく、遊ぶか!」
と言って、遊びを考える。
そうは言うものの、日常の全てが訓練で、それが力になる世界では娯楽というものは存在していなかった。
「することがない・・・。」
娯楽はないし、憧れだった魔法は【見習い戦士】を成長させて【魔法士】にならないと習得できない。
魔力を使った【魔力操作】は【無職】で覚えられるが、ただ体内の魔力を動かすことができるだけだ。
「みんなの邪魔はできないしなぁ・・・。」
孤児院の同い年はみな基本職を得て、それぞれの職場で働いている。年下は基本職を得るための訓練中だ。
一人遊びでいいのであれば、この半年で上がっているはずであるし、読書なども効果はないのだろう。
「あと考えられるのは・・・憧れのダンジョン?」
ダンジョンに行ってみたいという欲求は常にあった。ただ、レベル1の基本職よりも確実に弱い【遊び人】では、行っても死ぬだけだと避けていた。
「半年訓練してきたし、少なくとも逃げる事はできるはず・・・。それに『スライムダンジョン』の1階なら『ベビースライム』しか出ないし。」
ダンジョンにはランクが存在し、ランク1からランク7まで確認されている。スライムダンジョンはもちろんランク1のダンジョンだ。
ダンジョンを初めて攻略すると、そのダンジョン周辺の、ダンジョンのランクに応じた土地を得ることができ、その権利を継承していくことも可能だと言われている。
ダンジョンの攻略とはそのダンジョンの最下層に存在するダンジョンコアに触れることを言うが、所有者のいる土地のダンジョンは、他の土地所有者しか攻略することは出来ない。
領土の拡張はダンジョンの攻略と同義であるため、ダンジョン周辺にはその規模に応じて集落が作られる。
カイトの住む国、シルファリアの王都はランク6のダンジョンを中心に作られており、世界有数の大国である。もちろん周辺のダンジョンは全て王国の管理下にあり、その数は50を超えると言われている。特にランク3を超えるダンジョンの集落は都市と呼ばれ、王に管理を任された貴族によって治められている。ランク1やランク2のダンジョンは、得られる土地が少ないこともあり、それ以上のランクのダンジョンの支配地域にも存在し、基本職や、その上位である中級職の訓練の場として使われている。
ダンジョンにはそれぞれ特色があり、環境が統一された『環境ダンジョン』や、出現するモンスターの種族が統一された『種族ダンジョン』、侵入に職業や武器、人数などに制限のある『制限ダンジョン』などが存在する。
カイトが潜ろうとしているスライムダンジョンは【種族ダンジョン】のランク1ダンジョンである。
「最弱モンスターのベビースライムなら勝てるはず。やり直しが効かないゲームだと思ってやってみるか!」
ゲームというのは遊びだろう。それならやってみる価値はあるはず、とカイトはそう考えた。
「実際モンスターなんて前の世界にはいなかったし。スライムをひたすら倒して強くなる話もいっぱいあったし、それを目指すのもありじゃない?」
若干の恐怖は拭いきれないものの、それ以上のワクワク感に胸を躍らせるカイトだった。
そしてこれが、【遊び人】の成り上がりの序章となることをカイトはまだ知らない。
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